2016年11月12日土曜日

トランプが大統領に当選した今、ライブドア事件を振り返ってみる

昔から興味があったライブドア事件を検証する本を読んでいます.5~6冊買ったかな、古本ですけど.ライブドア騒動は2005年がニッポン放送買収騒動の時期で、2006年初にライブドアにガサ入れ、という流れでしたのでもう10年も経つのですね.

同時期に鈴木宗男・佐藤優が逮捕された件も何が犯罪だったのか釈然としなかったし、ライブドア事件も何が犯罪要件だったのか釈然としなかった.「国策捜査」という、いまいち定義困難だけど雰囲気は判る言葉がマッチするように思います.ホリエモン・鈴木宗男・佐藤優、どいつもべつに好きではないけど、ああいう風に検察に叩かれたことに対しては義憤を感じます.

あれから10年、ちょっちライブドアの本を読んでみるか、と思ったのは東芝の粉飾事件が在ったからです.ライブドアが叩き潰されたのに東芝がお咎め無しとは、半島や大陸の人治国家じゃないんだからと呆れる他ありません.

というわけで最初に手にとったのが、「ヒルズ黙示録」という本です.

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ライブドアの犯罪要件の前に、ニッポン放送買収劇と、その後追いで楽天によるTBS買収劇のあたりをこの本から振り返ってみます.

どちらもキーワードは、裏に村上世彰あり、です.

ニッポン放送は小規模企業だけどフジTVの親会社なので、ニッポン放送を乗っ取ればフジTVを支配できてしまう、そういう構造に目をつけた村上世彰が、ニッポン放送株の買占めを進めていた.だが、ニッポン放送の防衛を崩せなくて、塩漬け状態になった村上世彰は青くなっていた.

当時羽振りの良かったIT企業にニッポン放送株を売りつけようとして色々当った結果、ライブドアが釣れた.
「ボク(村上)と堀江さんが組んだらニッポン放送のTOBなんか簡単さ」

ライブドアはニッポン放送株を買い進めたが、村上が持ち株の全部を売らなかったことと、TOBで株価が値上がりしたことで資金が続かなくなった.こんどはライブドアが青くなる番だった.表ではビッグマウスだったホリエモンだが、裏ではフジTVとの和解工作をやっていた. 

ライブドア敗北の決定打になったのは、ホリエモンを嫌いなSBIの北尾の登場による.北尾は、ニッポン放送から、フジテレビ株を議決権ともども借りた.これで、ライブドアがニッポン放送株を買い占める意味が消失し、試合は終了.それでもライブドアはニッポン放送株をフジサンケイグループに引き取らせた利益として440億円をせしめたのだからTOBを仕掛けた甲斐は在ったというところだろう.

村上の入れ智恵で始まり、北尾の加勢で終了し、フジは金を失い、ライブドアは儲かった.これがニッポン放送買占め騒動だった.ちなみに、後のライブドア事件ではニッポン放送買収劇は訴追されていない模様.

村上にそそのかされた騒動には第二幕があって、楽天によるTBS買収がそれだった.村上がTBS株を買い占めてまた青くなって、楽天をそそのかしたという図式.うはは.
ここで面白いのは、ライブドアも懲りずにTBS買収に手を挙げたことだった.村上が楽天と組むと決めたのでライブドアは仲間はずれになった.怒ったライブドアが楽天のTBS買収をマスコミにバラして妨害した.結局楽天は得るものがほとんど無く、青くなったままで試合終了.うはは.

今、ラジオ放送はRadikoで同時ネット放送されています.地上波TVもネット同時放映に向けて重い腰を上げつつあるようです.10年前にライブドアや楽天が吠えていた構想のごく一部が今頃になって実現しつつあります.旧い企業の体質転換には時間がかかるもののようです.

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ホリエモンを好きか嫌いかを聞かれたら、嫌いと答えます.旧体制の破壊者かつ新体制の創造主、というイメージで一時有名を馳せましたが、この本を読むと随分と行き当たりばったりな人で、IT企業経営には興味が無く部下任せであるが、そのくせ決裁権限をちっとも委譲しない、宇宙開発と合コンにばかり関心が向いてしまっている、そんな経営者像が描かれていました.まるで3代目で会社を潰す放蕩社長みたいな人.

心底意外だったのは、ライブドアの前身であるオンザエッジの経営者だった頃のホリエモンは、とても優秀な、コンピューター技術者・ホームページ制作者だったそうです.彼の超主観的な発言からは技術者の匂いをちっとも感じないんだがなぁ.

