2013年5月20日月曜日

乙武洋匡氏が予約したレストランへ入店拒否された件で店を擁護する

乙武洋匡氏が予約したレストランに、店の構造が非バリアフリーであることを理由に入店拒否されて、その店をtwitterで実名で非難し、店のホームページが炎上し、たまりかねた店が事実関係を開陳・反論したという件.   http://www.rbbtoday.com/article/2013/05/20/108129.html

わたしは乙武氏の主張に同意できません.乙武氏は、無用な軋轢を引き起こさないケアが不足していたし、店に拒否されたらすごすごと引き下がるべきでした.乙武氏の影響力からして、「身障者の尊厳を傷つける残念な店」というレッテルを貼り実名で店名を晒せばどういうことになるかは推察できていたはずで、乙武氏による行動は「弱者の皮を被った強者による、やりすぎた報復攻撃」とわたしは認定します.その理由を以下で説明します.

簡単にいえば、事実関係はこうです.
乙武氏は、バリアフリーでない店に、車椅子の客である旨を事前に伝えずに予約し店に行き、エレベータが無いのであれば、店員に自分を抱っこして入店させるように要求した.それを店が断った.物理的に入店させられないので本日の予約はなかったことにさせてくれと店側が要求した.その際に店側が暴言を吐いたとか吐かなかったとかについては、双方の言い分は平行線です.

本件の争点は、「突然車椅子で来られてもウチはバリアフリーじゃないからお断り」という店の判断が正しいのか正しくないのか?が争点になろうかと思います.

店側の主張を整理すると、こういうことと推測します.
●エレベータがない
●2名でやってるのでサポートできない
●車椅子の旨申告してくれると思っていた
●事前に車椅子であると言ってくれればなにか考えたかもしれないが、それとて名案が浮かんだかどうかは疑わしいし、予約をお断りしたかもしれない
●暴言は吐いてない
http://news.livedoor.com/article/detail/7687938/

乙武氏の主張を整理すると、こういうことと推測します.
●店の構造は忖度しない
●店のサポート体制は忖度しない
●抱っこしてでも入店させるのが当然のサービスだ
●車椅子生活者への差別であり尊厳を否定された思いだ
●暴言と同様のことを言われた

さて、わたしは店側の主張に同意でき、乙武氏の主張には基本的に同意できません.

インフラ未整備問題
車椅子で行動する、あるいはその介助者で、ターゲットの店のインフラについて全く考慮せずに出動なさる方は珍しいと思います.エレベータ等のインフラがない小さな店なんかザラにあり、おんぶして階段を昇降するのはかったるいなぁとは当事者なら考慮・逡巡するのが通常判断と思われます.たとえば中目黒であれば、東急ストアとプレッセになら車椅子で出入りできるけど、ライフと100均と中目黒ブックセンターには入店はできないにょろ、などと自己規制してます.それを店の対応が悪いと非難するかというとしません.ライフに入店できなければ東急を利用すればいいからです.本屋については困っていますが、amazonとかあるし、たまに五反田の1国にある本屋に行くしっていうんで我慢は許容範囲かと.まさか中目黒ブックセンターにエレベータがないことを非難して店をネットで告発するなんてマネはしません.
当ブログで、六本木駅や日比谷駅の乗り換えで遭難しかかったとレポートしたわたしですが、それらは半分はjokeであり、半分は告発でありますが、電車や国際会議場のような代替がなく不特定多数が来場する大規模インフラ相手にはバリアフリーを怠ってはいかんだろぅと告発してもよいとは思っています.
しかし、2人で営業しているこじんまりとした飲食店に対して、バリアフリー仕様の不備を、2人の店員の物理的努力で、抜き打ちでその場で工夫して、なんとかするのが当然だと要求するのはあまりにも難易度が高くて無理があります.乙武氏の要求に直面した店側の苦慮に同情いたします.

