2016年6月24日金曜日

サイモン・シン 「宇宙創成」 読了

わたしの子供の頃--1970年代--天体望遠鏡は少年誌の通信販売広告に必ず掲載されているアイテムでした.もちろん自分でも天体望遠鏡を欲しかったけど、子供が運用するには難しい装置だと思われ、「天体望遠鏡買ってよぅ」と親におねだりするほどご執心ではありませんでした.
子供時代のあるとき、天体観測をする大人に便乗して暗い山の中の駐車場で初体験の天体望遠鏡で木星を見せてもらいましたが、あまり楽しくはありませんでした.大気でゆらゆらする、少し茶色の筋の見えるボヤけた円盤しか見えなかったからです.やっぱりこんなもんだよなと、素人がする天体観測なんていまいちだなぁと思いました.

1980年以後は惑星探査衛星がめちゃ高精細な木星や土星の画像を地球へ向けて打ち返してきて、その濃密な渦に目を見張りました.天王星の画像なんか宇宙が深すぎて怖かった.やがてハッブル宇宙望遠鏡が驚くほど高精細で濃密な星雲の画像を打ち下ろしてきて、これだけ濃けりゃ星が生まれちゃうわけだわと妙に納得したりしました.

そうやって宇宙観測衛星の画像がありふれたものになるのと反比例して、子供が欲しがる天体望遠鏡というマーケティングも廃れていったように思われます.自前の天体望遠鏡で見る星々なんかじゃもう満足出来なくなりました.

「宇宙創成(下巻)」に登場するあまたの天文学者達は、望遠鏡で覗き見る星々がまだ超絶ファンタスティックだった時代で、ロサンゼルス近郊にある100インチ望遠鏡が天文学の最終兵器だった頃の人々です.

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「宇宙創成」読了しました.

下巻の内容がどこまで行ったかというと、この流れでした.
赤方変移 → ビッグバンと定常宇宙 → 元素合成 → クエーサー → 宇宙背景輻射 → ビックバンの勝利
意外に古典的なシーンで終わったなという印象で、その後に発見された、ダークマター、加速膨張、ダークエネルギーについては本編では語られず、エピローグにて筆者の語りという形で紹介されるに留まりました.それもそのはず、邦題こそ「宇宙創成」ですが英題は「ビッグバン宇宙論」だったのだとあとがきを読んで知りました.

下巻ではビッグバン宇宙モデルと定常宇宙モデルの論争を巡るエピソードが描かれます.わたしなどは物心ついた頃からビッグバン宇宙モデルの時代を生きてきたのでビッグバンなんて当たり前だと思っているのですが、わたしよりもほんの20年前に生まれた世代にとっては天動説と地動説のような真剣な議論の対象だったと本書で知りました.
その点についておもしろい記述があります.
  1959年  ビッグバン支持天文学者 33%   定常宇宙支持天文学者 24%  保留 43%
  1980年  ビッグバン支持天文学者 69%   定常宇宙支持天文学者   2%  保留 29%
1959の分裂状況は理解できますけど、時代が下って1980年になってもビッグバン支持がたった69%しか居なかったのだそうです.

ビッグバンの存在証明としてダメ押しの一撃になったのが宇宙背景輻射のゆらぎ(右図)であり、衛星観測でそれが成就したのはようやく1992年になってでした.つまり、ビッグバンがあたりまえになったのは意外にも最近の出来事だったのですね.(全然物心ついた時代であった)

宇宙背景輻射のゆらぎというと、写真上のCOBEが1992年、下のWMAPがたぶん2003年、解像度が全然違いますな.ゆらぎは10万分の1しかないので衛星じゃないと観測不能だそうです.ちなみにCOBEは7000万回の同期加算でノイズを除去したんだとか.どひ~

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「宇宙創成・上下巻」通して、個人的にどうしても納得できなかったネタがひとつ.それは銀河までの距離の測定方法です.

Ia型超新星を待ち構えて銀河までの距離を測定する方法は比較的あたらしい手法で、Ia型超新星はどれも同じ光度で光るので距離を逆算できます.超新星の一種ですからメチャ明るいので遠くの銀河も観測できる.

一方で古くからある、といっても1940年ごろからですが、セファイド変光星の周期で距離を計算する方法があり、こちらはフツーの星ですからあまりにも遠い銀河の観測はできません.それでもアンドロメダのような近隣の銀河なら、その中に居るセファイドを望遠鏡で観測できるそうです.しかもハッブルの時代に100インチ望遠鏡でアンドロメダのセファイドを発見したという、、、それってマジ???
納得いかないものの、近隣の銀河に所属するセファイドを観測した写真がこれです.地上の望遠鏡にそんな解像度あるのか?とビックリしちゃった.

つぎは、「暗号解読」を読み始めたところよ.

かしこ


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2 件のコメント:

  1. 暗号解読の方はお気に召されましたでしょうか?

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    1. 現状、スコットランドのメアリーさんが処刑されたあたりまで進んでおり、とても楽しく拝読しとります

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