2022年10月19日水曜日

【にわかAVマニアの聖遺物】WE555 憧れのドライバー

皆さんこんにちは、ホーンスピーカー愛好家のヒラサカです.

ホーン好きなら誰しもが憧れるであろう聖遺物、WE555.1920年代の骨董品だそうです.

↓日本人による復刻品もあり、GIP-555という名で検索するとたくさんの画像が出てきます.値段は知りません.
真空管オーディオフェアで、WE555+巨大ホーンの組み合わせの音を聴いた時の衝撃は忘れられません.自由空間とのカップリングが良好だとこんなに気持ちいい音が出るものなんだ、と思いました.
↓その体験が忘れられず、3Dプリンタを作り、こんな巨大ホーンを印刷したわたしです.

件のWE555ホーンの寸法からすると数10Hzまで低域が伸びているのだと推測されるわけですが、だとするとWE555単体でも数10Hzまで再生可能なはずです.
Western Electric Sound Part-1」という¥8800もする本が出ており、このようなgain特性なら発見出来ました.このボケたグラフの左端は50Hzであるかに読めるのでWE555はそんな低域まで再生できるようです.
ところが、現在それなりの低価格で入手できるホーンは、foが数100Hzのものばかりです.Tweeter用途ということなのでしょう.
ゴトウユニットの数10万円もする低音用ドライバでも100Hzまでです.
エール音響という会社が低音用ドライバを作っていて、20Hzまで再生可能.重量50kgで価格は200万円を超えます(右写真).このくらいの物量じゃないと低音まで伸ばせないというのがわたしの通念というか宇宙の法則じゃね?って思っていたりする.
なのに重量10kgほどのWE555は50Hzまで再生できているようです.なんでだろ?

↓ちなみにわたしの2wayホーンのTweeterで使っているドライバは、fo 800Hzです.Tweeterホーンも800Hzまでで切った設計にしてあります.
↓Wooferは、上で書いた通りそんなドライバは買えないのでコーンスピーカー(KT-100V)を使っています.KT-100Vはfo 150Hzなのでwooferホーンの低域は150Hzまでを前提とした設計になっています.

WE555ってどうして低域特性が良好なんだろ?
以下ではWE555の事情を想像してみます.

↓スピーカーの低域再生限界を知るにはインピーダンス特性が便利です.赤いgain特性の低域減衰が始まった付近で、青いインピーがpeakになりますので、インピーダンス特性を見ると低域限界点がよく判ります.(この図はWE555ではありません)
そこで「WE555 impedance」で検索したのですが出て来ませんでした.

以前、スピーカーの物理特性をお勉強したときの当ブログの投稿に、こんな等価回路があります.LC共振回路ですから、インピーダンスが富士山になる様が察せられます.各パラメータを与えてやればfoが求まります.
 mc:コイル重量
 md:コーン重量
 Ma:空気のまとわりつき質量
 Cm:エッジやダンパーのコンプライアンス
 B:マグネットの磁束密度
 L:コイルの長さ

WE555の謎の低域特性の伸びは、上記パラメーターに何らかの際立った特徴があるはずです.それは何かを以下で考えてみます.

WE555のマグネットって電磁石だって知ってます? コイルに7V1Aぐらい流すんです.1920年代にはアルニコやサマコバみたいな磁石が無かったから電磁石を使ったのだと思われます.この電磁石がWE555の特徴なのかな? つまりパラメータの中のBが巨大なのではないかとの推測です.しかしBは無関係です.
↓なぜなら、共振周波数を求める式にはLC項があり、等価回路のBもLも分子と分母で約分されて消えてしまうからです.

