FETアンプを300Vで動かそうとしています.今回は少しだけアカデミック.
その動機は、
もしかしたら高電圧で半導体回路を運用した方が音質が良いのではないか?
という予感によります.ここで音質とは歪率のことと思ってください.
回路遊びレベルとしては、たぶん当たりだと思っています.(実用性は無視)
高電圧仮説のとっかかりとして、まずは、
①低電圧大電流回路
②高電圧小電流回路
のsimによる比較をしてみます.2Vpp出力する簡単なエミッタフォロア2種です.どちらもバイアス電流は100mAです.
しかし、エミッタ抵抗が10/500Ωと違い、100mA流すためのエミッタ側電圧も-1.8V/-51Vと大幅に異なります.その結果、コレクタ電流の振れ幅が全然違います.
①10Ωに2Vppを生じさせますから、Ic≒0~200mAという大振幅
②500Ωに2Vppを生じさせますから、Ic≒98~102mAという小振幅
この電流振幅の違いによって、エミフォロ出力の歪が違ってきます.
歪のsim結果はこうなりました.
2次歪 ①-40dB ②-60dB
②が優秀です.つまり、高電圧小電流回路の方が優秀です.これが高電圧仮説を思いついたきっかけでした.
↓①の回路はエミッタフォロアですから、交流的にはVb=Veでそんなに歪まないはずだけど、実は歪んでいるのは上のsimの通り.-40dBとは1/100なのでおおよそ1%の歪を意味します.
VbとVeにはこういう関係があります.
よく云うのがVbe ≒ 0.7Vですが、細かく見るとVbeは動くので、それがVeに出てきて微小な歪になります.
Vbeがどうして動くのか?
トランジスタは「入力Vbe出力Ic」という動作をしています.すなわち、
Ic = Is exp( Vbe/Vt ) (a)
Vbe = Vt ln( Ic/Is ) (b)
Icが0~200mAの広範囲で動くわけですから、式bからわかるように、Vbeもチビチビと動きます.
ICを①200mA動かすのと②4mA動かすのでは後者が50倍楽なので、ざっくり計算で、
ln(50)=3.9
Vbeの動きには3.9倍の差があるんじゃね?という目安を得ます.
それでは、①と②でVbeがどのくらい動いているのかをsimしてみます.
Icを振らせる原動力としてVbeが振れています.①はIcを派手に振るので140mVも触れています.②は60mVで済んでいます.②が優秀です.
2Vppのエミフォロを動かすために、高電圧小電流回路の方が低歪で優秀
であることの定性的な説明ができました.2次歪の20dBの差を定量的には説明出来てませんがそれは許してくれ.また、歪要因はエミフォロだけじゃないがそれも説明できてないけど許してくれ.
というわけでポエムですが、、、
真空管の音は良いとする風潮には、高電圧小電流という理由もあるのではないか? 真空管で高GAINは難しいので軽いNFBしか掛けられないが生の歪率が思ったほど悪くないので成立しているのかもしれない.真空管もFETも電圧入力電流出力デバイスなのは同じだから、真空管回路をFETに置き変えたら似た音になりはしまいか?
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トランジスタ技術誌700号記念号に、生の歪率にこだわった記事が載っていました.加藤大という執筆者による「トランジスタを熟知した高性能パワーアンプ回路」という記事とそれに関連する一連の記事です.
興味があれば原典をどうぞ.(トラ技2023.1月号、トラ技special 139号)
加藤大氏の回路はユニークです.
「無帰還でも歪率0.01%以下は楽勝」
ここで云う無帰還とは、over all feedbackが無いという意味です.つまりアンプ出力~アンプ入力への大域帰還がありません.大域帰還が必ず在るOPAMPとは根本的に違います.
その代わり、増幅1段毎のローカルな帰還は十分に施します.そうすることで、各増幅段の歪率を0.01%程度にすることで、over allの帰還は不要という構成です.
生の歪率が0.01%と言ってるわけですが、これはわたしが作るアンプの生の歪率が1%程度であるのとは段違いです.2桁も優秀です.
加藤大氏によれば、エミフォロの非線形性を克服するにはこんな回路にすれば無敵となります.
・NPNとPNPがお互いを補正しあってるような回路
・エミッタ抵抗を定電流源という高インピーにする
・トランジスタで補正しているので高電圧である必要性は無くなっている
この回路の歪をsimってみますと、2次歪が消滅しました.超無敵w
加藤大氏の記事でトランジスタの歪が克服可能なのだとして、いま試作中の300V FETアンプにそういう補償回路を実装するかどうかはちょっと踏ん切りがつかない.なぜなら、「
2球真空管アンプを2石FETに置き換えてみる」という最初の動機から外れてしまうから. ↓これが基本回路で、FETを2つだけしか使ってません.
↓ところで、この無敵エミフォロは何石になるでしょうか? 定電流源が2つありますが、定電流源1つあたりで2石使う(※)と仮定すると全部で6石になっちゃいます.エミフォロ1発が6石になってしまうというのはかなりな騒動になりんす.う~む.手出しするのはひとまずやめとこう.
※定電流源はトランジスタ1石でも作れますが、それだとコレクタインピーが無限大でないという不完全さがこれまた歪を招くので、克服のため2石とか3石とか使えばイイと加藤大氏は提唱します.ちなみに、加藤大氏によるパワーアンプはchあたり
27石です.たはー
スゲー高価なMacintoshの純A級アンプとかは無敵回路みたいなんじゃないかしら?
P.S. 真空管のsimulatorってのが在るみたいですね.
かしこ