5cmぐらいの小物を打つなら簡単なのですが、15cmを超える大物を打つにはいろいろな障害を乗り越えなくちゃいけないというのが実感です.右の写真のプリントサイズは18x18cmぐらいあります.
今回は3DP自作のノウハウを書きます.「べし集」「べからず集」というわけです.
XYZ軸の強度はあまり要らない
フライス盤などでは刃物の反作用をモロに受けるので軸強度が強くないと動きません.でも3DPは溶けた樹脂を置くだけなので軸強度は弱くても結構平気です.まぁフレーム剛性が高いに越したことはありませんが、コストをかけてまでフレーム剛性にfocusする必要はないということです.
実際に今回自作した3DPは土台こそ
石定盤でしっかりしていますが、鳥居は8mmの寸切で作ったのですから剛性は決して高くありません.
extruderは強いトルクが必要
60mm/secで層間0.3mmでプリントすると、フィラメントは2mm/secぐらいで通過するイメージです.ノズルの押し出し抵抗と、テフロンチューブの摩擦抵抗などに打ち勝って2mm/secでフィラメントを駆動するにはトルクが必要のようです.
・モーターには1Aぐらい電流を流しています
・XYZ軸よりも大きなモーターが必要です
・発熱するのでファンで冷却が必要です(ファン無しだとフィラメントが溶けて詰まる)
MK8は、強力なトルクを出しづらいのと、フィラメントに傷がつくのがいまいちでした.
これを使いました.少し高価で中華通販で¥1700でした.(モーター込みで)
extruderモーターは1/16マイクロステップ駆動するべき
左: extruderモーターをマイクロステップ駆動しない
右: extruderモーターを1/16マイクロステップ駆動した
extruderモーターは動き量が微小なので雑に駆動すると吐出量が波打ってしまうようです.マイクロステップ駆動で滑らかな吐出量にすると美しくなるようです.
プリント後にフィラメントをhotendから引き抜くべきか?
フィラメントによりけりだと思うのですが、粘っこい素材のフィラメントだと、プリント後の余熱で放熱器内部で軽く溶けてお餅の様に詰まるトラブルがありました.これを避けるために、プリント後に速やかにフィラメントを抜くようしています.
ボーデン型はどうなの?
extruder+モーターをホットエンド直上に置くのがダイレクト式.
extruder+モーターを遠隔地に置いてテフロンチューブで繋ぐのがボーデン式.
わたしはボーデン型が好きです.長いテフロンチューブは摩擦抵抗ですが、モータートルクで克服できないほどとは思いません.
なおリトラクトは使っていません.
ホットエンド固定部品はPLAだと溶ける恐れがある
数時間かかるような部品を打つと、ホットエンドがグラグラしてきました.原因は放熱器の熱でゆっくりとではありますがPLAが溶けてしまったからでした.ホットエンド固定部品だけはアルミで作り直しました.
フィラメントクリーナーを使っています
フィラメントは静電気で埃を吸着している場面が多いと思います.埃はノズルに悪影響がありそうなのでクリーナーを使っています.
XYZ軸のステッピングモーターは1/16マイクロステップ駆動するべき
マイクロステップだと音が静かになります.
マイクロステップによるデメリットを感じません.
A4988を全て(XYZ+E)1/16マイクロステップで使っています.
XY軸はベルト駆動がオススメ
リードスクリューは1回転で2mmです.
ステッパモーターの最高回転数は1000rpm(=17rps)ぐらいが限度.
だとすると、リードスクリュー駆動の最高速は34mm/secぐらいが限度です.
ところが、3DPのプリント速度はもっと速いです.
インフィルの印刷速度は60mm/secぐらい.単なるヘッド移動では120mm/secなどです.リードスクリューはこの速度を実現できません.
ベルト駆動はギアの直径が12mmなら17rpsで640mm/secまで行ける計算です.
Z軸はリードスクリュー駆動がオススメ
ベルト駆動だと電源OFFったときにZ軸が落下します.
ベルトにはテンションスプリング
わたしの経験から、長く使うとベルトは伸びてゆるくなります.
テンションスプリングは¥100ぐらいと安価ですからつけたらよろしい.
バックラッシュレススクリュー
auto bed levelingを使わないのであれば通常のスクリューでも良いでしょうけど、auto bed levelingするならZ軸にバックラッシュレススクリューをつけるのがよろしいかと.価格は数100円ですから惜しむほどではないです.
levelセンサは何が良いか?
3DP業界のデファクトスタンダードはBL-Touchです.
しかしわたしはBL-Touchがトラブりました.印刷中に
ピンが振動で降りてしまうんです.当然ながら一巻の終わりです.
別のセンサとしては、近接センサがあります.
近接センサには誘導型と静電型があります.
誘導型はステージが金属なら使えますが、ガラスステージには反応しません.
