2016年10月24日月曜日

エンジニアはコストの夢を見るか?

よく見かけるヘボいキャッチコピーのようなゲスタイトルにしてみました.

なかなか良い記事かと思ったのがこちらです.
難しい問題であります.考えさせられるものがたくさんあります.

以下、話がスカーッと発散するままに書いてみたところ、総論賛成各論反対の典型例みたくなってしまいましたー.前もってお詫びいたしますー. orz

進行さん任せにできるか?
アニメプロダクションで謂えば制作進行みたいな役割の人で、進捗状況と開発費消化状況をチェックする専任者が居たら良いなぁと、マネージャーなら誰でも一度は思ったことがあるでしょう.

エンジニアと管理屋の中間に進行役というポスト(階層)を設けるとすると、そいつのSPECは資材+設計+管理の仕事に精通している奴となって、そんな優秀な奴居ないさというジレンマに陥ります.

よろずマネーの件は管理屋の仕事なんだけど、管理屋が気づいた時点ではすでに遅いです.
たとえば海外に金型設計・修正を依頼する場合などは、支払いまでに相当のタイムラグがあり、発注の数ヵ月後になってビックリする請求が来てうひ~っとなったりする.結局設計リーダーに開発費管理もしてもらうことになりました. (資材部門がまだ参画してなかったという事情もあったのだがね)

わたしが働いた別の会社では、統括課長兼プロジェクトリーダーがスケジュールを描いて、制作進行をして、開発費管理もやってました.

へ~っすげ~優秀だ、と思いますか?

わたしはそれを見ていて全然すげ~と思いませんでした.
なぜなら、VXIバスに挿すカードを設計するのが主なのでプラットホームは決まっている.そのカードのエレキとファームウエアとフロントパネルぐらいしか設計要件がない.つまりお手軽プロジェクトなので、一人三役で切り盛りできていたのでした.取り立てて優秀だったわけではないんです.

ここでの結論: 制作進行役が開発費の見張り番として機能するかどうかは、ケースバイケースである


マネージャはコスト意識を持っているか?
エンジニアのコスト意識について考える前に、マネージャーにコスト意識ってあったっけ?

わたしがマネーの承認権限を持たされたとき、最初はめんどくさいなぁと思ったけど、やってみたら自分でも意外なほど楽しかったです.なぜかというと、マネーを使いたい、といろんな人がわたしのところに日参に来るので、誰が何を企んでいるのかが判ってしまうというvery happyな状態になれました.自民党の幹事長も楽しいんだろうなぁw

来世でのわたしの目標の一つは、マネーの承認権限を持つ、です.

事業計画で「設計キャッシュアウト金額=狭義の開発予算」が決まります.

開発予算が1000万円とかの小さなプロジェクトならば、「まだ金余ってるからそれやってOK」みたいな会話をできました.しかし予算数億円ものプロジェクトだと、どんぶりで数億円なので個別案件に対して「それは1000万円までOK」みたいな判断をするのはマネージャの誰にとっても困難だったように思います.なので「それをやるなら相場はいくらか?」なミクロ的判断の積み重ねしか出来てなかったのが実情かと.

上で書いた金型費用がまさにそれで、金型修正の単価は妥当だったにせよ、修正件数が余りにも多くて予算オーバーという流れでした.

マネーに器用な人は、一億の予算のうちすでに7割ぐらい使っちゃったな、などという脳内ワールドが並存してますけど、マネーに不器用な人はexcelで積算してみれば残金3000万だと判るが、3000万が多いのか少ないのかを想像できないという幾重もの闇の世界に生きてるんですよ.

来世でのわたしの目標の一つは、管理屋ともっと仲良くする、です.

ここでの結論: マネージャーですらコスト意識が磐石とはいえない


時流に乗ってるだけでコストダウンに直結する分野と、そうではない分野がある
わたしは90年~2010年まで、アナログ回路 → デジタルLSI へと設計のコアが移り変わるハッピーな時期をエンジニアとして過ごしました.
アナログ回路では達成困難なピーク性能をデジタル回路で実現し、またデジタル回路による補正テクニックによる長期安定性も実現できました.また高集積化も進展しました.それらは自ずとコスト貢献にもなりました.

その一方で、ヘッドメディア接触系、メカ系のように、10年経ってもあまり進歩しない分野もあります.

だから、エンジニア全員が同等のコスト貢献をできるとは限らないのが実情.よって、コンサバな分野をアグレッシブな分野がカバーするという俯瞰目線が必要になります.

こうなるともうコスト意識というよりも、開発者としての技術予測issueなんですよ.それができるエンジニアは多くはありません.

ここでの結論: コスト意識にはいたわりの心と、的確な技術予測が必要


設計部門がコスト構造を知れる体制になっているのか?
コスト構造とは一般的に通用するコトバなのでしょうか?
製品が顧客の手元に届くまでにかかる諸経費をチリツモさせたexcelのことをわたしはコスト構造と呼んでいます.部品価格、アセンブル時間x時給、不良率、消耗品、梱包材、パレットに載る台数、空輸送料、船便送料、保険、通関費用、、、いろいろの合算です.

