2019年10月15日火曜日

アニメ「空の青さを知る人よ」 正直なところ残念だった(ネタバレあまりなし)

楽しみにしていた劇場アニメ「空の青さを知る人よ」を観ました.

意気消沈しているところです.

なんで意気消沈しているのか? 最初にその理由を簡潔に述べましょう.
長井龍雪が、新海誠というカテゴリの一部分になってしまったから


「空の青さ」を観ていて色々なことが去来しましたよ.

わたしが長井龍雪という演出家を認識したのは「とらドラ」でした.ラストの方の激しい感情表現がTVアニメを超えてるじゃんと思いました.それで演出は誰なんだろう? 長井龍雪でした.とらドラが彼の出世作じゃないかな?

「とらドラ」は2008~2009年の作品でした.

その後の長井龍雪は、優秀な作品をどんどん産み出しました.
2011年 「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」
2012年 「あの夏で待ってる」
2015年 「心が叫びたがってるんだ。」

ところが失敗作がこれ.
2015年 - 2017年 「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」

ガンダムの失敗からリカバリすべく、得意な青春感動路線に戻ったのが今日の作品です.
2019年 『空の青さを知る人よ』

ヒラサカ的には、長井龍雪のフィルモグラフィーに新海誠を重ねてしまうんです.
実際に重ねてみましょう.
2011年 「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」
2012年 「あの夏で待ってる」
2013年 「言の葉の庭」  新海誠
2015年 「心が叫びたがってるんだ。」
2015年 - 2017年 「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」
2016年 「君の名は。」   新海誠
2019年 「天気の子」    新海誠
2019年 「空の青さを知る人よ」

長井龍雪が活躍したのと同時期に、新海誠も活躍しています.しかも青春感動路線という似たようなカテゴリでです.その新海誠は興行収入250億円プレイヤーにのし上がりました.

ひら的には新海誠よりも長井龍雪が高能力と信じています.なので「空の青さ」で興行収入100億円は高望みだとしても、50億円ぐらいはイケーッと期待していたし、それよりもなにより新海誠とは別の立ち位置でアニメ業界に地歩を固めてほしかった.それくらい長井龍雪になら出来て当然だと思っていました.

だけど、、、「空の青さ」はあまりにも弱かった.
「空の青さ」だと新海誠カテゴリの一部分にしかなれていない.

意気消沈しているのはそういうことなのです.もう少し頑張れなかったか?と.

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劇場作品としての基礎体力面で「空の青さ」は「天気の子」に負けています.

「空の青さ」は画角が狭いんです.
「天気の子」などは、画面の画角が広くて、つまりロングショットが多くて、かつクレーンカメラで撮影したかのような背景の引っ張りが多用されていて、映画っぽい贅沢な絵作りだあなぁと、しみじみ思うんです.
しかし「空の青さ」を観ていると、固定カメラのアップショットの連続で、あれだとTVアニメの絵作りなんですね.予算うんぬんというよりも監督の興味の向く方向の違いなんでしょう.

それと、「空の青さ」はカタルシスが不足でした.
過去の長井龍雪作品ならばそんなことはなかったです.畳み掛けるような激情に押し流される形でラストを迎える演出が上手かった.
ですが「空の青さ」はちょっとばかし難しい感情にフォーカスしちゃった気がします.ネタバレなので詳しくは書きませんが、幽霊みたいな存在を好きになってもその感情にケリをつけるのは難しいでしょう.
新海誠の最近の2作品には、無理やりひっつけたようで納得はしていませんが判りやすい形でのカタルシスは用意されています.カタルシスさえあればよいとは言いませんけど、次回作のオファーを頂戴できるだけの興行収入を得るためにはカタルシスを適切に盛り込まないといかんでしょう.
「空の青さ」からはカタルシスよりも「難しさ」が印象として残ってしまいました.

「空の青さ」のラッシュを観た出資者達は「まとめる能力は新海誠が上だな」と冷淡に観察したんじゃないでしょうか?

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しかしまぁ、よくも新海誠に似たような設定の物語をこしらえたもんだなと思ってしまいます.

新海誠設定のパターンは「田舎から脱出したいやさぐれ主人公」です.過去を捨てたい主人公と言っても良いかもしれません.過去を捨てたい想いが物語を先へ進ませてもいます.そういう設定は単純明快で、劇場作品に適すると思います.

「空の青さ」の主人公も、秩父を脱出して東京へ出たい女子なんですが、彼女が東京へ出たい本心は自己実現のためというよりも、姉を解放してあげたいからなのですから少し複雑です.その複雑さを物語に上手く生かせたかどうかが重要ポイントなのですが、あまり上手くまとまった気がしません.
さらに、物語に絡んでくる男子は、秩父から脱出したものの夢破れてやさぐれている31歳という複雑な設定です.彼は結局、秩父にUターンして、昔から好きだった女と結婚します.
設定が複雑なだけに劇場作品としてまとめるのが難しかったように思います.また、Uターンして幸せを得るstoryってどうなんでしょうか? カタルシスとは縁遠いかもです.

新海誠に似た設定でありながら、設定を複雑にしすぎて上手く回収できずに尻切れ気味でした.

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姉さんの存在感があまりにも大きすぎて、長井龍雪お得意の群像劇になれてませんでした.
←感動のピークはここ


てなわけで、長井龍雪が新海誠カテゴリの一部分に落ちてしまった、というのが「空の青さ」の残念なところでした.長井龍雪と岡田麿里は老け込むのが早すぎるな.え~ん、、、

#新海誠が偉く思えてきた

かしこ

5 件のコメント:

  1. 宇多田ひかると倉木まいみたいな感じですかね。

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    1. あははー、上位互換というか.でも喩えが古いなぁw

      わたしは、ベータマックスとVHSみたいな感じかと思いますがもっと喩えが古い.
      長井龍雪がベータで、新海誠がVHSね.

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    2. そういえば自分の中では歌手のリストの更新がその辺で止まってますね。レモンとか歌っている人の良さがわからないのは自分でもショック。
      なるほど、長井さんが技術的に優れていて、でも新海さんの方が一般に受け入れられているという感じですかね。

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    3. 新海誠は、かなり自分を殺して、アホな観客のレベルを査定して、きちっと売れるものを作っている.ただし新海誠にオリジナリティは少なくて、日本のアニメ制作リソースを活用して画像のクオリティを最大化させることには長けている.劇場作品というパッケージをまとめることに長けている.プロの中のプロだ.

      長井龍雪にはきちっとオリジナリティがあると思う.
      だが本作は興行収入がはかばかしくなく終わるだろう.それが長井のやりたいことをやりまくって討ち死にしたのならファンとして納得のゆく死に方だ.
      だが、どうも本作の長井は何をどう作るかに迷って煮え切らなくて完全燃焼できずに死んだ感じがする.

      押井守は、映画監督にとって最重要なのは「作り続けること」すなわち「次回作のオファーにありつくこと」だという.

      長居は次回作のオファーにありつけるのだろうか? 心配でぇす.

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    4. ミーハー雑誌「CUT」に超平和バスターズ3人衆のinterviewが載っている.
      「ここさけ」をまた作るわけにはいかないというようなことをしゃべっていた.
      それはわかる...

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