静電型は何にでも反応しますから、ガラスステージでもOK.わたしは
静電型を使いました.ただし、静電型は微妙にトラブったと思われます.周囲の物体の影響で測定値が0.3mmズレたらしい.
Marln sourceで補正しました.
静電型には感度調整VR付きの物があります.高感度にして対物距離10mmなどで運用すると「手かざし」で誤反応します.なるべく低感度設定で短い対物距離で使うのがオススメです.
その後にさらにトラブルがあり、ステージ裏面にアルミを貼ってGNDに落としました.
→こちら
firmwareは何がよいか?
Marlinしか使ったことがないです.
HWはArduino MEGA2560ですけど、Arduino IDEではMarlinをビルドできません.最後のリンカがメモリ不足で止まってしまいます.ゆえに
VSCodeを使う必要があります.
ステージの材質は何が良いか?
平面であること、樹脂との密着性が良いこと、安価であること、なるべく軽いこと、これらが選択基準です.
平面度が優れていて価格が安いのはガラスでしょう.ガラスの表面にテフロンシートを貼りました.テフロンシートでなければ、養生テープが樹脂との密着性が良かったです.
薄い木材を貼るのでもいいかもしれません.木材も樹脂との密着性は良いです.
ガラス、MDFは樹脂との密着性がダメでした.
アルミは試していません.
鉄は重すぎると想像しています.試していません.
パンチングメタルは試していませんが、良さそうな気はします.
ステージの水平調整ネジは必要か?
このような、ネジで水平調整する機構はどの3DPにも備わっています.でも、オートレベリングをするならこれは不要だと思います.近日に改造して撤去するつもりです.撤去後の水平精度は、石定盤→Y軸ロッド→Y軸ベアリングホルダ の各精度で決まるようになります.これだけで水平度は200mmステージで±0.5mmには入っているでしょうから、後はオートレベリングにお任せでいいんじゃないかと.
ホットエンドは何が良いか?
V6しか使ったことがないです.
こういう一体成型のV6放熱器がありますが、これは熱が上がって来るのでフィラメントが中で溶けて使えませんでした.スロートが別体型の物を使いましょう.
ファンは必須だと思います.ファンは30mm角ではわたしは不安なので40mm角のファンを使っています.ファンによる排熱が不足すると、スロート内でフィラメントが溶けて詰まってしまいます.
スロート詰まりの原因と回避策
テフロンチューブ型のV6スロートの断面です.テフロンチューブは2種類使われます.図のグリーンの物がテフロンチューブです.中心をフィラメントが走行します.
①溶融部~ノズルへかけてが詰まる場所との一般認識だと思うのですが、ここで詰まった経験はありません
②グミ状になったフィラメントが詰まる場面が多いです
③④テフロンチューブと金属部品の不連続部分に引っかかって詰まってしまうケースもあります.印刷の初動で樹脂が出なくて気づきます.
したがって②③④をどうやって回避するかがスロート詰まりの対処となります.
②の対処は、テフロンチューブ型なら詰まりにくいとかいうメリットを感じません.テフロンでも金属でもグミが太くなって詰まる時は詰まります.ではどうするか? 意外に感じるでしょうがExtruderのトルクをあまり強くしないのが効果的です.グミ詰まりのメカニズムは、ノズルから出てゆく樹脂よりも、スロートに入って来るフィラメントが過多な時に、グミが圧力で太ってしまって詰まります.したがって、強い力でグイグイ押せば押すほどグミ詰まりは多発するというのがわたしの感触です.ゆえにExtruderトルクは少なめが吉です.
③の対処は、先端が全金属製のスロートを使うのがわたしの好みです.↓これなら③で引っ掛かる可能性が無いです.
④の対処は、細いヤスリで内径が細くなる角を削って滑らかにして使っています.
ステッパモーターの大きさは?
XYZ軸は、小さめサイズのNEMA17 HS2408で動いています.
extruderは、HS4401かHS4402クラスを使っています.HS3401を試した事がありましたがトルク不足でした.
電源容量はどのくらい必要?Arduino MEGA2560+Ramps1.4を使いました.モーターは上の通りです.ヒートベッドは使ってません.
その条件で、12V5Aの電源では明らかに不足でした.電圧降下でCPUにresetがかかってしまいました.
わたしが使ったのは12V20Aの電源でしたが、たぶん12V10Aの電源でもOKだと思います.
一番電流を食うのはヒーターで3A以上喰います.
次はextruderモータがピーク1A以上喰うと思っといた方がいいです.
この2つだけでピークで5Aも喰いますので12V5Aでは不足でした.
オートベッドレベリングはどのモードを使う?
BiLinearがよく使われるようですが、Bilinearはステージが凹凸している際に意味があります.ステージの平坦さを信用して良いケースではBiLinearの意味は無いと思います.たぶんLinearも同様.
