2019年9月24日火曜日

電機業界ネタ「日本で半導体ファウンドリが成り立たない理由」を読んだ感想

今回の投稿を最後まで読むには、LSI開発の知識が必要となりますー


昨夜、近所にあるノムネンに奥さんと飲みに行って話したことから始めようか.
奥さんが言った.
「結婚式の司会業をもうやめるわ.司会のやる範囲を越えたことをやらされる割に賃金が安い.そんなの若い人たちがやればいいでしょう」

↑今日の日本の世相を反映するなかなかに良い命題ではないだろうかと思う.(結婚式司会業の生々しい実態についてはさておく)

妻の命題にまずわたしが指摘したのはこうだ.
「オレ達はフリーランスじゃん.フリーランスは、賃金が良い仕事があればそっちになびく、その絶対法則は絶対不変だろう.なので君は、もっと良い賃金があればそっちになびく.しかし君は、いまそういう稼ぎ先を見出せていない.なので、不満はあれど君は結婚式司会業を続けるというのがオレの予想」

妻の命題に2番目にわたしが指摘したのはこうだ.
「賃金が安い.若い人が入ってこない.これには100%同意する.なので君がやる気を失うのにも100%同意する.やめればいい」
「オレの人生からいうと、オレが1980年代に電機業界に入ったのは、当時は人生を電機業界に投資する価値があったからなんだよ.リターンを期待できたからなんだよ.でも、2009年以後の電機業界なんかに人生を投資する気には全くならない.もし自分が今の若者だったら、何かしら海外で働くだろうな.日本じゃリターンが少なくてバカバカしいよ」
「日本のどの業界でも若い人が入ってこないのは当然だろう.人生を投資する価値のない業界なんかに入らないのは当然だ.だからといって堂々と引き篭もっているのも破滅へまっしぐらなのでどうかとは思うがな」

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以下は、リーマンショックの後に人生投資価値のなくなった電機業界に関連する話題である.

「日本で半導体ファウンドリが成り立たない理由」という記事をyahooでみかけた.
yahooのリンクはすぐに切れてしまうので、元サイトへのリンクはこちら

この手の評論記事にはいつも、「アホか、それ違うだろ」と舌打ちしてしまうのが常なヒラサカであるが、珍しくこの記事にはほぼ100%「へ~っそうなんだぁ」と勉強させてもらった次第だ.

語られているのはタイトルの通り、「日本で半導体ファウンドリが成り立たない理由」なのである.

わたしは長年(10年以上)この謎について不思議だなぁと思ってきた.解を見出せていなかった.

わたしは「日本でだって半導体ファウンドリはやれるだろう」と思うのだ.わたしなりに「日本でもファウンドリが可能」と思う理由はある.極々単純化すればこの2つだ.
1)日本のコンスーマー向け電機産業が衰退したのは中国や韓国などの低賃金競争に勝てなかったからである(古くは繊維産業が早々と見捨てられたようなもん)
2)しかし半導体ファウンダリの賃金比率は僅かであるから、低賃金競争で負ける要素がない

ところが現実はそうなってない.日本にTSMC(台湾)のような半導体ファウンドリは存在しない.

なぜだ????

その謎解きを件の記事はしてくれたのである.「へ~っそうなんだぁ」とわたしは無抵抗に記事の内容を受け入れた.

記事が指摘する事項を箇条書きにする.
A)半導体製造ファウンドリは、製造原価に占める人件費比率が5~8%しかない。すなわち、人件費の高い国でもビジネスができる
B)日本が得意なのは製造技術である.すなわちファウンドリビジネスに向いている
C)しかし日本半導体業界が進んだのはシステムLSIだった

このABCについては全く納得できる.
とりわけCについては、実体験から日本企業のシステムLSIなんかダメだと断言できる

わたしがソニーでシステムLSIを開発していたころ、2000年代の出来事だ.
システムLSIの製造を委託する相手先としては、ソニー、富士通、東芝などだった.NECのチップもあったかな.日本半導体ベンダー勢揃いという風情だ.2000年代になると半導体の集積度がハンパなく向上した.その結果、システムLSIに載せたい機能があれもこれもと増えてきた.例えばADC,DAC,USB,SCSI,SASなどなど.
ところが、日本半導体ベンダーは機能moduleのlineupがショボイのである.100MHz ADCすら持たない半導体ベンダーは早々と候補から脱落する.日本半導体ベンダーは、最新鋭プロセスを提供してくれるのだが、機能moduleの提供がスカスカなのだった.そんなでは大容量システムLSIを発注する相手としては不適だ.

