D級アンプの構成要素として、どうやってビットストリーム変換しているのか?を昨日は調べました.デルタシグマ方式だけじゃなくて、三角波タイプのD級アンプICが多数出回っているようですが、そんなんで音質は大丈夫なのかなぁ? 12bit相当ぐらいの音しか出てねぇんじゃね?と心配になります.24bitハイレゾ音源を12bit相当のダサいD級アンプで聴いてたとしたら笑ってしまう.
ひら的には、D級アンプについて2つ目の疑問がありました.それは、フィードバックはどうやってるんだろうね?でした.
驚くべきことに多くのD級アンプICは、言ってしまえばフィードバック無しです.(高級AVアンプまでもがそうなのかは不明ですが)
それはどういうコトかというと、ビットストリーム変換した後は、そのままFETをON/OFFさせてスピーカを接続してそのまんま行って来いよ~です.これがAB級アンプですと、スピーカ出力端子から、グルッとフィードバックしてますよね.なんか、D級アンプのひずみ率は永久にAB級アンプ未満で終わりなんじゃないかと心配になっちゃった.
ところが、世の中にはけったいな回路があるものです.それは、、、
1)D級アンプである
2)スピーカー端子からフィードバックする
3)自励式である (発振器内蔵せず)
なんかもう最初は意味が判りませんでしたよ.
そのけったいなD級アンプは「Ucd方式」と呼ばれ、Pilipsの特許のようです.こちらのページが参考になります.http://innocent-key.com/wordpress/?page_id=1400
【Ucd方式D級アンプ回路】
さて、何から説明しましょうか? いきなりSpiceで動かした回路を出しましょう.
#わたしはLTSpiceを使っています.IRS20954のSpice modelの入手先はこちらです.ユーザー登録が必要です.irs20954.zip (5.2 KB, 293 views)というのがそれです.
http://www.diyaudio.com/forums/class-d/83899-new-half-bridge-driver-ic-gnd-referenced-input-4.html
回路の特徴を記します.
・どこにも発振器がありません.
・一番左の発振器は1kHzの音声信号入力を発生させるものです.
・フィードバックのCRはAB級アンプで見かけるタイプと類似しています.元を辿ると確かにスピーカー端子からフィードバック信号を引っ張ってきています.
・いきなりコンパレータがあります.入力音声信号と、フィードバック信号を比較しています.これでいきなりビットストリームを生成しています.
・グリーンで囲った部分は保護回路なので無視してもらうと、FETドライバであるIRS20954がFET前段に在ります.
・終段MOS-FETがあります.高周波スイッチングを平滑化するLCがあります.その後の4Ωはスピーカー負荷としてつけてあります.
さ~て、これで動いてしまうD級アンプって理解できますか???
【自励発振の仕組み】
まず、どうして自励発振するのか?
ぶっちゃけ、このアンプは、わざとピーピー発振するように作られています.それを自励発振と言えばそうとも言える... ここで「超再生」とうめき声を発した貴方、是非お友達になりましょうw
上のSpice回路で、500kHzぐらいで発振するかな?
もちろん、500kHzでフィードバックループが正帰還になってしまうのは、失敗アンプが発振する理屈と同じです.位相遅れ要素(遅延要素)がどれなのか?を考えて見ますと、これが全部なんですよ.
1)コンパレータのTpd
LT1011というICを使っています.カタログスペックでは0.15uSecのTpdがある製品です.LT1011なんて古い型番だし、もっと高速のコンパレータに変えてみたくなるのが人情ですけど、それをやっちゃうと発振周波数が高くなりすぎて動かなくなってしまいます.LT1011必須という回路なんです.温度上昇で発振周波数が変わってしまうでしょうね.
2)FETドライバのTpd
カタログスペックはチェックしてませんが、このTpdに発振周波数が影響されるのはいわずもがなでしょう.温度上昇で発振周波数が変わってしまうでしょうね.
3)高周波スイッチングを平滑化するLC
LPFをキツくしようと、22uH→68uHに変えたりすると、発振周波数が変わってしまいます.
というわけで、自励発振周波数というキースペックが、パーツや温度依存で変化してしまうというリスクを抱えた回路なんですね.
【PWM変調の仕組み】
これは動作波形を見るのがよいと思います.
↓回路図のPWMとSPKの波形です.電源電圧=±30VなのでPWMは±30Vでビシバシ振れています.
↓PWM変換が何故上手く働くのかを観察するためにコンパレータの入力波形を見ます.ピンクは入力音声信号で、グリーンはフィードバック信号です.
へ~、フィードバック信号はこんな波形なんだ?と思うと思いますが、±30VのPWMをLCフィルタで平滑し、さらに抵抗分圧したのでこんな波形になります.フィードバックの結果として振幅は両者ほぼ同じです.
ただし、フィードバック信号には少しPWMの残滓があります.これが重要です.
両者を重ね合わせて1,2,3の場所を拡大してみます.
↓まず1の場所の拡大です.PWM残滓に対して、入力音声信号が上ブレしてますね.このせいでPWM dutyが100%に近づきます.
↓電圧0である2の場所の拡大です.PWM残滓の中央部を入力音声信号が横切っています.このせいでPWM duty=50%になります.
↓3の場所の拡大です.PWM残滓に対して、入力音声信号が下ブレして横切っています.このせいでPWM dutyが0%に近づきます.
以上のようにして、自励発振し、PWM変換までもがつつがなく行われるようです.なんつう微妙な回路でしょうか?
【この回路はデルタシグマ方式と云えるのか?】
そうだと云えそうです.
↓デルタシグマ方式ADCのブロック図はこれです.
↓このD級アンプの構造はこのようになっており、回路要素の順序は違いますが、等価だと云えるように思います.
【ひずみ率(THD)検証】
SpiceでTHDを計算しました.
↓スタートのこの回路でTHD=0.2%と悪い値でした.丸の部分がTHDに影響する場所です.
↓丸の部分の定数をいじってTHD=0.01%まで改善した状態です.
①~⑤でどうしてTHDが変化するのか?
①コンパレータ入力電圧を上げると良い.
改善版回路は、フィードバック抵抗でアンプゲインを下げました.その代わり入力音声信号を大きくしました.結果として、コンパレータ入力電圧が大きくなり、コンパレータ動作が安定したと推測します.
→D級アンプには大きな電圧ゲインを期待しない方が良さそう
②コンパレータ出力Rを小さくすると良い.
そもそもこのLT1011はオープンコレクタ出力なのでTrise/Tfallが非対称になりがちな懸念があります.せめてオープンコレクタの波形のキレを良くするためにPULL-UP抵抗を小さくしてみました.
→コンパレータに改善余地がある
③FETのデッドタイムは少ないほうが良い.
ICの仕様の範囲でしかデッドタイムを可変できません.デッドタイムが45nSよりも15nSの方がTHDが小さくなりました.
→FETドライバに改善余地がある
④出力LPFの時定数、FETパラCR
何に影響しているかというと、コンパレータ(-)へ与える信号の波形を改善しています.正弦波に近づけている効用なのか、三角波に近づけている効用なのか、良くわかりません.一方向的な改善ではなくて、最適値があるという悩ましい状況です.
→フィードバック波形に改善余地がある
⑤電源電圧を30V→100Vに上げると良い.
・電源電圧±30Vでスピーカー出力±15Vを得る. PWM変調度大
・電源電圧±100Vでスピーカー出力±15Vを得る. PWM変調度小
→無理の少ない後者の方がTHDが優れるようだ
いずれも言われてみれば当然だよねという物ばかりでした.
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