わたしはガラスの平面性を信じますので3pointを使っています.
モデリングは何を使う?
fusion360の試用版を使っています.bodyをSTLで書き出しできます.CuraはSTLを読めます.
Curaの開始/終了動作は?
開始動作: 最後に(100,5,0.36)にしている理由は、目視でノズル高さをチェックするためです.
G28 ;Home
G1 Z15.0 F6000
G1 X-10 Y-10
G92 E0
G1 F100 E50 ;Prime the extruder 50mm
G92 E0
G28 ;Home
G29 ;ABL
G1 F1200 X100 Y5
G1 Z0.36
終了動作: フィラメントを100mm抜去してからヒーターをOFFします.hotendにフィラメントが残ったままだと放熱器内で溶けて詰まる恐れがあるため.
G92 E0
G1 E-100 F300 ;Retract the filament
M104 S0 ;Heater OFF
M140 S0
G28 X0 Y0
M84
インフィルパターンは何を使う?
キュービックが高剛性で好きですが、斜め積層するので失敗確率は高いかな.
失敗しなさと剛性の両立でトライアングルをよく使います.
サポートパターンは何を使う?
ジャイロイドを使います.理由は剥がしやすいからです.
ラフトとプリムはどちらを使う?
ベッドからの剥がれを防ぐためのものです.
プリムはあまり効かないと思います.
なのでわたしはラフトを使いますが、Curaのdefaultだと幅8mmになっていると思います.でも8mmだとあまり効かないので、幅15mmのラフトを使っています.
ベッドからの剥がれ対策
スティック糊はノズルが詰まる可能性があると思いますので今は使ってません.
今わたしが採用している主な対策は3つ.
1)#120のサンドペーパーでベッド表面を荒らす
2)初期層印刷温度を高くする (230℃)
3)初期層印刷速度を遅くする
マスキングテープはまぁまぁ効果的でよろしいかと思います.
しかしもっと効果大なのはスティック糊です.ただし「Tombow PiT」に限ります.PiTにもいろいろあるのですが写真のPiTに限ります.
その理由は、、、100均などで売られているスティック糊はたいてい白色ですが、白色の糊は乾燥状態で柔らかくボテボテの厚塗りになってしまい、ノズル詰まりを誘発したことがあったので避けた方が無難です.PiTは透明であり、乾燥状態で平滑な膜になるのでトラブルが少ないです.
引き戻しは使わない
引き戻しをすると、hotend詰まりを誘発する可能性が高まると思っています.
グミ状のフィラメントがhotendの冷却部に引き戻されることで詰まるようです.
Curaの設定を参考までに
ノズル径0.4mmを使っています.以下はかなり頑丈な印刷物を作るときの設定です.
↓印刷時間短縮のためレイヤー高さ0.3mmで使っています.
インフィル太さはノズルと同じ0.4mmで.
壁の厚さ1.5mmは強度が欲しいので厚くしました.
↓強度が欲しいのでインフィル密度25%です.
インフィルパターン トライアングルは、強度と失敗しにくさでグリッドよりも優れていると思います.斜めに積層するキュービックの強度は高いのですが、斜め積層ゆえに層間接着力の点で失敗する確率がトライアングルよりも高いと思われ敬遠しました.
↓印刷温度210℃はちょい高めな気がしますが、デフォルトで使ってます.190~210度で目立った違いは感じません.
初期レイヤー印刷温度はベッドと接する最初の層の温度です.密着性を良くするために高温にするのですがこれもデフォルトのまま.
フローは100%が無難だと思います.120%などとすると線が太くなって、穴径が予想外に小さくなったりしました.
↓印刷速度は30~80m/sの範囲で選んで使っています.
この例では印刷時間短縮のため80m/sと高速にしています.また、印刷速度80mm/sで全部統一しているところがミソです.デフォルト設定だとウォール30mm/s、インフィル60mm/sなどとメリハリをつけています.でもそうするとフィラメント送り速度を機敏に切り替える羽目になるので印刷が汚くなります.
印刷しない移動速度は120mm/sと高速にしてあります.
↓上で述べた通り、引き戻しはhotend詰まりを誘発するようですので使いません.ただし樹脂の引き摺りは多くなるのでしょう.
↓パターンは専らジャイロイドを使っています.剥がしやすいためです.
サポート密度15%は過密でなく過疎でなくの設定.
サポート上部距離は剥がしやすくするために0.2mmにしてます.
サポートルーフは近頃は使わなくなりました.剥がしにくくなるので.
↓プリムは効果を感じないのでラフトを使っています.ラフトの余分なマージン15mmと幅広にしています.デフォの8mmだと不足だと思います.ラフト間のラップは0.2に狭くしてあります.これはラフトと加工物下端の密着性を強くするためです.ラフト印刷速度は60mm/sと遅くしてベッドとの密着性強化を図っています.
