ライブドア事件の本、2冊目を読んだ.元ライブドア宮内亮治著「虚構」である.ホリエモンの右に居る人が宮内亮治. (1冊目の感想はこちら)
【宮内亮治って誰?】
ホリエモンはライブドア唯一の有名人であり、それ以外の側近たちはマイナーな存在だったと思う.
宮内とライブドアの関係は何から始まったかというと、ホリエモンがまだ根暗ネットエンジニア兼社長だった頃、会社の顧問税理士として契約し、領収書整理をしていたのが宮内だった.その税理士業務の報酬は1万5千円/月だったという.安いな~w
ライブドアの前身のオンザエッヂがマザーズ上場を目指す時期に、宮内はオンザエッジのCFOに転じた.ライブドアの経営陣では最年長最古参だが、それでも逮捕されたときにはまだ39歳だったはず.
一種の経済犯罪であるライブドア事件の核心を熟知しているのがCFOとして現場を指揮していた宮内であるのは間違いない.
【この本は面白かったか?】
ライブドアのM&Aの諸事情だとか訴追内容について客観的に知るには、この本はあまり役立たない.客観的事実を知るには、ジャーナリストが書いた書籍が良い.ライブドアを内部から主観的に描写したこの本を読むと、より一層ライブドア事件の実像が見えてくる、そういう位置づけの本だと思われる.
ライブドア本はどれもつらい内容ばかりである.なぜなら、ライブドアの歴史はすべて、一族郎党絶滅させられる物語=平家物語だから.ホリエモンのキチガイじみたイケイケ志向を支えるべく、宮内率いるファイナンス部門は様々な手練手管を編み出した.ライブドアの高収益と高株価維持に大貢献した反面で、その大貢献が検察による訴追要件になり、ライブドアは検察によって潰された.
【ホリエモンの異常なイケイケ】
今年の経常は20億やろうよ、今年の経常は50億で行っちゃおうよ、ホリエモンは根拠無くこう言うオーナー経営者だったと本書には書かれている.M&Aに着手したばかりのIT企業にそんなのは無理だ.その癖ホリエモンはバジェット未達の責任者を厳しく叱責する.このキチガイじみたホリエモンのイケイケが、ファイナンス部門による錬金術でバジェットをリカバーするという歪な初期発展形態の原因だった.
宮内はナンバー2として、CFOとして、ホリエモンを庇い、赤字部門を庇うためにあれこれと尽力したのだから、エライと思う.宮内としては、自分が辣腕を振るえるのはホリエモンというキチガイキャラクターの下で働いているからだ、ゆえにホリエモンを支えるのが自己利益であると考えていたようだ.ホリエモンは宮内に足を向けて寝られないはずだ.(公判では全て宮内の仕業、という法廷戦術をホリエモンは採る)
宮内は述懐する.ホリエモンのような悪目立ちする社長でなかったらば、ライブドア事件はCFOの宮内一人が逮捕されただけで済んだのではなかったかと.それは当っていると思う.検察はホリエモンを撃墜したかったようだ.まさに国策捜査.
【粉飾の場面】
検察に訴追されたのは、自社株式売却益を利益計上したことが主である.その場面が描かれていた.
会計監査役に、自社株売却益の利益計上なんかダメですよと叱られた.宮内としては、ファイナンス担当である野口のお墨付きをもらっているので問題意識はない.その後、会計監査役からは何も言われなくなった.その事情は、会計監査事務所の設立人の一人が宮内だからだった.謂わば身内が監査していたのである.
宮内は作為的に行ったわけではないと書いている.
ひら的に不思議なのは、野口が何を根拠に「法的問題は無い」と言ったのかだが、死人に口無しである.野口が死んだのはライブドア事件の真相究明のために残念であった.
ちなみにホリエモンは、自社株売却益を利益計上することを善悪抜きでスキームとして取締役会で承知していた.ところが、公判では、「そんなスキーム自体を知らされてない」「宮内の独断である」と主張した.宮内他の逮捕者達は、ホリエモンは嘘をついていると主張し、ホリエモンの主張は却下されホリエモンは有罪になった.見かけ通りのチャラ男だなぁホリエモンは.
【野口の死因】
ライブドア幹部が次々と逮捕拘束される中、一人だけ逃亡したのがエイチエス証券の野口であった.野口は元ライブドアの幹部で、エイチエス証券に転職した後もライブドアの資金繰りに関与し続けていた.訴追されたスキームを考えた張本人は野口だった.
その野口は、逃亡先の沖縄で腹を割かれて死んでいたが警察はなぜか自殺で処理した、と当時の週刊誌は書き立てた.ひら的にはライブドア事件の闇を野口が握ったまま死んだのだろうと思っていたのだが、たぶんそれは違う.野口が死んだのは野口が抱えていた別の投資案件に大穴を開けてしまったからだと思う.
どうして野口だけが逃亡したのか?
