2011年11月19日土曜日

職業訓練 住宅リフォームシリーズ009 電気業と建築業の最大の差違は品質管理システム

3日ぶりの住宅リフォームシリーズです.

前回、建築が難しいのはクレームが来ないように施工することだ、と書きました.

今日は、建築のクレームについて書こうと思います.

フローリングにポチッとした穴があいてたり、新築の高層マンションでゴキブリがでたりしただけでクレームになることがあるそうです.そしたらフローリングは張り替えです.ゴキブリにはどう対処するのか知りませんけどね.

私なんかは、リビングを一日でも使えば椅子の脚でフローリングに傷がつくと達観しているのでフローリングにポチッと穴があいていてもクレームにはしませんけれど、中にはクレームにする人がいるので、マンションデベロッパーは施工業者に対して、ポチッとした穴でも許さないという姿勢で臨みます.一部のうるさい客のために、業界全体がハリネズミのような防御体制をとっているのです.

私はずーっと電機メーカーに勤めてきて、今回建築業界のお勉強をしたわけですが、電気業界と、建築業界の最大の違いは「品質管理システム」だと痛感しました.

どういうことか?

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まず電気業界のことを説明しましょう.以下のことは自動車や食品業でも同じはずです.

私は以前のブログで、研究所の成果をそのまま売ってはならないと書きました.

では、事業部の設計者の成果ならそのまま売って良いのか? とんでもありません! それも絶対にダメです.

すべからく工業製品は、品質保証部門(QA)の出荷承認があってはじめて販売が許されるのです.社長がQAを兼ねていたりする零細会社もあるでしょうが、ISO9000とかに耐えられませんからそういう体制のままでは大手企業との取引はできません.

設計と製造において品質管理システムはこのように運用されます.
耐久性などの品質仕様をQAが決める → 設計する → 試作する → 製造不良のヤバさをQAがチェック → 耐久性をQAがチェック → 市場不良率をQAが予測 → 事業部長が製造承認 → QAが出荷承認 → 製造品質をQCがチェックする → 市場不良が出たらQA部長が真っ先に謝りに行く

どうです? 設計はQAの奴隷かよと思う? でもそれは仕方ないです.設計は自由にやれちゃうのでチェック機構としてのQAは必要だと思います.昔、QAが満足に機能してない会社で、設計者である私がとんでもないミスを市場に流出させてしまったことがありました.訴訟沙汰になったかも.あれはひどいことをしました.

複雑高度化した現代の電気製品であっても品質システムで守られていれば、設計ミスの製品が市場に流出してしまうことは、あまりありません.また、製造ミスが市場に流出してしまうことは、あまりありません.設計者本人や製造者本人がクレーム処理費用を負担することはありません.

このように、設計不良や製造不良が流出しないように、一気通貫した品質システムで防備しているのが電気、自動車、食品などの大量生産産業です.

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建築業界ではどうかというと、建築業界に品質システムはないですね.

設計品質については、建築確認といって市区町村の役場のチェックが入りますが、建築基準法に則っているかどうかのチェックだけです.雨漏りがするかどうかなんてチェックはしてくれません.だから、お客さんからクレームがくるかを左右するような設計品質は、設計者の能力次第です.(大手設計会社には社内の品質基準ぐらいはあるでしょうが)

施工品質については、監理する元請けにダメ出しされたら、施工者が自腹でやり直さなくちゃいけないわけで、施工者が上手に施工するしか対処のしようがありません.

このように、建築業においては、物件が単品料理であるがゆえに、設計者や施工者がクレームのリスクに晒されているのです.しかも、やり直しとなると、普通に施工するよりも手間がかかるでしょうし、赤字になって痛みが大きいです.

自分の家を自由にリフォームするのは簡単だけど、工事のやり直しを避けられるように施工するのは難しい.ただ技能が高いかどうかだけでなく、工具を床に落とさないとか、養生に万全を期すとか、傷を見えなくするテクニックとか、言い訳をする口先とか、そういうことが網羅的に重要です.

このハラハラ度が、建築業の特徴だと思います.かな~りキツイじゃん、建築業!

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