今回読んだのは「世界は金本位制に向かっている」という題名ですが、世界が金本位制に向かっている理由については、世界中で皆が「有事の金」を買いまくっているから金本位制に向かっているのだとしか基本的に言ってないので、あまり説得力は感じませんでした.
ところで、金の比重(19.30 g/cm3)とタングステンの比重(19.25 g/cm3)ってすごく似てるって知ってましたか? 99.74%一致してます.自然のなせる驚きのそっくりさん元素です.
日本の国家金備蓄量は800トンぐらいらしいのですが、そのほとんどはアメリカの倉庫に収蔵されています.ドイツなどもアメリカに金を預けているので、すぐに返せと言うとアメリカがすごく怒るので日本は怖くて返せと言えないというのは陰謀論では有名なハナシでして、さらに、USAはその預かっている金をすでに何かの支払いに遣ってしまっていてもう残っていなくて返せない.金の延べ棒は倉庫に置いてあるのだがそれはタングステン製の偽物なのだーという説も有名です.金のハナシになると、事実と陰謀の境界が曖昧なので楽しいですね.
最近はドルもユーロも減価して基軸通貨としての信頼が揺らいでいるので、世界中で「有事の金買い」が流行していて、その流行に乗ってないのは日本ぐらいなもんだとこの本は書いてます.まぁ金の国家備蓄量を増やそうとするのは悪くはないと思うのでやればいいんじゃないのとは思います.というか、まずはUSAから半分ぐらい返してもらったらどうですか?
USAが「金本位制」に移行する日が来る理由としてこの本が指摘しているのは、USAの保守派とかティーパーティーはマジメに経済活動しなくちゃいけないと思う人々なので、変動相場制がキライで、金の裏付けのある通貨にしなくちゃダメですよと考えている.すなわち、変動相場制が好きなウォール街の住人と、金本位制が好きな保守派の争いであるとのことです.
わたしはどう思うか?
変動相場制における通貨価値の変動によって、企業業績とか人々の生活が振り回わされる様を我々は数10年間も見てきたし、実際にそれで苦労してきました.だからといって変動相場制はもうたくさんだ!とはわたしは思わないんです.
世界中が好景気でバブルが加熱しすぎの時期には抑制的な金融政策を自動的に行う仕組みとして金本位制がよいと思うんですが、バブルの後始末の時期には変動相場制がよいと思う.とはいっても軽々しく変動相場制と金本位制をスイッチするわけにもいかないだろうから、変動相場制を維持しとくほうが、日常的に不幸だけど、破綻時の逃げ道があるだけマシだというのが理由です.
金本位制=固定相場制でバブルの崩壊を食い止めるために経済成長を維持しようとすると、領土拡張のために戦争を起こすしかなくなる.中国が尖閣を欲しい理由がまさにそれだという説もあります.
あるいはバブル崩壊の後始末のためには通貨を減価したくなるので、固定相場を脱落することになる.冒頭のニクソンショックもこの一環かと思われます.いまギリシャがユーロ圏内で通貨を減価する自由がないのでがんばって債務返済しようとしてますけど、それで国民の不満は爆発しないのでしょうかね?
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たくさんの麻雀小説を書いた阿佐田哲也の著作の中の1シーンで、博打打ちの主人公が調子が悪くて負けているとき、賭場の胴元が「つかっておくんなせぇ」といって輪ゴムで結んだ札束を投げて寄越すシーンがあります.強くて有名な博打打ちが参加すると賭けの相場が上がる(インフレ)ので、賭場が盛り上がって胴元の収入が増える仕組みになっている.強い博打打ちでもたまに調子の悪いときがあり、すると賭場が盛り上がらないので困る胴元が信用で押し貸ししてくれる、という賭場の仕組みが描かれています.
わたしは、資本主義セカイの駆動原理ってこの賭場ようなものだと思っています.ミクロにはマジメに働いて報われるべきであるのは言うまでもありませんが、そういう個人の小さな経済活動を支えているバックグラウンドには、「壮大なネズミ講」「バブルを演出すれどもバブルのギリギリ手前で寸止めさせるマクロ経済政策」「マイルドなインフレ状態の継続」「宵越しの金を持たせずにバンバン遣わせる誘導」みたいな巧妙な仕掛を動的に回しつづけないと経済が盛り下がって不景気になってしまう.賭場の胴元がする押し貸しが横行するダーティーで本物の価値なんかどこにもないのが資本主義のセカイだと思います.そんなのは嫌だとか、そうあるべきではない、と反抗したい向きもいることでしょうけれど、残念ながら資本主義においてはマル経のいう「下部構造が上部構造を規定する」とはならず、上部構造(マクロ)に下部構造(ミクロ)が引きずられて走ってゆくのだとわたしは思います.