・ライブドアへのガサ入れのとき、野口は激しく狼狽していた
・宮内と野口の最後の会話で野口は「迷惑なんですよ、あなた方が、、、」という謎の言葉を残した
・野口が仕掛けていたM&A案件はライブドア以外にもあって、億単位のトラブルを抱えていた
・検察がライブドアを精査しても暴力団の資金は見つからなかった
これらより、野口が逃亡した理由は、他社のM&A案件に暴力団マネーが入り込んでおり、逮捕拘束されるとディールの負けが確定するからだったと思われる.ひら的には自殺ではなく他殺だろうと思う.
【ニッポン放送買収に失敗した根本的場面】
これは生々しくて、本書で最も興奮した場面だった.宮内が目撃したシーンである.
村上が所有するニッポン放送株を全てライブドアに売れば、ライブドアは恐らく過半数の株の買占めに成功していた.だが村上は一部を手元に残した.要するに村上の裏切りなのだが、ここでホリエモンの信じがたい行動が描かれている.
村上 「すまんが手持ちのニッポン放送株を市場で売るよ」
ホリエモン 「ああそう、いいですよ」
宮内の反応 「げげっ、堀江さん何も判ってない、こりゃダメだ」
状況は宮内の反応の通りで、ホリエモンは村上から時価で買わなくちゃ株買占めに勝てなかったのだ.ホリエモンは、ニッポン放送買収劇のリスクを理解してなかった.
この後の宮内は、もう堀江には任せておけないと、ライブドアグループの運営を実質的に取り仕切るようになった.ホリエモンはというと、フジサンケイGPから個人で140億円もせしめて、ライブドアの経営には興味を失い、衆議院選挙に出るなど、糸の切れた凧状態になった.
【ニッポン放送買収には本気じゃなかったが、ソニー買収には本気だった】
宮内としてはニッポン放送買収に本気だったわけではない.負けて撤退は論外としても、フジサンケイGPに高値で株を買い取らせればOKと考えていた.それでも自社ポータルビジネスの宣伝のためには充分であった.バッファローズ買収に名乗りを上げたことによる何十億円にも相当する宣伝効果で味をしめたからだった.
覚えているだろうか? ライブドアによるソニー買収という噂が当時在ったのを.その頃のわたしはソニー社員だったが、そんな噂を本気で心配しているような人は周囲に誰も居なかった.わたしも「ヘッ」と笑っていた.
ところが宮内はソニー買収についてはそれなりに真剣に考えていたそうだ.
芸能人化するホリエモンは経営にはタッチしておらず、宮内が実質的にライブドアグループを回していた.宮内はホリエモンをライブドアの象徴天皇として経営参加しない地位に祭り上げ、実際の経営は数名の幹部で回す形へ持っていく構想を描いていた.その手段としてソニー買収は有意味だと考えていたそうだ.その心は、ソニーブランドならホリエモンブランドを凌駕できるという予想だった.
この、ホリエモン対抗策でしかないというソニーの軽んじられ方には笑えた.ソニーには巨大な価値があるなどという自惚れはM&A屋には通用しないのだ.
【ソニーはライブドアに買収された方がマシだった】
ライブドアはソニー買収には3兆円で足りると予想し、難航していたが資金繰り活動もしていた.もしもフジサンケイグループを手中にしたらば、企業価値の高まりによってファイナンスは容易になり、ライブドアによるソニーTOBが成功する可能性は有ったのだ.
ヒラサカの個人的な考えとしては、ソニーはライブドアに買われたほうがマシだったと思う.ライブドアの絶対的実力主義によって、ソニーの官僚的・エリート主義的・縁故的体質をブチ壊して欲しかった、と今では思う.それが成功していればソニーは復活しえたかもしれない.
【その後の宮内亮治】
検察の指摘する罪状を認め、1年8か月の刑期の後にどこかで経営者をやっているらしい.第二の人生は順調なのだろう.ヒラサカとしては宮内亮治のことを好きである.
#東芝もライブドア同様に厳罰に処せられるべきだ.不公平だ.韓国のコトを笑えない.
かしこ
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わたしは、この人がフェラーリに乗っていたというところであまり信じていないのですよね、現場の人はホリエモンでなく宮内さんの方を信じていたようですけども。
返信削除あと、経営陣には熊谷さんというひともいたので、その人の手記が出ないか期待しているところです。
ああ、会社帰りの近所の家電量販店のTVでライブドアショックを中継で観ていたのを思い出しました。10年と10ヶ月前なんですね。この時期はたまたまポジションを取っていなかったので助かったという記憶があります。
削除そんなわけで、あれ以来マネックス証券での取引はしていません。カブコムとSBIだけ使っています。
削除フェラーリはスイス銀行からの借り入れ金で買い、原資はストックオプションだったみたい.牢屋に入ったけど、関係者は潤っていたのですな.検察の国策捜査のせいで損したのは、もとい損させられたのは投資家だったのです.
削除熊谷も本をだそうかなとtwitterで書いてたのをみました
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