かつてのストレージデバイスといえば、磁気テープ、光DISK、HDDのような、メカニカルな記録方式でした.メカですから叩けば壊れる、指紋をつければ壊れる、など使いにくい面がありました.
FLASHは半導体ですからメカではなく、2次元マトリックスの交点にある電荷で0/1を記憶します.叩いても電荷が消えることはありません.
そんなFLASHに死角はないのかというと、周知の通り死角はあります.
・電荷は10年と保てないだろう =長期保存性の悪さ
・放射線で電荷が死ぬ
・書き換え回数制限がちとキツイ =サーバ用途だと定期交換が必要
放射線で死ぬのは宇宙船や炉心の用途でなければエラー訂正で解決できるでしょう.しかし、長期保存性の悪さはいかんともしがたい.人類の膨大なデジタルデータを100年を超えて保存できるデバイスは今のところ無いと思われます. (紙は長期保存性に優れるが記録密度が低すぎて使えないとする)
FLASH代替メモリの候補として、昔から提案されているMRAMという磁気記録メモリや、RRAMという抵抗変化メモリがありますが、いつまで待っても出てきません.スピントロニクスによる明るい未来はどうなったのだ? いい加減にもうお主らのことを見捨てたくなってしまうぞ.
そんな折、カーボンナノチューブを応用したNRAMというのが出てきそうだという耳寄りな話があります.
NRAMの原理は、カーボンナノチューブ(CNT)の接触/非接触による抵抗変化をセンスすることにあります.
CNTは物理的に曲がるので、物理的な接触/非接触を制御できれば不揮発性のメモリとして利用できるというのがNRAMの書き換え原理です.しかも、電荷のように放射線で簡単に飛んでしまわず、ガラス内部に閉じ込めた電荷のように長期間かけてチビチビと流出してしまうこともなく、CNTの物理的形状は長期保存性に優れるストレージとなり得る...上記の記事はそんなことを書いています.たしかに恐るべき正体です.
しかも富士通は2018年にASIC上にNRAMを載せると言っている.そりゃすごいや.
だとしても、謎は残ります.
CNTの物理的な接触/非接触をどうやって制御すんの?
USのNRAM特許を出しまくっている会社の解説がなかなか良さそうです.
↓まず、CNTの非接触状態のイメージ図が上です.電気が流れません.CNTが接触している状態が下図です.電気が流れます.ここまでは端単に理解可能です.
↓電子顕微鏡でCNTのopen/closeを撮影したのがこの写真.あぁ、CNTが物理的に動いたんだねぇと理解はできる.でもどうやってCNTを動かしたのかは理解できない.
↓もいっちょ理解しておく必要があるだろう.上図を観た人はCNTメモリ1セルに、CNT架橋が1つ在ると思ってしまうだろうが、そうではない.正解は下図のように、1CNTセルに架橋は多数ある.多数あるCNT架橋のうち、閉と開の架橋の比率で高抵抗/低抵抗が決まる.ここまででNRAMについての謎の40%は理解できた.
でもこんなにたくさんのCNTをどうやってウエハー上に生成するの?
その答えは、なんと、CNT溶液をスピンコートするんですと! なんと簡単な.不要なCNTをエッチングで除去するのは言うまでもない.中間工程のウエハーにカーボンをスパッタするみたいな無茶な製法ではないんですね.よかったよかった.
それでもNRAMについての理解は70%です.
最後の疑問、
CNTの物理的な接触/非接触をどうやって制御すんの?
が残っています.まず、開放状態にあるCNT架橋を閉じる方法は簡単.高電圧を印加すれば、クーロン力で閉じる.一旦閉じたら、ファンデルワールス力で閉じた状態が保持される.
謎なのは、閉じたCNT架橋をどうやって引き剥がすか?であります.
引用するとこの箇所です.
applying a voltage greater than the read voltage across the cell, current will flow across the junctions which generate CNT phonon excitations with sufficient energy to cause separation of the CNT junctions leading to the phonon driven RESET operation.
すごく強引なひら意訳ですが、
電流を流してCNT架橋を加熱する.炭素格子を伝播する熱がフォノンを形成し、励起フォノンの作用でCNTの何割かが開状態に変化する.
キーワードはフォノンですね.フォトン(光子)じゃないよ.
一般的な熱の伝播現象は、原子の振動が隣の原子へ伝播するイメージであってると思う.ところがCNTのような結晶格子では、熱伝播の波頭を一種の粒子のごとく定式化できる.それがフォノン.わたしの知識ではそのくらいの事しか判らない.
↓ともあれそんなフォノンの励起状態によっては、CNTが太くなる方向に力が生じる場面があるかと思えば、
↓またある場面ではCNTが水平に移動したがる力が生じることもある、ということらしい.間違っていたら素直に切腹します.
そんな現象をNRAMは活用するようです.意外に物理学っぽいデバイスですね.
製法の簡単さといい、長期安定性といい、確かにNRAMには期待が持てそう.電荷やスピンのようなピュア量子力学ではなくて、CNTは古典力学と量子力学の中間地帯に存在するガサツさに好感が持てる.NRAM開発者にはどうか頑張っていただき、10TBのNRAM SSDを世に出してもらいたい.そうしたらアニメのデータをそこに保存するでぇ~.
かしこ
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