もちろんゴールドが不変の価値であるのは確かでしょうが、通貨の価値をゴールドに一致させて通貨価値を誰にも操作できなくしてしまうと、胴元の押し貸しができなくなるので、経済が盛り下がったとき(バブル崩壊時)に打つ手がなくなって、他国の富を奪うために戦争だーなんてことになりかねません.わたしが金本位制を好まないのはそういう理由です.
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経済学では、「固定相場制」「金融政策の自由」「資本移動の自由」を同時に成り立たせることはできないと言われます.わたしは学問的に理解しているわけではありませんが相場観的には理解できます.
いま、日本は「金融政策の自由」「自由な資本移動」の権利を持っている代わりに「固定相場制」を捨てています.USAもユーロも同様です.ここで自由な金融政策とは、日銀が公定歩合や通貨量を日本の都合だけで勝手に決めて良いという意味です.自由な資本移動とは、日本人の海外投資も外国人の日本株買いも自由だということです.固定相場制を捨てているとは、変動相場制ということです.いま我々が生きているセカイなので理解しやすいと思います.為替レートが変動するのが悩みです.
戦後の日本で1ドル=¥360だった頃には、「固定相場制」「金融政策の自由」を得た代わりに「資本移動の自由」を捨てていた時期があったはずです.ハワイ旅行のときに持ち出せるのはXXX万円までという制限があったと聞いたことがありますが、その時代のことです.まだ経済力が弱かったので一種の鎖国みたいな状態かと思います.海外投資ができないのが悩みです.
USAやユーロも現代日本と同じシステムです.バブル崩壊で傷んだバランスシートを改善するために「金融政策の自由」によってドルやユーロをドカドカ刷って、1)そのマネーで銀行の不良債権を買い取って、2)対外債務は通貨安で減価させ、3)通貨供給で無理矢理創り出したインフレで借金を減額させる、という「まさに現代の徳政令」を国家ぐるみでやっています.(変動相場制なので通貨安をも演出できてしまう)
ドルにペッグした現代の中国とか韓国だと、「固定相場制」「資本移動の自由」を確保している代わりに「金融政策の自由」を放棄してます.なので、USA(FRB)がQE2とかQE3でドルをドカドカ刷るのに歩調を合わせる形で人民元とかウォンをドカドカ刷らないとドルに連動できない.つまりUSAと同じ金融政策しかとれないわけです.すると、景気が過熱していてインフレ退治しなくちゃいけない国内事情にもかかわらず、人民元を刷らなくちゃいけないので、インフレを促進してしまうなんつう副作用でお悩みだったことでしょう.(近頃はバブル崩壊近しとも言われるのでジレンマは和らいでるのかな?)
ユーロ域内の諸国はどういう立場かというと「域内は固定相場制」「域内は資本移動自由」であって、ゆえに「金融政策の自由は放棄」しています.それで国家破綻する寸前のスペイン・ポルトガル・ギリシャなどは、中央銀行が不良債権を買い取ることができず、通貨安で対外債務を減価させる徳政令が封じられています.なので、増税+緊縮財政による経済縮小で国民はさぞ苦しいと思います.
で、金本位制=固定相場制の時代が訪れたら、どうなるでしょうか?
「固定相場制」を選択するのは言うまでもありません.自由貿易ですから「資本移動の自由」であるのは当然です.すると、捨てるのは「金融政策の自由」ということになります.ということは、バブルの後始末のために、USAやユーロが実施した徳政令を採用できないと思われます.そして、スペイン・ポルトガル・ギリシャで実施されているような、増税+緊縮財政による経済縮小で国民が苦しむことになるでしょう.小国が経済縮小しても世界経済に大きく影響はしないかもですが、USA・EU・日本が経済縮小にまみれたら世界経済がどんなに混乱するでしょうか???
実は、こないだまでの民主党政権が正しいと信じていたのはまさにこの「増税+緊縮財政」による経済縮小だったわけですので、わたしは民主党主流派のことを当ブログで批判してきました.いまの自民党政権はFRBやEUみたく「現代の徳政令」をやるべきだと思ってやっているわけで、市場はそれに賛同しているようです.
