2018年6月26日火曜日

【PEZY】人工知能は資本主義を終焉させるか、という本

PEZYというとスパコンベンチャーの社長が水増し請求やらなんやらでタイーホされた事件の舞台になった会社である.

PEZYの社長の斉藤元章という人がタイーホされる前に、経済学者の井上智洋という人と対談した新書が売られている.タイトルは「人工知能は資本主義を終焉させるか」.おもしれぇじゃねぇかと思って買ってみた.

前半は経済の話題、後半はコンピューティングの未来について語られている.後半はどこかで聞いたようなハナシなのでさほど興味は持たなかった.タイトルの資本主義云々については前半で語られる.

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しばらく本書の感想から外れる.

世の中には若い頃に共産主義にかぶれてしまい、資本主義が行き詰った証拠探しに日々明け暮れ、待てども来ない革命の日に憧れる気の毒なジジイが少なからず居る.そういう人種はこの本のタイトルに惹かれるに違いない.

わたしはそういう人種じゃないのだが、「AIによって資本主義が劣化する可能性」になら問題意識がある.(以下ではAIおよびロボットを単に”AI”と呼ぶ)

というのは、資本主義にもいろんなversionがあると思うからだ.
1)資本は潤沢、税は比較的軽く、雇用を通じた分配によって国民に金が落ちるversion  (1980年代の日本)
2)資本は潤沢、税は軽く、資本家のみが繁栄するversion  (USA、中国、韓国、グローバリスト、攻殻機動隊)
3)資本は潤沢、税は重く、福祉で分配するversion   (北欧)
4)資本は不足、分配どころじゃないversion    (途上国)

日本は1990年代2000年代を通じてversion2に近づいたけど、アベノミクスはversion1に戻そうとしている.なかなか上手くいかないがね.だからといって「アベノミクスはダメだ」などと妖怪ムラサキババアみたいな批判をする奴は思慮が浅い.

USAはガチガチのversion2であるが、トランプはversion1に戻す方向で支持を集めたがっているように見える.グローバリストのヒラリー・クリントンが大統領になっていたら、中国とおてて繋いでversion2の強化に邁進中だったろう.
中国は共産党幹部だけが儲かる仕組みの超絶的version2.
韓国は財閥経済なうえ、外国資本なので国民に金が落ちない仕組みになっている.
攻殻機動隊は、AIロボットが普及し、お金持ち達は義体で事実上の不死を享受しているが、一般人は職がなくプラプラしているディストピアが止まらないversion2.

リベラル屋の憧れであるversion3の北欧は、重税なのでひら的には好みではない.

左翼脳な奴はさておくとして、多くの人々は1980年代の日本のような資本主義version1にシンパシーを感ずるだろう.USのような勝者総取り資本主義version2にシンパシーを感ずる日本人は少数派だろう.まして攻殻機動隊の世界はいわずもがな.....

というような資本主義の分類をした上で「AIによって資本主義が劣化する可能性」とはこういうことだ.(本書に書かれている事ではなくて、ひら予想である)
・AIが普及すると、「雇用を通じた分配」が成立しなくなるのでversion1でいる望みは絶たれる
・AI普及期に経済対策を怠ると攻殻機動隊のような痛いversion2に落ち込んでしまう
・AI普及期に適切な経済対策を打てたらversion3に軟着陸できるかも

この予想は正しいのか? 誤りなのか?
経済学者の井上氏はその疑問にひとつの回答を出しているとわたしは思った.

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本書の感想に戻る.以下では井上氏の発言を略して引用する.

井上:AIやロボットをはじめとする機械が生産の主力になるなら、労働者の賃金は減る.そうなると、AIやロボットを所有する資本家が有利な社会になってしまうように思われる.(p.61)

→雇用を通じた分配は終わってしまうので、資本主義version1ではいられない.

