2019年12月17日火曜日

【にわかAVマニアの闇】出川式電源の考察

当ブログ読者の方の指摘により、出川式電源というのがあると最近知りました.

AC整流回路の一種なのだけど、リップルが減るのでアンプの音が良くなるという回路です.

どういう回路でどういう理由でリップルが減り、どういう理由で音が変わるんだろう? そんなことを考えてみました.

同整流回路の特許出願者は出川三郎という人で、関連する特許はいくつかあるようです.そのうちの一つは、これだと思われます.
  出願番号2005-133046    公開番号2006-288180
  https://astamuse.com/ja/published/JP/No/2006288180

特許文書の冒頭の言はこのようになっています.
ダイオード整流時の、負荷に電流の流れない時間帯に、補助電源回路を設けて負荷に欠落した電流を流し込むようにする。
言いたいことは理解できます.
それでリップルが減るのも理解できます.
ただし、その回路で音がスゲー良くなったとお喜びの声多数な人にはイエローカードかな.....

特許文書掲載の回路はこうです.
D0による半波整流回路はまぁ従来通りですが、D1D2C1からなる脇道が特徴です.D0のOFF期間にD1D2を経由する電流がチビチビとお助けしてくれるのでリップルが減るという原理ですね.あーなるほど、と思います.
それでは、本当にリップルが減るのかを回路SIMで検証してみましょう.

↓まずは通常の半波整流回路の状況偵察からやります.
D1C1が整流及び平滑回路を構成しています.
R1は負荷.
R5C3はリップルフィルタを構成します.
↓電流電圧SIM結果です.
ピンクはD1の電流です.黄色はC1の電圧です.R1負荷を大きめにしてあるので電圧リップルは大量に生じています.
ここで注目点は、ピンクの電流が一瞬しか流れていないところです.使っちゃった電力を、ほんの一瞬の20Aもの巨大電流で充電しようとするのが整流回路の挙動です.
この電流電圧の挙動は一般的理解ですのでなんら不思議な点はないんです.
↓リップル電圧を読み取りやすくするため、R5C3によるリップルフィルタの出口でリップル電圧を観測してみます.(観測点はC3)     リップル電圧は575mVとなりました.

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次は出川式電源(もどき)の回路です.特許を読んでも完全には再現できなかったので、迂回経路からイイ感じの電流が流れ込むよう脚色した回路です.出川氏の回路とは厳密には違うでしょうけど、整流電流電圧について出川氏の着想と遠からじだと思います.
↓ポイントはいくつかあります.
 1)D2D3の経路が電流迂回ルートとして追加された
 2)平滑コンデンサはC1+C2=1000uFとし、トータルで上の半波整流回路と同じ容量
 3)L2は充電電流を平坦化するため
 4)D4D5D6で電圧降下させることで迂回ルートの寄与を大きくする
↓電流電圧SIM結果です.
L2の電流です.L2の寄与により電流がマイルドになり、ダイオードON期間が長くなり、充電電流ピークは7.2Aと小さくなっています.従来回路ではこれが20Aでした.
↓D1電流(ピンク)は1.5Aになりました.迂回ルートのD3電流(緑)は基本的に流れっぱなしでaverage 1.0Aぐらいです.C1電圧は黄色です.
 ↓R5C3によるリップルフィルタの出口でリップル電圧は338mVとなりました.これは上でSIMった575mVの59%です.半分まで行って無いけど、定数調整すればもっと追い込めると思います.

というわけで、迂回ルートからの電流お助けという出川式電源の根本部分をヒラサカは信用します.リップルが約半分になるという点も信用します.


だがしかし、リップルが半分になるという整流回路単体のSPECが達成されても、それで音が劇的に変わるものでしょうか?

出川式電源を高評価する人は「ベールが剥ぎ取られたかのように音がクリアになりました」と絶賛する人もいるようです.

いやいや、それは高価な壷のご利益っていうものじゃぁないか?

出川式電源によってハム音が-6dBになるのは確かにその通りの効果があるでしょうけど、音がクリアになるはずがない.まずそう疑うべきでしょう.現象を見て絶賛する前に立ち止まって考えるべきでしょう.

どこかのユーザー宅で「出川式電源導入によって音がクリアになった」のが事実である可能性は高いと思うんです.そこを否定してしまってはただのイチャモンになってまうー

ならば出川式電源による音の改善との因果関係は何なのか?