(インフレ率2%っていうのは、借金した者に毎年2%づつマイルド徳政令するのとおなじです)
というわけで最後に、USAがドル基軸体制をおかしなやりかたで延命しようとして金本位制を復活させることのなきよう祈ります.もっとも、今回読んだ本によると、金本位制を復活したがっているのは、無邪気に孤立主義的な保守派らしいので、その心配はあまりないように思われますが、、、
かしこ
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単純な質問ですが、各国がUSAに持っている金が有ると言われていますが、かっての貿易の保証金としてUSAに供託したものでしょうか?
返信削除平門さんは、執筆にも長けていると思います。そのうちに出版依頼がくるかも?
もう一度、ゆっくり読んで考えてみたいと思います。
ドイツの備蓄金については、先の大戦の後、ソ連に奪われるかもしれないのでUSAが預かっておくけどそれでいいよね?ってことだったとこの本には書いてあります.日本の備蓄金もそんな理由でUSAが持ってる.東南アジア諸国も似たような事情でUSAに預けてあるらしいです.
削除でもそれがタングステンに化けているというのは面白いです.
金もタングステンも貴重金属なのでしょうが、金は、装飾品、IT製品のコネクタ-に成って減っていった。タングステンは、LED電球に代わりつつあり、余ってきたのかな?
返信削除価格差は?
http://tungsten.wiki2.jp/ 55$/kg 5.5円/g
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/1716249.html 2000円/g
こんにちは 先日 デンマークの税金と 幸福度に付いての Youtube を見ました。
返信削除物価は高く 消費税は24%なんですが、 生活保護等が充実していて、ホームレスまで月24万くらい貰えるそうです、彼ら曰く、生活保護を貰うためにホームレスをしているとのこと(夜はどうするんでしょうね、おそらく専用の宿泊所なんかがあるのかな)
日本はというと3つくらいのマフィアに牛耳られていて、庶民は絞られるだけです。
原子力も応用すれば金も作れるんですがその動きはありません。
話は変わって、福島の影響は全世界に及んでいるようです。
http://translate.google.co.jp/translate?hl=ja&sl=en&u=http://phoenixtears.ca/&prev=/search%3Fq%3DRICK%2BSIMPSON%25E3%2580%2580%25E3%2581%25A8%25E3%2581%25AF%26hl%3Dja%26biw%3D853%26bih%3D531&sa=X&ei=EjlFUaPiKMTzlAWD_4CgBQ&sqi=2&ved=0CDUQ7gEwAA
デンマークのように楽して生きたいですー
削除デンマークの Youtube
返信削除http://www.youtube.com/results?search_query=%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF+&oq=%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF+&gs_l=youtube.3..0l10.18678.18678.0.18887.1.1.0.0.0.0.134.134.0j1.1.0...0.0...1ac.1.lrApIxavCfg
「固定相場制」「金融政策の自由」「資本移動の自由」を同時に成り立たせることはできないというのは各項を頂点とする三角形の内部のどこかで存在できるということか。頂点に向かう=純粋志向は破綻で存在できない。経済は市場、計画、協議の三角形内のどこかで存在できるってのを読んだことあります。頂点に向かうと破綻。
返信削除三角形の内部のどこか、というのは実際そうであると思います.
削除たとえば資本の完全なる自由はアリエナイわけでして、原則自由ではあるが実態は関税で保護するとか、大店法で保護するとか、いろんな規制があるのでしょう.TPPが導入されるとそれがどれだけ撤廃されるのか心配ですけど.
あと、中国の為替レートは、原則変動相場制なんだけど、中国の介入によって変動が著しく小さい範囲に押さえ込まれているわけですし.
金融政策の自由も、実際はG20諸国にご理解を得ずに好き勝手にやりすぎると顰蹙かうし.
人間の営み的ですね.頂点狙い=原理主義は行きすぎというわけでしょうか?
三角形内のどこかに存在、はユーゴ研究専門家の岩田昌征さんのトリアーデ理論というやつで、私は10年ほど昔に岩田さんから聞いたんだけど、それ以来これにかなり同感してます。ソ連は中央集権計画経済、資本主義は市場、ユーゴは協議経済、だった。この各頂点に向かうと経済は破綻して、存在できるのは三角形内のどこか。原理主義はダメってのも彼は言ってたな。三角形のどこにいるかは歴史的、個別的事情で決まるし、ふらふら彷徨いながら存在しているんだ。経済だけでなくかなり万能的にあちこちで使えるロジックかも。
返信削除新自由主義者は『資本の自由の頂点』を目指して、人間の介在を排除することも厭わないので、ああいうのはやめてほしいです.
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