碇シンジ君も愛用していたDATというオーディオ機器が1990年代の一時期にありました.わたしが就職して最初にやった仕事がこのDATの開発でした.DATのカセットにサザンやユーミンのアルバムを録音して売るための、特殊な録音機のことを業界ではデュプリケーターと呼んでいました.わたしの仕事はDATデュプリケータの開発でした.
DVDやBDドライブの一部の機種にはエラーレートを表示できるツールが提供されています.ああいうツールみたくエラーレートを常時モニタして品質管理する機能がデュプリケータに必須の機能です.
DATデュプリケータでは、BaFeという特殊なテープを使っていて、またコンタクトプリントという特殊な記録方法を採用していたため、エラーレート的にはunknownな部分が残存していて、ヒラサカが回路をチョチョッとtuneするとエラーレートがストンと改善するという不安定さがありました.なのでこりゃぁ安定運用できないかもしれんなーと思いながらtuneしていました.
ところが当時のボス(部長)がアンポンタンで有名な人で、「エラーレートがマイナス4乗台を保証してユーザーにアピールする」とおかしなことを言い出しました.DATにはエラー訂正回路が搭載されていますので、デュプリケータで監視すべき対象はバーストエラーだけで必要十分で、平時エラーレートの良好さは無意味です.しかもお客の部屋の空気が埃っぽいとエラーレートが悪化します.エラーレート不良は必ずテープ屋に苦情が行くので過度なスペックはテープビジネスに迷惑をかけます.ゆえにカタログに書いたら将来に禍根を残すだけで喜ばしいことは何もありません.
わたしはこの時入社2年目の23歳でしたが、そんな若造から観てもそのアンポンタン部長のことは「何言ってやがんだ?」と呆れてしまいました.
この実体験エピソードを書いたのは、過度に生真面目に製品スペックを決める事の危険性と、測定手段や測定条件や再現性があやふやなままにスペックを決める危険性にまみれた事例だからです.
そのDATデュプリケータはその後どうなったのか? 発売が中止になりました (残念)
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それで昨日、プロ野球の公式硬式ボールの反発力がまたまたありすぎたんだよー、NPBはちゃんと仕事しろよー、というニュースがありました.wikiなどを調べてみると、測定条件や再現性が一気通貫してない環境下で厳しいスペックを決めてしまった関係者の頭の悪さというか、品質保証を統括する立場の人が仕事をサボッたなんだろうなぁ.などと想像するとわたしは可笑しくて仕方ないです.
古い話題ですが、飛びすぎボールでコミッショナーの辞任にまで至った2013年の件では、こんな経緯だったそうです.(wikiによる)
1)NPBも反発力の品質管理をやっている
2)2011年のNPBの品質管理ではほぼスペック内だったと認識
3)2012年のNPBの品質管理では反発係数の0.4134~0.4374に対し0.408もあったと認識
4)2013年はミズノ社に設計変更させた
5)そしたら球場では飛びすぎボールになってしまった
6)ところが問題が明るみになってから調査したら、2011年の品質管理4回、2012年の品質管理3回の全てで平均値が規定を下回っており、2010年以前にも規定を下回るボールが使用されていた
いかがでしょうか? この経緯からはNPBの品質保証のグダグダさが手に取るようにわかりますね.
【失敗1】 3で、反発力測定値の低下原因が、ミズノが悪いのか? NPBの測定システムが悪いのか? の切り分けをたぶんやらなかった
【失敗2】 ミズノのせいだろうと思って、4でミズノに設計変更をさせてしまった.これが拙速だった
【失敗3】 6で明らかになったのは、品質管理部門(具体的には資材の受け入れ検査かも)が機能してないじゃんということ
いや~、これはマズイ体制かなぁ.NPBは、とある仕様のボールを調達し、各球団に仕様を保証して供給する責任を負ったわけなので、仕様通りかどうかを品質保証するシステムが整っていないとしか思えないこのグダグダぶりはビジネス組織の体を成していないなぁ.結果として、NPBのプアな品質保証体制のせいで裏目へと走ってしまってます.ミズノに任せっきりだった方がマシでした.
