2015年1月6日火曜日

やっと観た観た「永遠の0」

ゼロ戦好きとしては観なくてはいけない映画「永遠の0」をやっと観ました.

観客動員数700万人、興行収入86億円と堂々の興行成績を残した本作は、描いた対象がゼロ戦の特攻だったため、左の方面からは「こんなのが流行するのは右傾化だ」とか批判され、井筒監督には「観た記憶を消去したい」などと酷評されていました.また右の方面からは特攻を暗く描きすぎだと非難されてもいました.そういう場外乱闘を予備知識として知った上で本作を観ました.

感想を箇条書きすると、
■暗い、なんて暗い映画なんだ.これが700万人を動員したとはちょっと驚いた.
■本作が大いにウケた理由は、昭和時代のNHKの朝ドラマのウケ方に近い.平成になって少なくなったが、かつて昭和時代には戦中戦後ドラマがマーケティングとして成立していた.NHK朝ドラが時代を遡るほど戦中戦後ドラマが主流だったのを記憶している人は多かろう.空襲で焼けた街に兵隊が復員するエピソードなんてNHK朝ドラの定番でしたから.百田さんが原作小説を出版社に持ちこんでも軒並み不採用だったそうだが、それもそのはず、平成の日本人に戦死者を悼むストーリーなんかアピールしないさと出版社のマーケ担当者が考えたのは当然だったろう.ところが、意外にもまだ平成の日本人に戦中戦後ドラマの感覚器官が残っていた.それが「永遠の0」のヒットの理由だとわたしは思う. (本作の作りからして特攻精神に感銘を受けた等とは思えない)
■では、「右傾化の象徴」的な批判に晒されたのはなぜか?
百田尚樹は保守系イデオロギーポジションの人である.その百田さんが、世間の大勢を占める中立的イデオロギーポジションの人々を対象とする保守思想入門編的な意図を持ちつつそれを隠しに隠して穏便に穏便に作ったのが「永遠の0」だったと、裏の構造を推測する.
だからこそ、左翼イデオロギーポジションの人々からは、こんなにソフトな保守入門編を出されたらオレ達の商売あがったりで困っちゃうよ、と痛くて仕方なかった.それが「右傾化の象徴」とか「記憶から消したい」という揚げ足取りめいたズレた批評として表面化したのだと推測する.
そうかそうか、さぞ痛かろう? ざまーみろ、と思って観ていたよ、はっはっは~.
■ゼロ戦の描き方、空戦の描き方は、よく作ったと褒めていいだろう
■映画としては、分かり易すぎるところが逆に不満なところだが、一般向けにはそれが正解だったろうとは理解する.宮崎駿は「風立ちぬ」の全編から発散される「死の匂い」をもって反戦の訴えとした.それは判りにくいので一般ウケしづらかったが、映画としてはそれが優秀だと思う.その点「永遠の0」は、NHK朝ドラ的判りやすさで作られていて、映画としては芸術点減点10みたいな作品になってしまったと思う.まぁこれは作家のマーケティングスタンスなので制作者が愚かだとまで酷評するつもりは毛頭ない.
■お奨めできる映画である.

【あらすじ】
あらすじは至って簡単.どんでん返し的なのもほとんどナシ.

存命の祖父は血の繋がりが無く、本当の祖父は特攻で散ったと知った現代の青年が主人公.祖父を知る老人を訪ねて、ゼロ戦パイロットだった祖父の戦争との関わりを知る.家族のために生還すると誓った祖父だったが、最後には特攻に志願し散った.その理由は?

人物相関に少しカラクリがあるんだけど、それもNHKの朝ドラレベルの平易なもの.ネタバレになるので書かないでおきます.

【感想】
描かれる戦は飛び飛びです、S16年真珠湾、S17年ミッドウェー、S18年頃のラバウル、S20年鹿児島の特攻基地.それと終戦後.戦闘シーンは意外に血みどろです.

本編2:20の映画です.現代のシーンが半分、戦地のシーンが半分、ゼロ戦戦闘シーンは10%ぐらいと思いました.なのでCGバシバシでゼロ戦が綺麗とか期待したら外れだと思います.同じ戦闘がいろんな人の視点で描写されるので同じ戦闘シーンが繰り返し出てきます.

戦争礼賛映画とは言えないでしょう.実態はむしろ逆で、無茶な作戦計画を察知できてしまう祖父が、部下を無駄死にさせたくなく苦悩する暗い映画です.竹竿で闘えみたいな精神論が蔓延する中で祖父は、「命を粗末にするな」「無謀な作戦計画だ」などと正論を吐き、上官から叱責されもするが、それゆえ部下からの信任は篤かった.百田さんは、大東亜戦争の戦史を知った上で執筆したに違いありませんが、それゆえ「戦争するならマジメにやれ」という悔しさが滲み出ているように思います.

祖父はどうして特攻に志願したのか?
そんなの単純に決まるものでもなし、各自の心で想えばいいんじゃないだろうか? 「天皇陛下万歳」でも「国を想い死す」でも「追い詰められてそろそろ自分も」でも何でも当てはめればいいだろう.実際明確には描かれていない.ただわたしが本作から最も重く受け止めたのは、戦死者について「語り継ぎ、死を悼む以外に何が出来ようか?」と言うメッセージだった.なにしろ一貫して語り継ぎ構造であるのは間違いないわけで.そしてそれが靖国参拝へのソフトな肯定になっているのが裏の構造と思われる.