フィラメントは何を使う?
PLAばかり使っています.ABSは使ったことがないです.
PLA-Fという、PLAにABSを混ぜたものを誤って買ってしまいました.PLAと同じ設定で使えてますけど、PLA-Fは粘るし剛性が低いので好きではありません.
PLA+は今使っているところです.良好です.
同じメーカーのフィラメントでも粘りや剛性は微妙に異なります.細部再現性を安定して得るには、積層型3DPは不向きじゃないかな? 細部再現性は光造形にお任せするべきだと思います.
フィラメント乾燥機を使っているか?
使っていません.使う気もありません.世間の風潮に異を唱えたい.
吸湿したフィラメントによるトラブルとは、粘っこくなる、気泡が生じる、などと言われます.まぁ傾向的には確かにその通りなのでしょう.
しかし、わたしの経験では経時劣化で粘っこくてキレが悪くなったことはありません.開封して1ヶ月ぐらいで消費する限りにおいては.
むしろ、同じメーカーのフィラメントであっても、色が違うだけで粘り気に差があります.メーカーが違えばもっと差は顕著です.仕上がりの表面性の違いや、剛性の違いで判ります.
つまりわたしが言いたいのは、吸湿だの乾燥だのと3DP業界で取り沙汰されているが、そんなのはフィラメントの個体差に比べたら小さいということです.
似非マーケティングの匂いがする.こういう似非MKはhigh-end audioのセカイでよく見られる現象で、有名評論家が「吸湿は問題だ」と言った事に業界人もホビーストも振り回されているように感じます.自分の目で確かめて真偽を判断しましょう.
ホットエンドのサーミスタは?
V6で使われるのはNTC 100k 3950のようです.
Configuration.hではこれが適するのではと思う.
61 : 100k Formbot / Vivedino 3950 350C thermistor 4.7k pullup
ベルトのプーリーは上下から締め付けると動かなくなる
ベッドから加工物を剥がす時
加工物の最下層とベットとの密着性は重要です.ですが出来上がり品を剥がす時にはなかなか剥がれなくて困ります.プリムやラフトも試しましたけど密着性と剥がれ性を両立しうる工夫は無いっぽい.そこで剥がす時に苦労するわけで、わたしは100均で買った薄い果物ナイフで剥がしています.
これが一番の悩みどころですよね.わたしの乏しい経験からの考えです.
1)印刷速度をゆっくりにする.60mm/sよりも30mm/secがベター
2)印刷速度を一定にする.たとえばインフィル60mm/s、壁30mm/sなどとするよりも、統一して30mm/sの方がベター
3)印刷しないヘッド移動は120mm/sなど高速がベター
4)層厚みは0.2mmなどと薄い方がベター
当たり前の事を書いているように思われますが、1~4が何に効いているのか?についての考察が大切だと思います.
定速度の効果:
溶融樹脂の吐出量の平準化に寄与すると推測しています.溶融樹脂を出したり止めたりするのは元来難しいです.引き戻し機能を使っても0.1秒でON/OFFできるほどとも思えません.なので、溶融樹脂をON/OFFしようとするのは諦めて、一定の流量で印刷できる方策を練るのが吉と考えます.
また、印刷しないヘッド移動は速やかに終わらせたいので高速移動が吉と考えます.
低速度の効果:
層間接着力の強化に効くと推測します.下層を一瞬溶かして上層を塗ると層間接着力が増します.高速印刷では冷えた下層に樹脂を置くだけになってしまいがちです.
低速度の効果:
塗布した樹脂が冷えるのを待つ効果があると推測します.高速印刷すると下層が固まる前に上層を塗るので全体が崩れ落ちるように失敗することがあります.それを回避するには遅くするのが効果的です.
低速度の効果:
extruderの送り量が少なくなるので、脱調しなくなります.フィラメントの圧縮量も減ると思います.
薄層の効果:
extruderの送り量が少なくなる.層間接着力の強化.塗布した樹脂の冷却.
上記は、樹脂の吐出量制御と塗布局部の温度制御にのみfocusしています.XYZ軸のバックラッシュのような機構系には問題意識を持っていません.印刷精度はほとんど吐出制御で決まるとわたしは思っています.(バックラッシュはメカ部品選定で回避できます)
他にも思いついたら追記します.
かしこ
【おしらせ】
当ブログで書き散らかした3DPの投稿をまとめたノウハウ集を作りました.ダウンロード販売しています.¥660です. pdfをダウンロードしていただけます.全36ページ.
3DP印刷部品のstlファイルを無料ダウンロードできます.
Marlinのvscode project folder詰め合わせも無料ダウンロードできます.
よろしくでーす.