NPBの検査は第3者機関に丸投げしていた説もあるらしく、そうだとすると失敗1における測定システムの不備は第3者機関の責任に帰することになりますが、それ以前に失敗3はNPBの瑕疵ですから第3者機関を悪者にしてばかりはいられないなぁと思われる.
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昨日の、反発係数のスペックアウト品がNPBで発見されたというニュースはどうかというと、
http://www.sanspo.com/baseball/news/20140416/npb14041605070002-n1.html
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140410/k10013651511000.html
1)NPBの品質管理で発覚
2)反発係数のスペックは、0.4034~0.4234 (公差5%)
3)0.003オーバーのボールがあった
4)ミズノが、毛糸の巻きを少し変えた、そのせいかもと言ってる
まず、NPBの品質保証システムが機能していることは評価できるでしょう.なのでお粗末さはかな~り改善されていると思います.
反発力スペックが5%というのは、意外にキツイものだと思いました.中心部のゴムの硬度で反発力を調整するとのことですので、温度条件で変わる可能性が高いだろうから、測定システムの温度条件規程が妥当なのか? 測定環境に24時間放置して温度を安定させてから測定するような規定があるのか? 温度で数%ズレそうに思うのでそんなことが気になります.
恐らくですが、年間30万個も生産・納品するミズノとしては、測定ばらつきも考慮した上で0.4034~0.4234のさらに内側に社内スペックを設けて出荷しているのではと想像します.製造業であればそのくらいはやれるだろうと.なのでNPBでスペックを逸脱したのは意外だったろうというのがひら予想.
在庫分について全数検査するとミズノは言ってますが、普段は抜き取り検査だが全数検査するという意味なのか? 普段から全数検査しているが再検査すると言っているのか、そこら辺も興味がありますけど、情報はありません.
飽くまでも憶測ですが、ひとまずわたしは製造業であるミズノを信じる.ミズノの出荷時には正常だったが、ボールが経時変化したか、NPBの測定システムにまだ小さい瑕疵が残存しているのか、そっちを疑いたくなります.あまりにも微細なハナシですので、ニュースには出てこないでしょうけど.
詫びたミズノですけど、微妙すぎて本当にミズノのせいなのかどうかは謎かも.
ボール製造の名人の方のコメントを歓迎します!(笑)
かしこ
追記4月23日: ボールの保管場所説が報じられました
http://gendai.net/articles/view/sports/149682
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世間を騒がせたのだから、お詫びの意味で、お金の無い学校等に無償で差し上げたら?
返信削除たしかに不要品ですから寄付するのはいいですね.NPBのロゴは消さなくちゃでしょうけど.
削除次世代メディア(斜め蒸着)の時にAIT改造ドライブに掛けてRS232CでEQ調整しながら評価してましたね。Boostは値はこれが最適地で・・・てな具合で。もうFunctionは忘れてしまいました。
返信削除厳密にいうとR-DATですね。と言いつつS-DATがあった事すら知らない人が多いでしょう。
そうそうHiFDの時にエラー訂正のClassがあるのを初めて知りました。エラー訂正はばりばりだがライセンスが高いとか。もう2度と携わる事のない分野です。
ミズノのスペックの件はメディア屋さん的には、出力の3シグマ分布のどこで足切りするかみたいな痛みで共感できるのではないでしょうか? がんばれミズノ
削除Cpkが劣るのかな?
削除ロットによるものなのかラインによるものなのかぐらいは把握していると思います。
当然ですね。
電気製品のVCCI規格のような不要輻射は抜き取り検査で、しかもスペック余裕が3dBしかないこともあるので、製品を1台1台測定されたら中には0.003dBオーバーしている個体もあるだろうなぁなどと、思う心はミズノと仲間だ!
削除弾性係数の違いが、そんなに違うのか、実打testしていなかったと言う事も?
返信削除分らないと言う思い込みも、仕様変更したのだから分っていたかも、統計学とか
分布の読み間違いも?(故意、無意識、その他も働いた?)
Cpk (工程能力係数)
返信削除http://homepage1.nifty.com/QCC/sqc4/sqc4-cpk.htm
こんな事だったのか?
1.5ぐらいあればOKだったかなぁ、忘れちゃいました
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