2013年10月21日月曜日

【ジブリ】 いまごろになって「風立ちぬ」の2回目を観た感想

2013年も暮れが押し迫って参りました.2013年10月期アニメの出来は果たしてどんなか、わたしはまだチェックしてませんのですが、2013年はアニメ作品が豊作な年でした.近年の収穫だったというアニメは、
  2011年     「まどか☆マギカ」
  2012年     「謎の彼女X」
  2013年     「ヤマト2199」「言の葉の庭」「風立ちぬ」
2013年はアニメ的にはすごい一年だったのかもしれません.さらにもうじき「まどか☆マギカ続編」もありますしね.

さて、今頃になって「風立ちぬ」にはまっているわたしです.「風立ちぬ」はわたしが依存症になるパターンでして、ラストに向けて加速度をつけて盛り上がる映画です.(判らない人にはあの映画のどこに盛り上がりがあるのかと驚かれることでしょうが)    本日の渋谷TOHOは9:30の回に10人ぐらい客がいました.前売り券の消化なのかな?  以下は2回目を観ての感想です.ちなみに1回目の感想は先日書いたこちら.  http://hirasaka001.blogspot.jp/2013/10/blog-post_15.html

「風立ちぬ」をどのようにアニメ史に位置づけるか?
キーポイントは、ジブリの設立前~ジブリで映画制作~宮崎がジブリを卒業するまでの期間に、どのような意図でジブリが運営されたのか?にあります.

宮崎駿は男のリビドーを動機とした時に優れたアニメを作れる作家です.スタジオジブリを立ち上げる以前は、男のリビドーで全てのアニメをつくってきました.わたしが宮崎のことを神のごとく崇めるのは、男のリビドーで作った作品群に対してです.ところが、作品の出来とは裏腹に、宮崎に厳しい審判が下されました.宮崎が作った作品はどれも全然ヒットしなかったのです.男のリビドーの最高傑作である「カリオストロの城」は、興行的には失敗し、宮崎は仕事が無くなってしまいました. (宮崎駿の作品履歴の記事を参照)

当時から宮崎の才能を買っていた鈴木Pは、なんとか宮崎を世に出したいと考え、「ナウシカ」を制作し、徳間や日テレとのタイアップも奏功して「ナウシカ」はまぁまぁの成績を納めました.
その余勢で宮崎と鈴木Pはスタジオジブリの設立へとなだれ込みます.宮崎作品は企画を通すのが難しく、「ナウシカ」みたくこの指止まれ的にアニメ制作できる幸運はもう巡って来ないでしょうから、自分でスタジオを作るしかないのは自明だったのでしょう.

さて、ここで宮崎と鈴木Pが話したことの中に、「宮崎アニメを売るにはどうするか?」もあったはずです.そしてその後の宮崎作品の運命を決定づける恐るべき結論が導き出されたのです!
  ・宮崎アニメのすばらしさは男のリビドーだが、
  ・宮崎アニメが売れない原因は男のリビドーである
  ・スタジオ設立するなら売れ続けることが必須である
  ・今後の宮崎アニメは男のリビドーを封印すべきである
  ・ジブリは女性にウケる作品だけを作る
  ・それでも宮崎駿の才能は発揮されるはずだ     by鈴木P
  ・アニメを作れるならそれでも構わない     by宮崎駿
スタジオジブリを維持するために、マーケティングから演繹されたこの方針は合理的ですが、男のリビドーを封印した宮崎アニメからはかつての輝きは失せました.それがジブリ時代の宮崎駿の後退の根本原因だったのです.もちろんそれはわたしの推測ですが、当たっている自信があります.というか「風立ちぬ」を観て確信しました.

男のリビドーを封印した帰結として、男子と女子の単純明快な作品を作れなくなって、作りたい物が無くなった宮崎は、得意ではないテーマ物に走ろうとしましたが、複雑さに負けて散漫な作品ばかりになってしまいました.例外的に「ラピュタ」は男子と女子の単純明快な作品でしたが、過去の焼き直しで物足りない作品でした.女性ウケを狙って成功したのは「魔女宅」でした. 「ハウル」とか「ポニョ」の頃の宮崎はもうジブリを維持する義務だけで制作していたんじゃないかとわたしは思います.鈴木Pが作れ作れとうるさかったんでしょう.

やがて、宮崎はもうこれで最後にすると言い張って、鈴木Pのコントロールも効かなくなって、ジブリの卒業制作として再び男のリビドーで最期のアニメを作った.それが「風立ちぬ」だったのです.ジブリの禁を犯して先祖返りした宮崎アニメである「風立ちぬ」は、女性にはウケますまい.描かれているのは、航空機オタクの片手間で恋愛している男子の生き様ですから、女子視点からは迷惑なハナシなはずです.しかもそんな男子を是とする便利な女子が奥さんですから、余計に面白くないと思われます.

でも、男子視点では仕事も好きだけど菜穂子のことも好きなわけで、異質の2つの物事を同時に好きになるのは男子にとっては矛盾ではないのです.
押井守が「うる星やつら」で描いた諸星あたるみたいな男子の浮気性を、宮崎駿が最期の作品で描いたっていうのはどういう巡り合わせなんでしょうね? 宮崎駿自身の人生を投影した設定でもありましょうが、興味深いものです.