介助技術難易度問題
実際に身障者の介助をなさっている方、もしくはリハビリに関わる医療従事者の方にはご同意いただけると推察いたしますが、初見の重度身障者の方を抱っこして階段を登ることをわたしはオススメしませんし、仮に依頼されてもリスクを慎重に考えた上で「オレには無理」とお断りする判断もアリだと思います.    (非常時はさておきますが、、、)
身障者の症状は様々であって、どこを持って持ち上げたらいいのか? どこを持ってはいけないのか? 筋肉が弱っていて関節が思わぬ方向に曲がってしまい、脱臼させてしまうのではないか? など、いろいろとのっぴきならない事情を抱えていることが多かろうと思われます.
差別的発言と捉えられても仕方ありませんが事態を冷徹に直視して書きますと、突然介助を要求された素人にとって、乙武氏の症状ですとどこを抱えたらいいのかワカラナイと逡巡なさるのももっともだ思われます.そういう素人がいても不思議ではない.
だから、申し訳ないが介助素人なので乙武氏ほどの重度身障者の介助は責任を持ちかねるという店側の判断も大人の判断、さすがに初見の素人が自分を抱っこするのに逡巡するのも無理はないという乙武氏の判断も大人の判断、そういう大人の関係で乗り切るしかありません.抱っこして階段を登っている最中につまづいて乙武氏を階段の下まで転落させるリスクよりは双方にとってマシでしょうという低エネルギーな手打ちです.
乙武氏としては、店員に会って目視で店員の屈強さを問題ないと判断したのでしょうが、それだけでは店側の事情を忖度する視座が不足していると思われます.

車椅子を事前通告しなかった問題
乙武氏の行動で最も理解できないことがここです.双方大人の対応で済ませられるようにするケアの出発点として、乙武氏は「車椅子だけどOKか?」とwarningを出すべきでした.なぜなら乙武氏は、その日の店員がたまたま老人2名だけだったとしたら、自分を抱っこして入店させろと要求できずにスゴスゴと帰らざるを得なかったでしょうから、車椅子だと念押ししなかった場合に第一に困るのはご本人なはずなんです.
ところが、店にエレベータがないリスクを考慮せず、さらには予約当日に屈強な男性店員が不在なリスクを考慮せず、さらに店員の介助能力を忖度せず、、、、、これでは介助をお願いせざるを得ない者の行動としてはあまりにも無防備と言えまいか?
そもそも、電車や国際会議場ほどの高い公共性を帯びていないこじんまりとした飲食店には、『すまんがムリ』と断っても顰蹙を買わないだけの自由があると思います.たとえ日常的に不自由を強いられている障害者であっても、それをぶつけて然るべき相手(公的施設)とそうでない相手(零細飲食店)がいる.それを忖度してやるのが大人でしょう.まして、有名人がtwitterで『身障者を断る残念な店』とdisることなど、してはいけなかったのではあるまいか?
ですが、今般の乙武氏の行動はどうも大人げない.車椅子非対応の”あらゆる”インフラにケチをつけて回るのが乙武氏の本意ではないでしょう? 今般の乙武氏の大人の配慮の無さには、『オラァ車椅子だぁ文句あっか~』という傲慢さばかりが感じられます.というわけで、店側には深くご同情申し上げます.

まとめ
まぁ、人気店だそうですから、天狗になってタカビーな対応だったのは予想の範囲として一部乙武氏の主張を認めるとしてもですよ、発言力のない一般客には「食べログ」でdisるぐらいしかできないわけです.いくら「抜き打ち車椅子」が(暴言つきで)却下されようとも、多くのfollowerを抱える乙武氏がtwitterで店名を晒し、多勢vs2名という彼我勢力差で圧倒的有利な展開で叩きつぶすだけの屈辱だったと言えるんでしょうか? 上で指摘したとおり、経緯からすると乙武氏側にも瑕疵がないわけじゃないんだから、店名を伏せるなど自重なさるのが乙武氏ご自身のためでもあったと思われてなりません.
乙武氏はネットのセカイでは『強者』なわけです.乙武氏ご自身の人生経験から、強者が弱者を蹂躙する様には敏感になれたはずの身障者ならばこそ、強者が行使する影響力を慎重に吟味なさるべきではなかったでしょうか? そしてそういう大人のポジションを取ることによって、いままでの乙武氏の諸活動に対する信憑性がむしろ強化されかもしれません.乙武氏のセルフプロデュースのためにも本件は自重なさるのがお得だったことでしょう.

ちなみにわたしはこの一件を知り、世の中のモンスターなんたらと乙武氏がダブッて見えるようになり、関係したくない人だなという印象を持つようになりました.あしからず.  (プロで大人の身障者だと思っていたのですがね)


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10 件のコメント:

  1. ソニーOB:佐藤2013年5月20日 19:13

    二言目には「差別だ!」という輩はいっぱい居そうですね。

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  2. 私は、乙武洋匡氏の本を読んだ事が有り少し実情が理解出来ました。

    予約と言うシステムが有る以上、付帯事項として配慮してほしい事は、申告して置くべき事項と私は思います。

    そして、店の構造も確認して予約すべきと思います。1階にも店舗が有れば何と成ったかも知れません。

    また、相互とも会話も落ち着いて、ヒ-トアップしない様な配慮が相互に必要でしょう。
    例えば、近隣の店にTELして乙武氏に近隣の店に移る事を促す事も良いかも知れません。
    (あまり関係無いが、乙武氏は単独でその店を利用する予定だったのだろうか?)