すると残るパラメータはこれらであって、これらがtotalで2桁ぐらい巨大であればWE555の低域伸長を説明できます.これらは振動板界隈の物理パラメータです.
 mc:コイル重量
 md:コーン重量
 Ma:空気のまとわりつき質量
 Cm:エッジやダンパーのコンプライアンス

ドライバーの振動板(ダイヤフラム)がどんなものなのかを写真で見てみます.
↓まず、現在わたしが使っているドライバ(fo=800Hz)の振動板.
↓WE555の振動板(fo=50Hzぐらいと推測).
出典GIP-555サイト
彼我のfo差は1桁のオーダーですから、√LCのLCは2桁のオーダーで差があれば事情を説明できます.
しかし、写真を見れば一目瞭然でありまして、寸法と素材が似通った物ゆえにこれら3つはドングリの背比べだと推測されます.100倍もの違いがある風には見えません.
 mc:コイル重量
 md:コーン重量
 Ma:空気のまとわりつき質量

だとすると、最後に残るのは、これだけです.
 Cm:エッジやダンパーのコンプライアンス
コンプレッションドライバにはダンパーは存在しないはずですからエッジが100倍軟らかければ事情を説明できます.
写真の外周のギザギザ部がエッジですが、エッジも彼我で似てるんですよね.WE555の方がエッジの幅と凹凸が多少大きくは見えますけれども、100倍軟らかいとは見えません.

というわけで、WE555のヒミツを演繹的に推測する事はできませんでした.

一体WE555に何が起きているのでしょうか?

現物を触ってみない事には判らないのかなぁ?

かしこ

22 件のコメント:

  1. ホーン筐体を含めれば重さもサイズも巨大になるものは売り方難しそう。しかし超低音ドライバを誰も作ってないならブルーオーシャン。
    良い物作れれば売れるかも。メーカになれるかもね。

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    1. ホーンはTweeter用途のみで繁栄している様相です.
      オーディオ展示会でホーンSPKシステムはEsotericぐらいで、住宅事情的に売るのが難しくてどーにもならんってとこでしょうね.

      オカルト的なハナシですが、WE555の良さを現代の製造技術では再現できないという説もあり、なんじゃそりゃと思うですー

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    2. 旋盤欲しいと思うこの頃w

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    3. 津久井街道から相模湖まで
      平坂さんが以前推測されていた,Maが大きいのがホーンの効果ですかね。そうすると駆動力が必要で,駆動力はBL積ですのでBが大きいのは有利ですね。素人考えですが,コンプライアンスが緩いのはよい結果につながらないと思います。BL積に比例して発生するのはコーンの速度ではなくて,加速度ですので,,,(もういっぱいいっぱいで理解して説明できない)。

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    4. >Maが大きいのがホーンの効果

      そこはとても気になるところです.

      ホーンはホーン内体積の空気が全部まとわりつく(Ma巨大化)のではないかという話ですね.
      だとすると、コンプレッションドライバの特性測定は、単品での測定が出来なくて、ドライバ+ホーンの組み合わせ測定が必須になってゆきます.
      測定環境依存の特性評価という、ATフィールドが消失して境界が曖昧になったセカイへ・・・

      本文には書かなかった仮説ですが、こういうエグい可能性も頭の隅にはありんす.
      1)現在ヒラサカが使っているドライバのfo=800Hzは、ドライバ単品での測定結果
      2)WE555のfo=50Hz推定は、ドライバ+ホーンでの測定結果

      てかドライバ単品でどうやって測定するの?というのもグルグルまわっていますが、、、

      >そうすると駆動力が必要

      そうですね.空気が重たくなるのでパワー負けしないだけのトルクが必要になろうかと思います.

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    5. 実は、スピーカーのインピーダンスを実測してみようと思っています.
      それでスピーカ配置が、裸の場合と、ホーンの底の場合とで、インピーダンスの挙動がどのように変化するのかを調べてみようかと.

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  2. >コンプライアンスが緩いのはよい結果につながらない
    「全然別の意味」
    に、見えてウケました。
    ※個人的には「コンプライアンスが緩い」ほうが、楽しいと思いますが。
    >ATフィールドが消失して境界が曖昧になったセカイへ・・・
    にも、通じる感じがして面白いです。

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    1. ははははは
      コンプラはゆるくてナンボですからね.
      楽しさとコンプラは反比例の関係に.