2008年ごろ、USのLSI logicにシステムLSIを発注する機会を得た.
LSI logicにはビックリするやらだった.
当時のLSI logicはすでにファブレス化していた.ファブはTSMCに丸投げであった.
そんなんでイイの?と思う読者は多かろうと思う.
だがそれでいいのだ.
LSI logicのシステムLSIビジネスの競争力は、膨大な機能moduleなのだった.それこそわたしが日本半導体ベンダーのシステムLSIに感じていた不満への回答だったわけだ.LSI logicはファブを捨てて、代わりに機能moduleのlineup強化に邁進していたのである.(手段はM&Aね)

ところが同時期の日本半導体ベンダーはというと、システムLSIビジネスをやっているくせに、機能moduleはスカスカなままで、最新鋭プロセス開発にばかり注力していたのである.それはオナニーである.
だいたい、機能moduleを放置し、最新鋭プロセス開発に注力する方針とは、まるで半導体ファウンドリではないか? それでよくもシステムLSI屋だと名乗っていれたものだ.正直に「僕達オナニー猿なんです」と言えよ、このボケ.

もっとも、日本半導体ベンダーがLSI logicのようにM&Aで機能moduleをドカ喰い出来なかったのには文化的事情がある.日本人は資本の論理を信じてないからだ.日本経営者で資本の論理を信奉しているのは孫正義ぐらいなもんだろう.

蛇足だが、LSI logicの開発拠点は、US,EU,インドの3極体制で、地球がクルクル回る中で24HどこかのLSI開発拠点が稼動していた.日本一国拠点では膨大な機能moduleの実装は難しいのかもしれない.


日本半導体ベンダーをこきおろすのはこのくらいにしておいて、記事が指摘する事項の箇条書きを続けよう.
D)日本半導体ベンダーはファウンドリするべきである
E)日本半導体ベンダーはファウンドリへの取り組みも中途半端である
F)TSMCは、LSI設計者でない人々からの注文も受け付ける

ええっ、そうなの? とわたしは思った.とくにFについて.

記事によるとFがわたしの想像を超えているようなのだ.

記事からFについてキーの部分を抜き出すと、、、
ファウンドリ事業は製造さえ良くできていても、顧客は来ない。設計とのつなぎをきちんと把握していないからだ。---中略ーーー   半導体を設計するためには、システムの機能設計から論理設計、ネットリスト、配置配線、レイアウト、マスクデータ出力まであるが、---中略ーーー   日本のファウンドリはマスクデータさえ受け取れば商売ができる、と勘違いしている。

記事は、システムLSI発注者の様相について続ける.
半導体チップが欲しい人たちは、残念ながら半導体設計には興味がない。マスク出力はおろか、論理設計さえ興味がない。例えばAIチップを欲しい人たちは、AIチップのアルゴリズムを一所懸命に開発するが、半導体を論理設計するための設計専用の言語であるVHDLやVerilogなどは知らない。

↑いやいやいや、、、半導体設計を知らないチームにシステムLSI発注はできませんぜ.ソニーのLSI設計者は、機能設計、論理設計、ネットリスト、配置配線、レイアウト まで知ってたよ.それが当然でしょう?

ところが今はそうではないらしいのだ.

記事は結論する.
TSMCは、顧客獲得のためには設計の知識も必要なため、設計だけを手掛けるデザインハウスを作った。
すなわちこうだ.
今やファウンドリへの発注者はverilogもVHDLも知らない人々である.

いやはや、ファウンドリビジネスってすごいことになっているんだね.極端な想像を巡らすと、Python source codeを持ち込んで、「これをシステムLSIにしてくれ」と無茶を言う客に応えるってことなわけでしょう.そのためのデザインハウスをTSMCが設立したと.

はひ~、瞳孔が開いてしまうよ、、、

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まとめと感想.

日本半導体ベンダーがシステムLSI屋として死んだのは、機能moduleに不熱心だったからである.資本の論理を信奉してないのでM&Aで機能moduleを買いまくるのもままならなかった.

プロセス好きな日本半導体ベンダーは、本来はファウンドリ向きである.

しかし、ファウンドリビジネスも随分と進化していて、verilogすら知らない客の需要に応えるデザインハウスが、客とファウンドリの仲人をしてくれるようになっている.