    相手が有る以上、事前準備、事前打ち合わせが有る事で、スム-スに事を運ぶ事が
    出来るのではと思います。

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    1. そうですね.事前打ち合わせなしで突然なんとかしろというのは、区役所とか博物館が相手ならOKでしょうけど、零細飲食店相手にそれをするのは反社会的と言わざるを得ないと思われます.

      店側は『予約時の付帯事項として車椅子を申告してほしい旨をウェブページに掲載していなかったこと』を謝罪していますが、あらゆる零細飲食店にそこまで厳密なステートメントで理論武装させるのは無粋でロクでもない社会で好みません.

      したがって本件は、乙武氏が「車椅子でOK?」と尋ねることによって、事態が唐突に停止する芽を事前に摘んでおくのが打てる唯一の方策であったとわたしは信じます.そのケアを怠った乙武氏が、その後の経緯はどうであれ多勢vs2名の闘いを意図的に主導したのは、寒い.かなり寒い.そういうことを企てる可能性がある人とは関わり合いになりたくありません.

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  3. 小生は脊髄障害があるものの、車椅子は使用していません。
    どんなに乗れたら楽だろうと思う物の、押す側の身になれば自分で
    歩ける内は杖を頼りに歩いています。
    確かに、ひゃっとすることもありますが、
    (スーパーでは必ずカートを押して歩くが)
    後ろから衝突される、カゴで当たられる等です。

    そんな場合は声を上げますが、誤りもせず行き過ぎようとする方も居ます。
    そんな場合、腹の居所に依っては、カートごと体当たりしたり、杖を外して
    カートを押し相手にぶつけたりします。
    大概は誤りつつ逃げて行かれます。
    (こんな時はやっぱり判っていたんだなと思い、回っている内に出会ったら、もう一度やってみますと、やはり誤って逃げて行かれます)
    こうしておかないと、次にあったとき仕返しされることもあり、どうしてもやっておかねば成りません。

    話は戻って
    1 彼が執るべきであった手段は先に電話をして、理由を述べ了、搬送費用を払う事で了解を取っておくこと。
    2 あるいは彼が運送人を雇い、その事を店に伝え、了解を取っておくこと。
    3 他には止まる階までエレベーターで行き、スケボーに乗り換えて、階段を店まで滑り降り、入店する(ちょっと無理かな)
    4 テレビ局を連れて行き、暗に、状況を放送する様にする、撮影を拒否されて強行すると、(店の中の権利は店にあるので、威力妨害になる可能性があります)

    此所ではっきりしたいのは 有名だから、お金があるから、 と言うような変な差別がまかり通ることです。

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    1. 電動車椅子は本人も楽だし介助者も楽なのでオススメですが、電動車椅子に慣れっこになってしまうとかえって体がなまって歩行機能が衰えてしまうかもです.
      ちなみに、ヤフオクで11万円で2台目の電動車椅子を買いました.

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    2. 珍しい光景を見た話、も何十年か前、踊る交通整理警官が天王寺駅前で有名になった時分、(やはり最近再出現してテレビにも載っていましたが、ご子息かもしれませんね)
      車椅子の兄ちゃんが道路側からひょいと前輪を上げ、
      後輪だけで、ポッピングの要領で、トトトトトトトトトトトトトトトトト と下まで降りて行きました。
      眼が丸く成るやら、口が塞がらなくなりました。

      達人てっ意外なところにいると感心しました。
      登りはどうするのだろう?

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    3. 車椅子バスケをやるような腕力があればできるかもしれません.

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  4. 炎上するかしら?

    炎上も良し、無い(不可能)と思うが集約も良しでしょう。
    考え方はいろいろ有るのですから、とことん意見をぶっけ合う事賛成です。

    破壊から、新しい思考の芽が出るかも?

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  5. お店の立地条件(空中店舗でEVなし)はZ武さんが当然確認しておくべきでしょう。
    これは、店側の発言を暴言と感じたから告発しちゃったのでしょうね。Z武さんもちょっと大人げなかったかなと思います。

    関係ないけど、検証記事の参考で出ている「新番組『乙武洋匡のこんな番組なカッタワ』が今夜9時スタートか」には声出して笑ってしまいました。疲れているのに…。

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