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  3. >WE555.1920年代の骨董品
    これらを、いわゆる、
    「300B」(彼の有名な、3極管ですね。)
    で、駆動してたんでしょうね。
    (ちなみに私は、300Bの実物も、音も聞いたことは無いです。)
    ※そう考えると、やはり「ダンピングファクター」とかも、関係してるのかも知れません。
    (半導体では出せない音、と言う意味です。)

    >WE555のマグネットって電磁石
    「モーターの特性」でも、電磁コイル型と永久磁石型では、
    「全く違う」
    ので、やはり、その辺は関係してるんでしょうね。

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    1. 実は、「永久磁石にコイルを巻いて、電磁界をかける(これが、通常のスピーカーの構造ですが)」と、磁束密度とか、変化するんじゃないでしょうか?
      (↑で言う「B」が、定数ではなく変数になるということ)
      翻って、「マグネットを電磁石」にした場合は、実は、等価回路としては、
      「2次コイルが動く、トランス」
      として扱えますね。(なんか、SPICEあたりで、解析可能な気がする。)
      ※書いてても思いますが、これらは「全く別物」って感じがしますね。「違う原理で動いている」って感じ。
      (恐らく、こういう形で追及してる人は居ないのでは? 詳しくないので知りませんが。)

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    2. WE555は1920年代に登場して、映画館のPAで使われていたそうです.そのアンプは真空管.いまじゃ相当な贅沢なシステムで笑います.

      全FETアンプは5極管の音が出るってことはないんですかね? ないのでしょう・・・

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    3. >「2次コイルが動く、トランス」
      「相互インダクタンス」が、変数になる感じですかね。
      (そんなシミュレーションが、SPICEで出来るのか、知りませんが。)

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    4. >映画館のPA
      300Bって、まさにソレですね。

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    5. >2次コイルが動く、トランス

      電磁メカ変換デバイスというわけですが、まぁわたしにゃよくわかりませんね.

      界磁が電磁石であるWE555の場合は、界磁用の直流電源に向けて逆起電圧が戻って来ると思います.直流電源のレギュレーションが悪いとヒヨヒヨになりそうです.なんか考えるだに複雑な.

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  4. >(↑で言う「B」が、定数ではなく変数になるということ)
    当然ですが、そうなってくると、伝達関数が
    「全く別物」
    になってしまうので、もう「何やってるか、ワケわからん」ですね・・・
    ・「小電力」の場合は、「近似値」になると思いますが、これが、「数十、数百ワット」になれば、
    「そうは問屋がおろさなく」なると思います。
    (この辺が「オカルト化」(何だか知らないけど、こうなる、みたいな)していく、遠因なのかも知れませんね。)

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  5. ↑また、匿名になっちゃった。これは私です。

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    1. 微分方程式がややこしく...

      大振幅領域だとボイスコイルが磁気回路の端部に寄ってしまってBが頭打ちになってとかありそうです.

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  6. ちなみに、300B の規格を調べたら、
    ・定格出力(シングル)で、約7W
    になってて、
    「WE555のマグネットの電力(7V1A=7W)」
    と、ちょうど釣り合ってます。
    ※この辺りにも、「秘密」があるのではないかと、思った次第です。

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    1. 7Wとは小さいですが、真空管はそんなもんですかね.
      アンプパワーが弱いのでスピーカーは高効率なホーンじゃなくちゃいけないとの事情が昔はあったとも聞きます.

      70Wとか突っ込んだら界磁が負けそうw

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    2. ↑ の、GIP-555 のページで規格を見ると、
      最大入力 6 W
      使用電源 DC 7 V / 1.5 A
      となってますね。やはり、
      ・最大入力と、同程度かそれ以上
      の、界磁入力が必要なようですね。

      ※ちなみに、値段ですが、ユニット単体は判りませんが、
      スピーカーユニットとして売られているものの値段は、1セット(片チャンネルと思われる)
      価格 7,850,000円
      と、なってました。(ステレオにしたら「家が買える」くらいの値段ですね・・・)

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    3. なんか、こういうの見てると、「永久磁石型のスピーカ」で、入力100Wくらいの奴は、よくあるのですが、もう完全に、
      「入力に対して、界磁の磁束密度が負けてる」のではないか?
      と言う気がしてきました。
      ※ちなみに、「人間の耳」は、相当歪んだ音でも「(楽器などの、音として)ちゃんと聞き分ける」ことができます。
      なので、「いい音」と言う評価は、あまりあてにならないような気がします。
      (じゃぁ、我々は一体「何の音を聞いてるんだ?」と言う話になりますが、これは私にもわかりません・・・)

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    4. >7,850,000円

      えーあれってそんなに? 材質はAuですか? Ptですか?

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