それについてヒラサカの見解はこうです.
上のSIMで、
 ・通常の半波整流回路のピーク電流は20Aだった
 ・出川式もどき回路の整流電流ピーク電流はは7.2Aだった
ここが想定外に音が変わった原因なのではないだろうか?

20Aの電流がアンプの筐体に誘導電流を誘起し、筐体を経由して入力へおかしなfeedbackがかかって音を濁しているのではないか? つまり本質的問題は、筐体と電源配線が電磁誘導的にあまり強靭とはいえないパワーアンプであるという点なのだが、そういう脆弱性が出川式電源(7.2A)によって軽減された結果、ベールが剥ぎ取られたかのごとく音質が改善した、、、そういう風に冷静に考えたらどうでしょ?
(電源リップルがPSRRを突き抜けて混変調歪みを惹起するとかいう仮説よりマシなんじゃね)

理論的にありえないことは起きません.
もし起きたとしたら、それは測定系に(パワーアンプに)瑕疵があるからなの.
繰り返しますが、出川式電源に回路的なウソはないと思います.
ですが、出川式電源ってサイコーって舞い上がっている人はオーディオ業界の闇に取り込まれている人だと思います.

かしこ

7 件のコメント:

  1. 電圧にもよるんですけどスーパーキャパシタなり小さい鉛蓄電池なりを突っ込めば即座に「ベールが剥ぎ取られたかのように音がクリアになりました」になるんでないの?
    電源の応答速度とかインピーダンスとかは確かに大事だと思いますが、アキフューズのA級メインアンプを使っていた身としては大きな声で言いたい。んなもん変わらねーよ。

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    1. アキュフェーズについてはお悔やみ申し上げますw あそこまでやっておきながら....

      電気二重層コンデンサだとパワーアンプ用途には電圧が足りないと思いますが、鉛蓄電池は大電流を取り出せるのでイイんじゃないでしょうか? リップルもないし.

      出川式電源が着眼する間欠チャージ問題の解決にはSW電源の数100kHzのチャージもありじゃないかなと思うんです.
      ACの半波整流回路が20mS間隔で20Aでチャージするのと、
      100kHzのSW電源が10uS間隔で10mAでチャージするのと、
      これって平均電流としては同じってことで.

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  2. いつもの通りすがりの人2019年12月31日 16:11

    またまたご無沙汰しております。
    出川式電源の検討、ありがとうございます。

    まぁ、特許情報には、いろいろ「ご託宣」が書かれてますが、
    それが「そんなに音に寄与する」とも思えないんだよな・・・
    なので、平坂説(筐体誘導電流説)もかなり信憑性が高いとは思いますが、
    しかし既存のアンプの電源を、件の「出川式電源モジュール」に変えただけで
    音が良くなったという報告もあるので、正直よくわかりませんが。
    (まぁこの世界は「塗装の色を変えただけ」でも、音が変わったりする世界なんで・・・)
    ちなみに、似たような解析を、ここ
    http://mds-el.sblo.jp/article/92042948.html
    でもされてるみたいですね。

    ※色々見てて今気づいたんですが、この回路、最初は
    「コンデンサインプット型」だったんですが、それを、
    「チョークインプット型」に変えただけ(直列Zは誘導性のハズなので)
    とも見えますね。ならば、こういう波形になって当然ですが。
    音もマイルドになるかもしれない。

    >間欠チャージ問題の解決にはSW電源
    「スイッチング電源のアンプ」も、最近(でもないか・・・)結構あるみたいですね。
    ※そもそも、音源がデジタルなんだから、リニア電源にこだわる必要もない気がする。
    周波数を「可聴帯域外」にすれば、何の問題もないハズだし。

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    1. 上のサイトは検討前にわたしも読みました.

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    2. 10万円以下で買えるパワーアンプはSW電源が多いんですかね? みんな重量がヤケに軽いなぁと思ってまして.

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  3. 汚くする原因はスイッチングノイズですよね。
    最近のソーラー用大電流ショットキダイオードが、
    劇的にRFIを減らしてくれるので、
    良くなった感じがします・・感じだけですが

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    1. お久しぶりです.あけましておめでとうございます.今年もよろしくです.

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