2018年1月26日金曜日

サルでもわかるかもしれない原子時計

ケータイ電話にも搭載可能な原子時計を作れるかもしれないというニュースはイイ感じと思った.GPSへの貢献は間違いあるまい.非同期なのに同期受信してもbit lossしない通信とか出来ちゃったらスゲー嬉しい.夢のようだなw
↓この試作機写真は確かに小さいっぽい.
↓小型の原子時計としては、こんなサイズのならば既にあるが、わざわざケータイに載せたくなるほど小型ではない.
↓件の超小型原子時計はどうやって小型化したんだろと興味が湧いて、そのニュースのブロック図を見たけど、これがさっぱり判らない.なにやってるのさ?
まずはfeedback loopがレーザーになってるところが最大の謎.なぜならこれだと半導体レーザーがVCOみたくなってしまう.だけど、そんなにまったりと発振周波数可変できる半導体レーザーなんて存在しないでしょ?
↓ひら的に知っている原子時計っていうのは、ガス分子の吸収スペクトラムで周波数feedback loopを形成するという仕組みで、判りやすい図をネットから拾ってきたのがこれ.
どうなっているかというと、ガス分子の光透過度を測定する.ガスに周波数可変のマイクロ波を照射する.マイクロ波周波数がガスの吸収波長と一致すると透過光強度がディップする、という原理のもの.半導体レーザーとは異なり、マイクロ波帯ならまったりとした発振周波数可変できるのがミソである.
だがしかし、件の超小型原子時計のブロック図からは、マイクロ波を照射してるようには見えない.レーザーで何してるの???

悶々としつつネットをチビチビと調べて、全然知らない原理で動作する原子時計があるのだと知ったのでレポートしとこう.

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件の超小型原子時計において使われるのはルビジウムである.ルビジウムに限らないと思うが、電子のスピンによりエネルギー順位がごく僅かに分裂する「微細構造」が存在する.ルビジウムの最外殻電子は1つだけなので量子論的取り扱いが楽なのがルビジウムが好まれる理由の一つらしい.(ルビジウムはアルカリ金属で、カリウムの「下」に位置する)

いまどきの原子時計にはCPT共鳴という物理現象が応用されているのだそうだ.CPT共鳴については、わたしとしてはこちらの特許文書が判り易かった.以下ではしばらくの間、CPT共鳴について説明する.

↓まずは光吸収と光放出で基底準位⇔励起準位を行ったり来たりする様子を描いた図がこれ.
↓つぎに微細構造があるケース.基底順位(上)と基底順位(下)に僅かに分裂している.ルビジウムガスに基底準位(下)と励起準位の差のエネルギーの光を照射すると、光エネルギーを吸収して励起準位に上がり、やがて自然光放出して基底準位(上)または基底準位(下)のどちらかに落ちる.ここで肝心なのは、この過程を延々とさせておくと基底準位(下)がスカスカになって、基底準位(上)に溜まってしまう事である.やがて光吸収する者が居なくなってしまう.さしずめ原子のサプライチェーンが止まってしまうわけですな.
↓止まってしまったサプライチェーンを復活させるにはどうしたら良いかというと、基底準位(上)と基底準位(下)の原子流通を促してやれば良い.そうするには、基底準位(上)と基底準位(下)の差のエネルギーの光を照射してやれば良い.ルビジウムの場合は、このエネルギーは3.4GHzなのだそうだ.微細構造なので光エネルギーが低いため、マイクロ波帯で足りるというラッキーがここに在る.マイクロ波が出てきたので周波数feedback loopを形成できそうな気がしてくるではないか?
CPT共鳴について一言で述べると、2段階のエネルギー遷移を2周波数同時照射でグルグル廻してやるテクといえるだろう.CPT共鳴したときには、レーザー光の吸収率が最大になり、ガスの光透過率がディップする.ゆえにルビジウムガスのマイクロ波共振周波数を検出できる.

しかしここで、なんでそんなめんどくさいことをせにゃいかんのかと思うだろう.

それにはめんどくさいなりの理由がある.基底~励起準位間の往復運動はエネルギーに対する感度がブロードで、回路に喩えればQの低い共振器である.ところが、基底準位(下)~(上)の往復運動はメチャQが高いのだそうだ.だから原子時計を高精度化できる.なにもloopをマイクロ波帯でclosedにしてやるためだけにCPT共鳴を活用しているわけではないのだ.

以上がひら理解の範囲でのCPT共鳴である.

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CPT共鳴について知っても、件の超小型原子時計のブロック図は相変わらず謎のままだ.なぜなら、マイクロ波をガスに照射するように描かれていないから.ガスに照射されているのはレーザーだけである.どうやってるのこれ???

こうなったら、レーザーが3.4GHzで変調されていると思うしかなかろう.
こちらを読むとまさにその通りで、レーザー駆動電流に1.7GHzを重畳していると書かれている.

↓半導体レーザーの非線形さを無視して、高調波サイドバンドを無視して光スペクトラム描くと、素直にAM変調されたならばLSB/USBが3.4GHz離れたレーザーを得られる(左図).ただしこれだと3波長照射になってしまうので、重畳電流を加減してなるべくキャリアが弱くなるよう調整しているのではと推測したりもするところだ(右図).
詳細はさておきこれでもって、レーザーのキャリア周波数は比較的アバウトであるが、LSB/USB周波数差は正確にfeedback loopで調整された照射光(2周波レーザー)というモノを理解できた.
(レーザー周波数精度の高いVCSELが必須だがVCSELの解説はさておく)

ルビジウムガスをこの照射光でドツいて、CPT共鳴が生じますようにと祈るわけだが、ふと考えてみると、上で説明したCPT共鳴作用とは真逆なドツき方をしている事に気づく.
なぜなら、上で説明したCPT共鳴作用は、エネルギー準位のサプライチェーンを廻すよう努力するものであったのに対し、2周波レーザー照射は基底準位(下)からも基底準位(上)からも同時に励起準位へアゲアゲするよう努力しているからである.
↓まるで励起準位への在庫積み増しで早く倒産したがっているようではないか?
これは実際にその通りであって、2周波レーザー照射によるCPT共鳴では、共鳴条件にて光吸収が最小になる=透明化=透過光強度最大化が生じるのだそうだ.

紛らわしい...

以上、検出原理のみで終了.サルでもわかる解説になってませんことをお詫び申し上げます.

う~む、使ってみたい、原子時計.秋月で¥680で売られる日を夢見ます.

かしこ

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