アニメ業界には様々な脚本家がいるわけだけど、わたしが脚本の名前で観るのは2人だけ.
丸戸史明 冴えカノ、WHITE ALBUM2
岡田麿里 あの花、ここさけ、空の青さ、さよ朝
この2人の作家としての特性はずいぶん違うと思う.
丸戸 技術で読者を翻弄するタイプ (霞詩子先生も同様とエリリは仰っている)
岡田 自分を暴露し自分を削って書くタイプ
作家という稼業は、強弱はあれど自分の体験を絞り出すものであって、丸戸史明はそれが弱いタイプ、岡田麿里はそれが極度に強いタイプと言える.
作家の精神性を覗き込んで楽しむとしたら自分を暴露する岡田みたいな作家が面白いのは言うまでもない.ただし、自分を暴露する作品ばかり書くと、早々にネタ切れになってしまい、作家としての賞味期限が短くなりかねない、危ないプレイだと思う.
わたしが岡田麿里のことを気にしてしまうのは、そんな危ないプレイを延々とやり続ける危ない作家だからだ.
岡田麿里の代表作は、いわゆる秩父三部作ってやつ.これらは、秩父出身で重度の引き籠りだった岡田が自分の体験から紡ぎ出した物語.岡田はこれらの脚本を書きながら、自分の欠けた心を補完していたのだろう.
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』
→ 引き籠りを主人公にした.子供~青春時代.
『心が叫びたがってるんだ。』
→ 両親の離婚で失語症になった主人公が失語症を克服する.高校生.
『空の青さを知る人よ』
→ 嫌いだった母親と秩父と自分に対して赦しを与える大人の事情.
ところで、リコリコのミズキが誰かに似てると思っていたが、空の青さのあかねさんだったと今気づいた.この二人はきっと親子だね.ミズキは秩父出身だ.
岡田の代表作に年度を重ねるとこんなかんじ.
(2011)あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。
(2018)さよならの朝に約束の花をかざろう
→俺の感想この中で、秩父三部作でなく初監督もやったのが「さよ朝」だ.露骨な自分語りではない「さよ朝」こそが脚本家岡田麿里の実力を示す重要作品といえる.この「さよ朝」の出来が良かったのよ.しかし、興行的には不成功だったみたい.
秩父ラストの「空の青さ」は大人の事情なだけに他の作品よりも薄まったい感じがした.
そんな「いまいち売れなくなった」せいと思われるが、2019を最期に岡田の仕事のペースはバタッと減ってしまった.
→岡田wiki
岡田麿里ってオワコンになっちゃったのかなぁ?と心配しているわたしだ.
だが朗報もある.
あのMAPPAが岡田麿里脚本で新作を制作中なんだよ.PVを見ると文芸調シリアス作品だろうか? 相変わらず流行に背を向けた匂いはする.公開時期は未発表だけど、ひら的大注目作品だ.
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長々と「わたしと岡田麿里」を書いてきたが、岡田の引き籠り~引き籠り脱出~脚本家 の流れを書いたと言われる、
「学校へ行けなかった私が『あの花』『ここさけ』を書くまで」を読んだ.
岡田は対人恐怖症とパニック障害なんだね.ミスった事をくよくよと考えすぎたりして、人前に出るのが怖くて引き籠りというのは必然に思える.小学校から引き籠りが始まり、高校は半年ぐらいしか出席してないらしい.
そんな彼女が引き籠りから脱出できたのはゲーム専門学校に同類の生徒が多かったのと、元来の文才を発揮できるシナリオ科だったからだ.
フリーのシナリオライターは給料安くて不安定で、しかし営業しなかったので貧乏だったが、30歳ごろからアニメ脚本の仕事が安定して現在に至る.
岡田作品のくよくよジトジトな登場人物はまんま自分だ.
岡田麿里の脚本で作りたい、岡田に作らせたい、岡田に自由にやらせたい、などと思う演出のオジサンが彼女の周囲にはなぜか居て、それが彼女のフィルモグラフィーに結び付いている.どうして岡田の周囲には岡田ファンみたいな制作者が居るのか、それを知りたかったけど、この本にはそれは書かれていない.岡田の一人称で書かれている本なので、周囲の人物から見た岡田評はほとんど無いからだ.
願わくば、岡田のキャラクタ論みたいなのを書いて欲しかったけど、自分語りなのでそういうのは無かった.
岡田麿里のさらなるご活躍を祈念いたしまして、一本締めで参りたく思います!
かしこ