意外ですが設計部門がコスト構造を隅々まで知れる体制になっているとは限りません.
なぜか?
設計部門 → 製造子会社 → 製造委託先
という構造になっている場合があるからです.大企業ほどこういう構造になっている.

製造子会社はコスト構造のプロですから、製造委託先といろいろ話して、彼らが妥当と思う最終価格を設計部門に上げてきます.でも細部がどういう経緯で決着したのかは設計部門にはなかなか判りません.設計部門にはコスト構造を把握するスペシャリストが不在です.

わたしの体験で、コスト構造がよく判らんなぁと思っていたところ、チャンスが巡ってきたのです.グループ全体のリストラにより製造子会社が解散することになりました.ここぞとばかりに製造子会社をすっとばして製造委託先と直接会話して、コスト構造を根掘り葉掘り聞けました.納得しました. (製造子会社にはお気の毒なハナシですみません)

マネージャーですらこんな有様ですから、ましてエンジニアがコスト構造にまで踏み込んで知る由はありません.それは大企業ほどそうだと思います.

ここでの結論: コストコストと云うわりに一部の者しかコスト構造を知らないものだ


コストダウンの段階別効果は、開発60:設計30:製造10
これは高価格中量生産品の場合であって、低価格大量生産品では開発10:設計30:製造60などと逆転する場面もあるでしょう.

ここで設計の貢献度が最大とは限らない、というのがミソ.

テープストリーマのプリント基板価格なんか、LSIチップの集積度で決まってしまいます.SCSIのためにadaptecのLSIを外付けしたらそれだけで¥2000upしちゃうのだから、LSI開発段階でSCSI IP coreを集積できるか否かがCDのために超重要だというような事情です.

それに較べたら、生基板設計者の裁量でやれる事なんか微々たるものとなる.

逆にUSB playerだとバッタ屋から仕入れた部品を投入すりゃ安くなりまっせぇという製造段階での貢献が大となりうる.

コスト貢献度が30とか10しかないところでチビチビとしたCD業務はしたくないなぁ.

ここでの結論: 設計でコストダウンする余地は案外少ない


ISOとかROHS縛りでコストアップ
これは説明不要かもしれませんね.

中国の深浅地区のいろんなところにある電子城にはありとあらゆるリール部品が売られています.メーカーや商社の横流し品でしょうな.得体が知れない部品だけど、買い叩いてラインに投入しちゃうんだよ中華製品は.

一方で日本企業はISOやROHSを遵守するため、得体の知れないパーツなんか厳禁です.でもそれだったら、中国がやってるなんでもあり戦法に価格で勝てっこないじゃん.

ここでの結論: 環境とか持続可能性にこだわりすぎると身を滅ぼす


貴方は本当にエンジニアにコスト意識を要求したいですか?
エンジニアの育成モデルは、まずは背骨である技術力の向上を期待し、年長者になるに従ってジェネラルな仕事=マネーや労務管理を増やしてゆくものでしょう.

ところが、背骨たる技術力すら身につかずに詰んでるエンジニアが半分ぐらい居ますよね.年齢的に若くしてジェネラリストに転向して事業計画やキャッシュアウト承認などをやるようなキャリアパスを辿る人は、エンジニアとして大成できなかった人が多いもんです.
逆に、技術的才能が高い人ほど、マネーからは遠ざかったキャリアパスを辿るようになる.

だとすると、エンジニアにコスト意識を要求するということはすなわち、技術的才能に優れ設計リーダーだったりする人に、マネー管理の仕事を追加するのが1st stepとなるはずです.下っ端は後回しにするのが当然ですから.

そこで貴方が部長だったら、技術的才能のある設計リーダーで多忙な人に、さらにマネー管理業務を追加しますか? という踏み絵が突きつけられるわけですよ.

よほど遠大な構想と信念があれば別ですけど、わたしにはそれはできない.なぜなら、わたしには遠大な構想と信念がないからです.
わたしは、終身雇用の社員を育てて優秀なチームと成す形態に居心地の良さを基本的に感じない性格なんです.わたしの居心地の良いのは、自己研鑽は自分で勝手にやる独立心の強いエンジニアを、この指止まれで集めて、プロジェクトが終了したら解散するというドライな形態なんです.

わたしは教育ってものを信用してないし、教育に期待もしてないんですな.自分で本を読めと.余人を持って替え難しな人材になってからオレの前に現れろと.そういうかんじです.

ここでの結論: コスト意識を植え付けるには信念と愛と将来への希望が必要


他に書く事が無くなったからこれでおしまいでーす.

かしこ


人気ブログランキングへ

2 件のコメント:

  1. コスト観念は美的感覚に近いものがありますねー。単なる節約とは違って発見的・攻撃的要素がありますし。
    育てようとしてもなかなか難しいですね。
    自分は昭和賛美系の人間なので、終身雇用でじわじわ育てるのが大好きな方だったりします。うまくいっているかはべつですが・・。( -_-)

    返信削除
    返信
    1. 「終身雇用でじわじわ」の場合、自分よりも能力の低い先輩が年功で目の上のたんこぶ的に存在するとうざいんだよなぁ.環境が安定した組織はどこでもそうなるものですが.

      削除