日本半導体ベンダーもシステムLSI仲人ビジネスを創設するべきである.

だが結局のところこう言えてしまうのではないか?
システムLSI仲人として最強なのは、機能moduleをたくさん持っているLSI logicだ.

たとえばこんなフニャけた状況が生まれるのではないかと思うぞ.
富士通がシステムLSI仲人たるデザインハウスを設立したとする.
富士通子会社のデザインハウスは、富士通ファブを使う提案を行う.
客は富士通だけでなく、TSMCやLSI logicにも見積もりを依頼している.
客が見積もりを比較したところ、chip単価が安いのは富士通であるが、外付け部品をゼロにできるのはLSI logicである.システムtotalで部品代が安いのはLSI logicである.

LSI logicはこう思っているんじゃないのかね?
「オレらって最強のシステムLSI仲人だもん.日本半導体ベンダーなんか敵じゃないや」

そしてヒラサカはやはりこう思うのである.
「日本半導体ベンダーには人生を投資する価値が無い」

かしこ

8 件のコメント:

  1. 昔の日本では形の無いものにお金を払わないしもらわないという文化がありましたね。自分もソフトで金を取るのに罪悪感を感じてました。
    すごいデザインハウス的な部署を作っても名詞には営業支援課とか営業企画課とか書いてありそう。
    今は変わってきているんですかね。

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    1. 営業支援課とはまた窓際感が募ります。

      客と話す → LSI設計仕様に落す → 億円博打 → 漏らさず完成 → きっとソフト屋からもアテにされる

      それが出来る奴は大したエンジニアだわ。

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    2. ホントにそこが大事なんですけどねー。
      その仕事に大して価値を認めず、腕か悪くて設計部門からはずされた技術者をあててきたのがこれまでの日本の企業のような。
      商売をしているくせに儲けることを恥じている様な変なメンタルを感じます。良いものを安く作ることで免罪を得ようとしている感じ。
      形のないものをこちらの言い値で売ってきちんと儲けることを悪と考えているうちは海外に勝てませんね~。

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    3. プロセスヲタクがプロセスオナニーしてる様相。
      わたしの磁気記録分野でも磁気記録ヲタクが磁気記録オナニーしてる無能R&Dがうようよいてこっちの邪魔するんで憤慨しとリました。
      霞が関では増税ヲタクが増税オナニーしてるようです。

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  2. 専門的なお話はさっぱり分かりませんが^^;)、
    >人生を投資する価値のない業界なんかに入らないのは当然…
    には激しく同意します。

    1997年をピークに、以降日本は殆ど経済成長していません(実質衰退)。成長を止めてしまったような国に、人生を投資する価値はあるのか・・・?。いったい、誰が何を想いこんな国にしちゃったんでしょうね。

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    1. 鍛冶屋さんこんばんは.

      日本人はいつもオナニーばかりしています.
      10月からの消費増税は財務省という国会よりも上位の権力機関のオナニーです.

      日本人の指導者がオナニーをしなかった最期の時期は、明治維新~日露戦争までだと思います.その前は戦国時代かな?

      明治政府の連中が日本人には珍しくオナニーをしなかった理由は、彼らは260年間の外様大名生活で、いつ殺されるかわからんという境遇で生きてきた人々です.オナニーしかしないフツーの日本人とはメンタリティがちょっと違う人々だったと思います.

      日露戦争の後は、明治政府が作った官僚システムがフルパワーオナニーモードに突入しまして、ウラジオストクを爆撃すべきところをトチ狂ってハワイを爆撃して、戦争に負けました.

      戦争に負けてからは、自民党はオナニー政党で、社会党はオナニー政党で、共産党はオナニー政党で、労組はハイパーオナニー猿で、経団連はオナニー団体連合会で、財務省はオナニー省庁で、、、と政官財が総がかりでオナニーしています.

      こんなんでよくこの程度のダメージで済んでるもんだと感心します.

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    2. 増税オナニスト・財政破綻オナニスト・緊縮オナニスト・PB黒字化オナニスト・・・・って皆 受けばっかかよ! (やっぱ日本人は、基本Mなんすかねぇ。。。やだやだ __)。おら野党! 攻めはおらんのか攻めは!!。

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    3. 朝日新聞や毎日新聞や東京新聞やNHKやTBSもオナニー

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