企業に勤めていた頃、わたしは技術にしか興味がありませんでしたから、金のハナシには頓着せずに20年間ぐらい過ごしてしまいました.でも最後の数年間で、少しだけですが金を専門にする職種の人と仕事をする機会があり(ソニーでは管理屋と呼んでいましたが)、なるほど企業は金で廻っていると実感した次第です.見聞きしたのは大企業の管理屋の片鱗に過ぎませんでしたが、「企業=金という原理主義」を脳の奥深く、脳幹レベルで思い知ることができたのは、何物にも代え難い体験だったと痛感しています.その前までは、大切なのは資本じゃないよ大切なのは技術だよ、などと青臭いことを考えていたわたしでしたが、それは誤りでした.
先日リフォームのお手伝いをした方が会社経営者だったのですが、その人のハナシを聞いていると、IT系企業だったり、不動産業だったり、飲食業経営だったりと、やってる業態が様々に分散しているので、あれ~よくわかんないなぁと思いまして、尋ねてみました.
ひら 「Kさんって、最初から経営者だったんですか?」
Kさん 「最初にすこし税理士事務所で働きました.数年で辞めましたけど.やっぱ金の事を知ると企業経営の役に立つでしょうし」
これで合点がいきました.要するにKさんは、経営することが目的で経営者になった人で、そのための基本的スキルはファイナンスなのだと.そういうタイプの経営者とは今までご縁がありませんでした.今までわたしと縁があったのは技術系の会社の経営者ばかりで、ファイナンスに長けた人々ではありませんでした.
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ファイナンスに長けた経営者に会って、わたしが関わった技術開発projectのかなりヤバいエピソードを思い起こしました.といってもファイナンス以前の問題なのですが...
飲食店を開業するような案件の場合は、必要資金を調達できれば、たとえ紆余曲折はあろうとも開業まではこぎ着けられると思われます.開業後に客が入らないリスクはありますが、そこは企業努力でがんばってくれと.
けれど技術開発プロジェクトは、飲食業の出店とはかなり違います.技術開発のプラン(画に描いた餅)はあれど、それを試作してみなければ本当に実現できるかどうかはわからない.その試作成果で出資者を募って、市場投入し、それが狙い通りに売れて初めてお金を手にすることができる.試作フェーズと市場投入フェーズが1年以上かかることはザラであり、お金を得るまでに長期間かかります.なのでいくらすぐれたアイデアがあっても、初期資金がないと何も始まりません.企業努力以前にファイナンス問題ゆえにオダブツです.
さて、わたしが関わった技術開発projectをKプロ(仮称)と呼びます.Kプロのkick-offミーティングには、プロデューサ、アナログ屋、デジタル屋、ソフト屋、アプリ屋、が出席しました.各々の参集者はプチ経営者です.わたしの役目はデジタル技術者で、数ヶ月先行して趣味的に試作してきて技術面での目処はある程度立っていました.技術的ブレインストーミングがひとしきり終わって、それでハナシが終わってしまいそうだったので、いったいなんじゃそりゃ~?と思って、プロデューサに問いました.
「ところでさ、Kプロは、絆方式でやるの? それとも金方式でやるの?」
プロデューサ殿の返答を記する前に、「絆方式」と「金方式」とは何かを解説しましょう.
技術開発projectは、上で述べた理由によりハイリスクハイリターンになりがちです.そのリスクを誰が負担するのかが、「絆方式」「と「金方式」の違いです.
「絆方式」
Kプロ参加者全員がリスクを負担する.全員が無報酬、手弁当で働く.失敗したら骨折り損のくたびれもうけになる.成功したら、莫大な利益を全員で山分けする.ベンチャービジネスの創業者7人衆の固い絆がその典型例である.
「金方式」
プロデューサが一人でリスクを負担する.他の参加者は、たとえ失敗しても僅かだが報酬を受け取ることをプロデューサが保証する.成功して得た莫大な報酬は、プロデューサの総取りである.参加者はいわば金で雇われた傭兵である.
↑これは両極端ですが、Kプロ発足にあたり、絆と金をプロデューサがどう思っているのかを語ってくれないことには、気づかぬうちにリスクまみれになっていたり、報酬をもらえなかったりと、バカバカしいことになりかねないので、わたしは絆と金をボカしたプロジェクトの発足なんか許しません.だから尋ねたのです.「絆方式」か「金方式」かと.
そしたら、プロデューサ殿が言ったことがすごかった!
「いや、それは金のハナシだから、今は話す必要がないでしょう」
だってさ.金とリスクについて少しは考えたらどうだと言いたい.実を言うと、その人のことを知っていたので、想定内の返答のうち最悪の返答だったのですが、こりゃぁダメだと思いましたわ.その後、わたしは諸事情によりKプロを離れたのですが、風の噂ではかなりヤバいことになっているそうです.どういう風にヤバいのかは想像にお任せします.www
ファイナンスを武器に経営者をやっている人もいるかと思えば、絆方式と金方式を問われてキョトンとしてしまうほど金(とリスク)に疎い経営者もいる.世の中いろいろ、人生いろいろ、オトコもいろいろ、、、、なのであります.
ぷしゅ~
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