↓チャラい友人との合コンシーンは無くてもよかったかな.まぁヤクザの親分を再訪問する繋ぎとしての意味はあったけども.それで重要なインタビュー相手がヤクザの親分である必然性は感じなかったが、このシーンにはかなり感動した.なんつって最後まで観ると実はヤクザの親分である必然性があるんだけどねw.
↓ここらへんから後の方はもうバケツ三杯泣かせるぞ!っていう百田さんの放送作家的なサービス精神満載のように思います.
↓これは鹿児島の鹿屋基地への兵員輸送シーンで、同じシーンが2度出てきます.なんでだろ?と思ったら、特攻で兵隊がどんどん死ぬので次から次へと兵員輸送している様なんでしょう.
↓本作でひっかかる処が一つ.特攻に発つ直前にゼロ戦のエンジン不調に気づいた祖父が、わざとその機体を後輩に譲り、「もし生き残ったら家族を頼む」と書き残したエピソードである.祖父はその後輩に命を救われたので不調機体を渡したところまでは理解できる.しかし、代わりに家族の面倒を依頼するとは、思慮深い祖父がそんな事をするだろうか?と疑問を感じずにはいられなかった.
本作のending歌があのサザンの桑田佳祐だってのには驚いた.”あの”の意味は判る人には判るであろう.

【ゼロ戦について】
↓CGではなく実物大模型の塗装の剥げ方がなにしろよかった.アルミ下地の酸化でパラパラと剥がれ落ちたあの塗装の感じはvery good! とくに祖父が特攻する21型がいいなぁ、、、
↓空母赤城のモデリングはとても良かった.とくにこの飛行甲板の下側のシーンはGOODすぎるぅ.
↓特攻が成功したシーンは描かれません.全て対空砲火で撃ち落とされてしまいます.ラストシーンで祖父の操縦する機体が唯一対空砲火をくぐり抜け、衝突コースに乗ったところで映画は終了します.
↓マスタングに捲られる祖父のゼロ戦.このシーンは薬莢がバラバラと舞飛んで、空戦シーンとしては誠に美味しいとこだと思います.最高速度と旋回性能の異なるゼロ戦とマスタングでこのような格闘戦が成立したのかどうかはわたしにはよく判りません.
↓本作で好きなのは、このようなコクピットの描写です.体を左に倒して操縦桿を左に倒し、背景が左回りに回転する.風防の影は右回りに回転する.Gを感じられる空戦だ.
↓空戦の画角は狭すぎずイイ感じです.上手いぞ.
↓対空射撃をモロに喰らってガレキと化す機体が美麗.
↓ヤクザの親分が祖父を撃ってしまうが弾は当たらない.パイロットは敵機の未来位置を狙って撃つが、祖父は機体を横滑りさせているので、未来位置を誤認させている.これは坂井三郎も同じテクで生還してます.(坂井三郎著「大空のサムライ」)
かつてゼロ戦が飛ぶ姿をこの目に焼き付けました.地上でのエンジン音もこの耳で確かめました.
http://hirasaka001.blogspot.jp/2012/06/blog-post_12.html
http://hirasaka001.blogspot.jp/2012/12/blog-post_3.html
それで、本作に限らず、映画「パールハーバー」でもそうだったのですが、エンジン音が違うと思われ不満なんです.同じ空冷エンジンだからかアイドリング音はポルシェっぽいんです.でも回転数を上げてゆくと、音域的には蚊の鳴くような高音に近づきます.竜ヶ崎でゼロ戦が飛んだときに上空から聞こえたエンジン音はパーンとチューンが混ざったような高音でした.元海軍の人がもっとエンジンを回さないのはなぜだ?と質問したら、エンジンの保存状態からしてフルスロットルを避けて飛行していると興行側の人が解答してました.恐らくは機銃の音も本物ではなく、実物を知る人からは音が違うと言われるのではないだろうか?
エンジン音については、「パールハーバー」にすら負けているように思いました.

今年はまだ靖国にお参りしてないので、お参りすることにしようそうしよう.

かしこ


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5 件のコメント:

  1. ソニーOB:佐藤2015年1月6日 19:08

    ゼロ戦というと子供の頃に映画「トラ!トラ!トラ!」のプロモーションで全国各地をゼロ戦(もちろん改造機ですが)を飛んでいまして大分川の上空を飛ぶのを間近で観ました。
    もちろん映画も観に行きました。父親が戦争映画好きだったもので。。。

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    1. これを書く前にエンジン音を調べたくてyoutubeでトラトラトラをチェックしたけど、エンジン音は判りませんでした.古いわりには模型でうまく撮ってますんでそっちに驚いちゃった.
      たしかトラトラトラって真珠湾攻撃でお仕舞いですよね? ところがミッドウェーなんてそのたった半年後ですから、戦争やるならマジメにやれと言いたいです.無駄死にすぎます.

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    2. トラトラトラと歌っていたのはCCガールズだったかと奥さんに尋ねたら、それはMAXだったようです.あの曲わりと好きだったんです.

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  2. 前世の人格が出現したわけでもないようだし、非科学的にでもいいので解明してほしいものですねぇ。
    「イギリスで自動車事故に遭い、生死をさまよった男性が、回復後に突然フランス語を話し始めたという奇妙な医療事例が発表され、話題となっている。」
    http://dmm-news.com/article/906175/
    類似の事件はけっこうあるようですが、日本ではどうして起きないんでしょう??

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    1. これは珍しい.サバンが目覚めたとか???

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