フェルマーの最終定理、めちゃ面白かった

ｘ＾ｎ ＋ ｙ＾ｎ ＝ ｚ＾ｎ

ｎ＞２のときこれを満たす整数は存在しない

これがフェルマーの最終定理という３５０年間未解決の難問でした．
当ブログではこの難問について２度コメントしています．
現実がSFに追いつくとなんとはなしに幻滅 ----フェルマーの定理----
ABC予想が解けるとフェルマー予想が簡単に解けるとはなんだ？

フェルマーの最終定理が出来たエピソードから、1994～1995年ごろにワイルズによって解決されるまでが描かれた本を読みました．その名も「フェルマーの最終定理」．出版された当時この本は大好評だったんですよね．やっと読みました．

いや～、めちゃ面白かった．

古くはピタゴラスから数論のセカイが活写されるこの本では、谷山－志村予想、モジュラー形式、楕円関数、などの難しい数学が登場しますけどそれらをほとんど解説せずに通過します．それでもフェルマーの最終定理が解かれるまでの描写が平板にならずに済んでいるのは、著者サイモン・シンの卓抜した構成力のおかげかと思われます．
翻訳本の英文和訳調の文体がわたしは苦手で、本の世界に入り込めないケースがよくあるのですが、翻訳者の青木薫さんの翻訳文は読みやすくてよいです．

ワイルズはフェルマーの最終定理を解いたつもりだった(1993年)のだけど、まもなく不備が指摘され、その解決に１年以上を要したのはこの本を読む前から知っていました．その１年間のワイルズの追い込まれようは厳しく、いよいよ諦めかけたときに最終解法を思いついた場面が本書のクライマックスかと思われます．

でもわたしが最も興奮したのは、谷山－志村予想とフェルマーの最終定理のリンケージを指摘したゲルハルト・フライの場面でした．フライ曰く、谷山－志村予想を証明すればフェルマーの最終定理が自動的に証明される．

ワイルズの貢献はこのフライの指摘の後であって、すなわち「谷山－志村予想の証明」がワイルズの貢献だったということを本書を読んで知りました．さしずめ７０００ｍ地点の最終キャンプからアタックするエベレスト登山隊みたいなのがワイルズだったといえるかも．
年代的には、
 谷山－志村予想が編み出されたのは、１９５０年代
 ゲルハルト・フライの発見は、１９８４年
 ワイルズが谷山－志村予想の攻略に取り掛かったのは、１９８６年
 ワイルズが攻略完了したのは、１９９４年

いささか興醒めな事を述べると、谷山－志村予想を解けると思う数学者がほとんど居なかった中でワイルズがそれに挑戦し、フェルマーの最終定理を証明したのは偉業であるが、数論の成果の大棚ざらえをやったのがワイルズだという矮小化もできてしまうと思います． （アインシュタインが特殊相対性理論でノーベル賞を受賞できなかったのはノーベル委員会がそれを大棚ざらえと看做したかららしい）
それは技術開発の歴史と似て、Appleのモバイル端末「ＮＥＷＴＯＮ」が泣かず飛ばずだったのに、しかしiPhoneになって遂に成功したのは技術シードが完備した偶然の幸運だったからであって、すなわち不運でなくなった時代の一番乗りだから成功したんだよというどの分野でもありがちな出来事と似ています．

フェルマーが最終定理を思いついたとき、フェルマーは解法があると述べました．なのでもしかしたら谷山－志村予想に頼らないもっと簡単な解法をどこかの数学者が発見するかもしれません．その楽しみはまだ残っていると思います．

かしこ


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