どういった特許に抵触したのかについて説明する記事はあまり見かけませんが、こちらの記事はわりとわかりやすいと思います．
http://jp.techcrunch.com/archives/20120824apple-wins-patent-ruling-as-jury-finds-samsung-infringes/
その記事曰く、タッチパネルを指一本で操作するのと２本で操作するのとで動作が変わるといった特許（915特許）についてSAMSUNGによる侵害が認められたようです．
一方で、Appleによる特許侵害は認められなかったので、Appleの全面勝利だったとか．
わたしが思うに、AppleとSAMSUNGのような大手企業同士の知財訴訟でこれほど一方的な勝敗がつくのはあまりないように思います．SAMSUNGは915特許侵害を承知でスマホを作ったのだと推測しますが、SAMSUNGのように製品を実際に設計生産している会社であれば、AppleがSAMSUNG保有の特許に抵触している部分を何かしら見つけることができて、引き分けではなくても３：２ぐらいのスコアでケリがつくのがよくあるパターンです．今回のApple vs SAMSUNGは３：０の完封負けなわけで、そんなこともあるんだねぇというのがわたしの印象．USAの陪審員のApple贔屓感情がそうさせたか、SAMSUNGが弁護活動をサボッたか、そんな背景を感じます．
ソニーがプレステ１を開発したとき、後発であるソニーは先発の任天堂やセガのゲームマシンの特許を調べたが、特許侵害を承知でリリースしたと聞いたことがあります．ソニーは映像技術をback groundにする企業ですから、画像処理技術について任天堂やセガが特許侵害している逆襲ネタを持っているので特許侵害を承知で出したというわけです．同じような事情で日本の企業同士は事実上お互いを知財訴訟できない環境になっています．こういう「承知でする侵害」は特許戦略ではフツーの出来事ですので、SAMSUNGには負けない理論武装が何かしらあったのではと思うわけです．なので今般の完封＆800億円には驚きました．
この記事を読んでくださっている皆さんのデバイスは、タッチパッドの付いたノートPCか、画面がタッチパネルになっているスマホが多いでしょう．
数年前にやった仕事で、タッチパネルの特許を調べまくったことがありました．1000件近くのUSA PAT.をスクリーニングしました．それで見えてきたのは、タッチパッド／タッチパネルの基本特許は、Symapticsという会社が固めて持っています．hardware的な特許も、software的な特許もガッチリ固めています．Synapticsはタッチパネルの王様です．ノートPCのタッチパッドの右辺を指でなぞるとweb画面が上下にスクロールしますよね？ （しないのもある） あれはsynapticsの特許のひとつです．synapticsは、自社製のタッチパネルを買ってくれるなら特許を使わせてやるよというスタンスなので、他社のタッチパッドを搭載したノートPCでは右辺スクロールができません．わたしはMSIのU100というノートPCを３台持っていますが、うち２台は右辺スクロールができませんで使いにくいです．きっとMSIはcost downでsynapticsのタッチパネルを不採用にしたんでしょう．
そんなsynaptics王がいるので、タッチパネルがuser interface（UI）のセールスポイントであるiPhoneを開発するにあたりAppleはSynapticsにさぞやたくさんのライセンス料をぶんどられているのかと思いきや、おそらくそんなでもないはずです．なぜか？
Appleはとても重要な周辺特許を持っているからです．それが画像を２本指で拡大縮小する特許です．Synaptics王は悔しいでしょうね．タッチパネルのほとんどの特許を押さえているにもかかわらず、２本指操作というUIにとって大切なところを押さえてなかったのですから．おかげで、SynapticsはAppleとクロスライセンスを締結せざるを得なかった、と聞いています．正確には台湾の会社との３社でクロスライセンスにしたとか．
softwareの特許には何かしらの回避手段があることが多いですが、hardware特許は回避が難しく、しかもUIの特許となると見た目で簡単にバレてしまいますし、回避手段イコール操作性の悪化でしかないので、ますます回避が難しい．なのでそこを侵害の争点にされるとぐぅの音も出ないんでしょうね．
ところでこのAppleの指２本特許って、今般のSAMSUNGとの800億円訴訟の争点である915特許に似てませんか？ だとしたらすごい特許だ．かつて自分がやった特許調査を思い起こし、ぐぅの音を吐いてしまったのでした．グ～
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