2015年6月21日日曜日

新型光ストレージへの妄想  その4 (VTRのカラー信号)

今回はストレージに近づいた内容です.

ビデオ信号はこういう波形で数MHzの帯域です.→

このようなビデオ信号を磁気テープに記録するにはどうやっていたのでしょうか?

磁気記録をおおまかに2つに分類します.
1) アナログオーディオカセットのような、純粋なアナログ記録
2) 1か0だけを記録する、FM記録あるいはデジタル記録

ポピュラーなのは純粋なアナログ記録だと思いますが、純粋アナログ記録はオーディオカセットを最期に下火になりました.
VHSや8mmビデオも「アナログVTR」なのですが、磁気記録のコア部分ではどちらかというとデジタル記録に近い産物です.VTRはビデオ信号をFM変調して記録しますので、1か0の2値記録だからです.

DVとかHDDは1か0かだけを記録する純然たるデジタル記録です.

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磁気記録の原理について少し解説します.

↓純粋アナログ信号を記録する場合は、ヘッドにアナログ信号を流してもほとんど記録できません.原音再生などとはとても呼べません.
↓純粋アナログ信号を記録するには、100kHzぐらいで巨大レベルの高周波バイアスを加算してやると記録できるようになります.AM変調ではありません.オーディオカセットはこの仕組みです.
↓FM変調信号あるいはデジタル信号を記録するイメージは理解しやすいです.ヘッドへ流した電流に倣ってテープ上の磁石も残留するさという簡素なメカニズムです.磁気記録は本質的にデジタル記録に向いているとヒラサカは思います.

純粋アナログ記録ですと、再生信号を直接耳で聴取しますから60dBぐらいのSN比を確保する必要があり、大量のテープを浪費します.ところがデジタル記録では20dBぐらいのSN比で良く、テープ使用量を削減できます.それがアナログ記録が下火になった理由といえるでしょう.

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VTRのFM記録について説明します.

古くからあるアナログVTRの、1インチUマチックベータVHSベタカム8mm、、などは皆、ビデオ信号をFM変調して記録しています.どのようなFM変調なのでしょうか?

↓ビデオ信号は0~1Vと決まっています.それをどのような周波数のFM変調するかは、機器によって様々ですが、1インチVTRでは、7~10MHzだそうです.
VHSでは確か、3.4~4.4MHzだったかな? VHSは家庭用なので周波数が低いです.

FM記録してから、再生すると様々なノイズが混ざって再生されますが、リミッタで波形整形するとノイズの多くは消えてしまいます.ラジオのAM放送はノイズが多いけれど、ラジオのFM放送は音質が良いのと似たメカニズムで高SN比でビデオを再生できます.

「高SN比で再生できる」というのは、白黒ビデオならばその通りなのですが、カラー信号には問題がありました.

ヘリカルスキャンドラムがグルグル回転すると、ドラムがメカニカルに回転ムラを生じます.そのわずかな回転ムラによって、カラー信号が乱されて色がメタメタになってしまうんです.電波にはこのような回転ムラはありませんから支障なくTV放送が出来ていたNTSC信号でしたが、VTRには問題有りっていう事情でした.

↓ここで、NTSCのカラー信号の仕組みを思い出しますと、3.58MHzの位相でもって色を再現しているのでした.この位相変調(=PM変調)ってのがとてもクリチカルな変調方式なので、ドラムの回転ムラでカラー信号は死んでしまうんです.
3.58MHzの一波の時間長は280nSです.280nSが360度位相です.位相角が10度も狂えば人間の目にはカラーノイズとして感知されてしまうと仮定すると、たったの8nSの回転ムラで死去ってな計算です.ナノ秒オーダーの時間誤差というと、メカニカルな回転ムラをどんなに小さくしようと努力してもちょっと無理な領域だったようです.
それでは、1インチVTRでカラー信号を記録再生するにはどうしたら良かったのか?

Time Base Collector(TBC)という回路を使いました.

TBCとは、ビデオ信号をAD変換してメモリに蓄積して、時間を補正しつつ読み出す仕組みです.現代では簡単に実現できる回路ですけど、1976年にそれをやってたところがスゲーご苦労さんでした.

→1980年代末に自分も仕事で使っていたBVH-1000というソニーの1インチVTRの第一世代機種がありました.BVH-1000のこの写真にはTBCは含まれておらず、別のラックにTBCユニットがドデーンと納められていたのでした(ヒラサカの記憶).3つ上の写真はBVH-2000という第二世代機種で、小型化され、かつTBCユニットも内蔵されていたはずです.

↓わたしはTBCの回路を設計した経験はありませんが、こんな仕組みだったのではないかと思う.
1走査線分の4倍サンプリングデータを格納できるdualportメモリを用意する.2kBYTEぐらいで済むだろう.書き込み側clockは回転ムラを含むが、読み出し側clockは高精度に周波数管理されている.ゆえに回転ムラを補正できる.
このTBCですが、後のベタカムにも搭載されていると記憶しています.

しかしどういうわけか、VHSやベータや8mmのようなコンスーマVTRにはTBCは搭載されていません

同じヘリカルスキャンなのにどうしてTBCが不要だったのか?
それが次回の話題になります.

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かしこ


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2 件のコメント:

  1. EDV9000のガラス遅延線を使った3ラインクシ形
    フィルタの検索で偶然的にたどり着きました。
    アナログ技術が懐かしいです。

    クロスカラー、ドット妨害排除で90年代は各社
    色々と模索していましたが、論理型3次元フィル
    ターのおかげで静止画部分はほぼ完璧にクリア
    できましたね。

    90年以降のS-VHS高級機ははTBCが搭載される
    機種が増えましたが、EDV9000のTBC付が出る
    のを待ちわびてましたが、世界はVHSが標準に
    なりつつある時代でしたので、出せなかった
    のが残念です。
    専門者でない全くの文科系です。失礼しました。

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    1. まさに失われし技術がアナログVTRですね.日本中のVTRが放送局のフレームレートにあわせてグルグル回っていたなんて、目が点になってしまいます.

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