風立ちぬの時代背景は少々ごちゃっている
堀越が軽井沢に旅行に行ったのはたぶん昭和8年頃かと思われます.軽井沢で謎のドイツ人と世界情勢について話すシーンでは、日中戦争とか日独伊三国同盟とか国政連盟脱退と思われる話題が会話に出てきますが、そういうのは史実では数年後の出来事です.
満州国建国             昭和7年
堀越の試作機墜落   昭和8年(たぶん)
堀越の軽井沢旅行   昭和8年(たぶん)    謎のドイツ人との会話シーン
国際連盟脱退          昭和9年
九試単座戦闘機       昭和10年           ラスト直前の飛行シーン  (たぶんこの年菜穂子死去)
日中戦争                昭和12年
ゼロ戦試作機          昭和14年
日独伊三国同盟      昭和15年
真珠湾攻撃             昭和16年12月
日本降伏                昭和20年8月          ラストの夢のシーン(たぶん)

庵野が感動したラストとは?
庵野がラストで感動したというようなことをインタビューで言ってました.ラストでカッペリーニ氏や菜穂子と会うシーンは終戦後、昭和20年の秋頃に堀越が見た夢なのでしょう.わたしもこのラストは大好きです.このラストのポイントは、
1) 九試単座戦闘機開発が昭和10年.その直後のシーンで昭和20年の秋まで時間が飛んで、「一機も還ってこなかった」のセリフにまで跳躍する.その省略された膨大な行間を想像させるところがいい.昭和史に詳しくない人には肩透かしなのだろうけど、わたしはこのすっ飛びは大好きです.大戦をいちいち描いたら「ヤマト」になってしまう.描かなかったところがイイ.
2) 「一機も還ってこなかった」というセリフが含意する様々な意味.このセリフは並みじゃない.
 ・航空技術者の頂点を極めたが、そんな栄光はたかが10年しか持続しない儚いものだ
 ・美しい航空機を作れたかもしれないが、日本を守る役には立たなかった
 ・自分が設計した航空機に乗ってたくさん人が死んだ
 ・自分が設計した航空機の無力さは、自分の前半生の無力さと同義だ
 ・上がったゼロ戦の半分も還って来なかった場面を目撃した
 ・菜穂子すら自分の元に残せなかった
 ・菜穂子の最期の時にすら十分に一緒に過ごせなかった
 ・自分には何も残っていない
3) 「空は全てを食い尽くす魔物だ」とカッペリーニが言うが、宮崎駿や庵野にとっては「アニメ制作は全てを食い尽くす魔物だ」となる.    <=== 庵野はここに感動したりして?
4) 菜穂子の「生きて」が、水中ラナちゃんの「生きて」に不気味なほど瓜二つだったこと.菜穂子の作画って、不思議とラナ似なんです.しかも「生きて」だもんなぁ.大人になったラナに再会したような気がしました.   ==>次項参照

菜穂子=大人のラナちゃん
「風立ちぬ」の作画は、近藤勝也がやった「魔女宅」などに比べると、安定感を欠きややもっさりしたキャラになっています.そのもっさり感をわざとやったのかどうかは不明ですが、菜穂子を見てるとそのもっさり感が「未来少年コナン」のラナだなこりゃまるで、と思わずにはいられません.↓これは水中ラナちゃんの「生きて」のシーンですが、菜穂子の「生きて」と異様にカブるので、ガクガクブルブルです.ベッドで抱きしめ合っている菜穂子がラナに見える自分を止められません. わかる人にしかわかるまいが、、、    (ラナちゃんの「生きて」は30秒あたりです)
意外に大人しかったエンディング
宮崎アニメはエンディングで後日譚を語ることが多いです.「未来少年コナン」はオープニングが後日譚でしたが、「ナウシカ」のエンディングではクシャナが兵を引くシーン、「魔女宅」では業務に励むキキ、「もののけ」ではサンが山に帰る、などが描かれました.
「風立ちぬ」のエンディングは、背景画だけと寂しいエンディングでした.まぁズタズタの昭和20年へ跳躍して後日譚を語るもなにも無いわってことなのでしょう.また、カッペリーニと逢うラストの夢がいわば後日譚なわけですから、そのさらに先の後日譚なんか描きようがないのはわかります.
しかし、最期の長編のエンディングですから何か一工夫が有ってもよかったのではないか? 宮崎がゼロ戦に夢見た美しさをエンディングで少しだけ描いて欲しかった.たとえば宮崎視点で描くゼロ戦格闘戦シーンをたとえ5秒でもいいから描いて欲しかった.そうすれば誰にも越えられない空戦になったことでしょう.

#たぶん3回目を観るでしょう

かしこ


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2 件のコメント:

  1. おお!!私は、軽井沢の池の畔で告白するシーンを、クラリスとかぶせていました。
    クラリス、やっと『恋を成就させた』・・・と

    また、飛行機好きの堀越二郎は、、まるで魔女の宅急便のメガねくんに見えました。
    飛行機好きで、やはり魔女が気になるなんて、あのときのままだなー・・・などと考えていました。

    話自体は御存知と思いますが、作者の『堀辰雄』氏の経験を戦闘機設計の堀越二郎氏にかぶせたものらしく、実際の堀越二郎氏の奥さんは健康だったそうで、作者堀辰雄氏の初恋の人が、結核で亡くなったそうです。

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    1. なるほど、胸もとで手を握って下を向く仕草ですね.たしかにクラリス~.
      そういえばメガネ君みたいです.「魔女子さーん」.
      こんど未来少年コナンをお渡しします.

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