仮にホリエモンが逮捕されなかったとしても、リーマンショックをかいくぐって2016年の現在までホリエモンの拡大路線が持続していたとは思えず、2008年のリーマンショックでボカーンと倒産してたんじゃないかと思います.

ライブドアが行ったとされる株価操作・会計操作の主犯がホリエモンだったと認定されましたが、ホリエモンの主張である「スタッフが合法だと言うからボクはそれに従っただけだ」をわたしは信じます.合法違法スレスレの金融テクなんかホリエモンの専門外ですから.社長としての責任論はあるでしょうけど、主犯ではなく、主犯はCFOの宮内だろうと思います.検察はホリエモンをやる以外のストーリーは全く考えていなかったようですが.

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ライブドアの犯罪要件は何だったのか?

この本には裁判所が認定した違法性について詳述はされていませんが、ひら理解では大雑把には以下のようです.

M&Aのための(繋ぎ)資金の出所を遡ると主に2つに行き着く.
 1) ライブドア株の売却益 (投資組合を活用)
 2) 宮内がとある日本人から借りた金 (後に株売却益で返済)

1については、M&Aの原資たる高株価を演出するために、ライブドア株を人知れず売却し、売却益をライブドアの連結営業利益に計上する必要があった.そのために、自前の投資組合を隠れ蓑として活用した.

この投資組合というのがクセ者で、当時の商法では連結対象じゃなかったのだそうだ.だから、投資組合にライブドアが出資し、投資組合から配当を得たならそれはライブドアの営業利益に計上しても違法ではなかった.たとえ自社株の売却益であっても.
ただし、ライブドアの息のかかった投資組合でそれをやるのは利益相反になるので会計監査人が許さない、という不文律は当時でも存在した.だが宮内の仲間に会計監査を頼んだので、監査が甘かった.後にこの会計監査人は有罪になっている.
結論としてはかなりグレーだが違法とまではいいがたいというのがひら印象.

2については、ライブドアCFO(宮内)が友人から借りた金を投資組合に投資して、利子つきで返済する、というスキーム.宮内は中抜きした金でフェラーリを買ったそうだ.でもこれってどれだけ犯罪性があるんでしょうかね?
謎の海外ペーパーカンパニーを装って役員自らが繋ぎ融資することで、自社株の市場売却を隠蔽した罪ということになるのだろうか? 随分と迂遠な罪状であり、CFO個人の訴追はあるかもだが会社を潰すほどのこともなさそうに思えるが.

最終的に1と2に潜むグレーな部分が株価操作のための風説の流布および偽計と認定されたようです.

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この本から得られた情報だけですが、ライブドアを叩き潰し、たくさん居た個人投資家に損害を与えるほど悪質な経済事件だったとは、やはり思えませんでした.東芝という巨大企業が上から下まで粉飾決算をやっていた事件の方がはるかに悪質だとやはり思わざるを得ません.

ITバブルから2005年までの期間、IT長者の一人であるサイバーエージェント社長が芸能人の奥菜恵を妻にした、などというニュースとともに、一介の庶民が起業してIPO長者になってすごいよね、というのがイエロージャーナリズムの一つのパターンだったように記憶しています.ところがライブドアへのガサ入れがあってからというもの、マスコミで悪目立ちしたら検察に刺されるとばかりにIT長者達が表に出なくなったのもわたしは記憶しています.ライブドアの立件を通じて、叩き潰されたのは個人投資家だけでなく、IPO長者も悪者にされてしまったように思っていました.

ライブドアの本を読んで当時の事を思い出したりしていた最中、奇しくもUSでは経済的優勝劣敗の行き過ぎに対する有権者の不満をトランプという人が掬い取って大統領選を制しました.

ライブドア事件を軸に10年前を振り返ってみると、日本のエスタブリッシュメントは、USのような経済的優勝劣敗方向に日本が助走を始めた途端、かなり強引なやり方でそれを叩き潰そうとしたのではないかと、そう思えてなりません.すなわち、USのように有権者が分断されるよりも10光年ぐらい手前の段階で、日本的情緒が軌道修正を発動したのではないかと.

ひら的には、IT長者が賑やかししてるぐらいならOKなんじゃないかと思うんですがね.IT長者が日本人である限りは、という条件つきだがなwww


次は、宮内が書いた「虚構」を読んでみようかな.
かしこ


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