日の丸半導体は死にました.そして復活も不可能です.(古いプロセスで細々とはやれるだろうけど先端プロセスは無理)
ITビジネスアナリストの深田萌絵.彼女は日の丸半導体復活のために国策で投資するべきだ、TSMC誘致なんかしちゃだめ、との論調です.大筋で間違っては無いとは思います.
でもねぇ、1987年に電機業界に入り、2010年に「こんなクソ業界に人生投資する価値ないわ」と立腹して足を洗ったわたしとしては、「いまさら日の丸半導体へ国策投資かよ?」とステレオタイプな反応をせざるを得ません.
以下では、日の丸半導体滅亡の理由と、復活の不可能性を説明します.
1)半導体は安全保障に関わる重要産業だから日の丸半導体はUSに撃墜された
大型旅客機産業はUSとEUが二分しています.日本は市場に入れてもらえません.日本の航空産業参入を認めると日本に席巻されてしまうので覇権国としては日本を抑えておく必要があるためです.
半導体もそれと同じ捉え方をされています.冷戦が終わって経済に本腰入れたUSは日本叩きを始めました.日本に半導体の主導権を握らせないように延々と圧力をかけ続けました.
その政治的圧力で日の丸半導体は資金繰りが徐々に悪化し、縮小に次ぐ縮小を重ねた結果現在の死に絶え状態になりました.
2)USの圧力とは何だったか?
1に円高、2に円高、3に円高、4に日米半導体協定.
ここはマクロ経済が判らん人には判らんところです.ヒラサカはリフレ派であり、金融政策最強主義者です.1990年~20年間続いた円高基調の時代には、国内製造業の維持は不可能でした.日の丸半導体斜陽化の最大原因は円高です.
日米半導体協定の骨子は「セットコストの何割かはUS製chipを採用する」でした.ならば高価格chipをボコッとUS製に置き換えて済ませます.最も高価格なchipはCPUでしたので日の丸CPUは消えてしまいました.しかしだからといって、日の丸メモリの商売ができなくなったわけではありません.日の丸ASICや日の丸powerデバイスが強制終了されたわけでもありませんでした.日米半導体協定締結後も日の丸半導体ビジネスは継続可能だったのです.なのにいつのまにやら全滅しました.その原因は円高だったのです.
3)日本政府や日銀は円高を是正しなかったのか?
自民党は産業界と縁が深いので円高に問題意識を持っていましたが、円高を修正する方法を知りませんでした.また、USから円高政策を強要されていたので反抗できませんでした.
民主党政権+白川日銀は、日本を弱体化させ革命を起こしたかったので円高誘導しました.民主党しね、白川しね.
円高を終わらせたのは安倍晋三でした.安倍さんは本当に偉かった.
安倍さんが円高を終わらせることができた理由は2つです.
1に、安倍さんはリフレに政策転換しました.円の大量発行で円安にしたのです.かつての自民党にはこの知恵が無かったので、財政政策ばかりやって効果が薄かった.安倍さんは金融ブーストを最強にして、財政はそんなにやりませんでした.(安倍さんは消費増税で自分の首を絞めましたが)
2に、USを黙らせました.どうやったのか? 中国の危険さをUSに訴えました.自由主義諸国共通の敵は中国共産党だよね、だから日本はUSの主敵じゃないんですよ、円高攻撃はやめてください.円安にすれば中国を不利に追い込めますから、とUSに言いました.
トランプ政権やアセアン諸国が安倍さんを尊敬していたのは「中国を仲間外れにしようぜ」の発起人だからなのです.
4)通産省・経産省は日の丸半導体の復活に何もしなかったのか? しないのか?
何やっても上手くいかなかったのであまり記憶にないだけで.業界再編の音頭取りはいろいろとやってましたよね?
深田萌絵は、2021年の今、経産省主導の産業政策をやれと主張しているわけですが、1990年代から大小さまざまな産業政策をやってきたのに2021年の日の丸半導体死に絶え状態なわけですからいまさら感が漂います.
日の丸半導体を国策で推進するなら、まずUSとハナシをつけなくちゃダメです.
USと話すとしたら、こういう事になるでしょう.
「台湾の半導体メーカーっていったって、あれは中国人ですよ.大陸と島に別れていても漢民族同士でうまくやっていて、USだって体よく利用されてるじゃないですか? ならば日本企業に半導体をやらせてください」
安倍さんみたいな言い草ですが、これでUSが納得するか?
USは納得しないでしょう.USとしては、アンチ中国共産党の橋頭保として台湾政府を大いに利用したいわけですから、TSMCを斜陽化させて日の丸半導体を強化するのを是とはしないでしょう.30年もかけて淘汰した日の丸半導体を復活させたがるわけもありません.
なので、経産省の音頭取りというミクロ経済政策をいくらやっても、太平洋の向こう側からUSが邪魔してくるのですから、日の丸半導体復活は不可能と考えます.
せいぜい古いプロセスでpower FETを作るぐらいが関の山でしょう.
5)台湾資本(浙江財閥系)半導体屋はなぜ元気なの?
これもつまるところUSの安全保障政策ゆえです.台湾企業の経済活動をUSは今のところ自由にやらせています.冷戦時の日本の立場みたいなもんです.しかし、あまりにもTSMCが強大になってしまったので、最近になってようやくインテルにテコ入れを始めましたがね.
日本の自民党にも、台湾系の資金が入っているので、保守派政治家だけでなく全般的に自民党は親台湾政治家が多いです.それもTSMC推しの理由じゃないですか?
6)一方そのころ韓国は、、、
日本が円高になると浮上する国、それは韓国です.円高時代にはゼッコーチョーでした.
でも今のサムソン半導体はずいぶんとシェアを落としましたね.SOCではTSMCの1/3ぐらいに落ちたんじゃなかったかな?
USの安全保障政策からも韓国は信用されていません.
上で述べた、安全保障とマクロ経済で半導体産業の命運は左右される、その法則通りにサムソンも低迷しているわけです.
まとめ
日の丸半導体が復活しない理由はこうです.
・安倍さんのおかげで円高は阻止されたのでマクロ経済環境は好転した
・しかし、安全保障上の理由で、USは日の丸半導体を許さない
・ゆえに、経産省の音頭取り(=ミクロ経済対策)はやってもムダ
・USはインテルにテコ入れ開始 (日本にテコ入れなんかしない)
・台湾半導体は、反中国の陰に隠れてUSからお目こぼしを貰っている
・韓国の正体は親中反米なのでサムソンは無事死亡
結論: 日の丸半導体復活は無理
エイメン