井上:AIはソフトウエアなので将来的には個人でも買えるような価格まで下がるかもしれない.でも個人がAIで生み出す価値に値段がつくとは限らない.youtubeがそれだ.(p.69)

→誰でもyoutubeに動画をupできるようになったが、儲かるのは一部の人だけである.我々は、生産手段が無料化したセカイを目撃しているのだ.

井上:ヨーロッパの場合、豊かになった資本家は生産手段を保有するというより、ロンドンやパリなどの都市部で住宅を持っている人たち.(p.71)

→AIに雇用を奪われて大変だーと騒ぐのはまだ序の口だと思う.AIが普及して雇用が払底したその後にどんなビジネスが残るのかというと、ひら的には、権利ビジネスだけだと思っているんだ.具体的には不動産と著作権のみである.農業鉱業も不動産権利bizに分類される.

井上:先進国では企業に資金需要が少ないので、信用創造が多くなされるとき、そのお金は住宅や土地に向かう.そのため、バブルなしでは景気が保ちにくいような経済構造に転換してしまった.このような経済構造をなんとかしなければならない.
信用創造がなされなければ、中央銀行が供給している大量のマネーが市中に流れてこない仕組みがおかしい.貨幣制度を変えるべき.(p.94)

→アベノミクス開始の頃、日銀が金融緩和なんかしても日銀の当座預金にマネーがブタ積みされるだけで何の効果も無い、という反論が在った.2018年の現在、その反論が誤りだったのは明らかである.ただし「完全なるブタ積み」ではないが「ほぼブタ積み」なのは事実だし、そのせいでなかなかデフレ脱却できないのも事実である.そこで井上氏は、「ほぼブタ積み」になってしまう原因が「銀行貸し出しによってしかマネーが市中に出回らない仕組み」だと言っている、簡単にいえば.
仕組みをどう変えるべきかが以下の核心部分となる.

井上:いま政府がやるべきことは、たとえば国債を発行し、それを原資にして国民に毎月1万円ぐらいから配ることで、その際に発行した国債を日銀が買い取ることはもちろん必要.景気が上向かなければ2万円3万円と増やしてゆく.(p.106)

→これなら日銀当座預金へのほぼブタ積みは回避できるね.財務省は鬼のように反対するだろうな.財政法で建設国債しか発行できないらしいね.

井上:日銀による国債引き受けに批判的な人の意見として多いのは、日銀が市中の国債を全て買い占めてしまったら、国債を買い入れる形での金融緩和は不可能になるというもの.だが私は、(国債消滅という)クロッシングポイントを通過した後は、いわば無税国家になるのではないかと見る.税を徴収しなくても、直接的財政ファイナンスで政府の運営が可能になるだろう.(p.109)

→いやはや、これが結論か! なんと無税国家ですと? SFみたいだ.

これらの他にも、あまりにも速い技術進歩が引き起こすデフレや、AIやロボットがコモディティ化した末に物価がゼロに漸近してゆく予想、などについても語られている.


井上氏の論理構造は、ひら意訳であるが、こういうことだと思う.すいぶんと端折っているのをお許しいただきたい.
a)現状、先進国経済がバブル気味かデフレ気味のどちらかになってしまっているのは問題である.
b)中央銀行がマネーを供給したとしても、資本蓄積した先進国では銀行貸し出しが萎縮しているので、マネーが市中に出回らない.それがデフレ脱却を困難にさせてもいるし、不動産バブルの生成要因にもなっている.
c)中央銀行が直接国民にマネーを与えれば解決する.(=ヘリコプターマネー)
d)AIが普及した社会では、多くの国民は生活保護受給者になる.(=ベーシックインカム制度)
e)ベーシックインカム制度を導入するならば重税になるだろうか? 必ずしもそうならない可能性がある.ここ数年間の日本経済のように、毎年60兆円もマネーを刷っても物価が上がらないモードが見られるからだ.そのモードを持続できれば無税国家も可能かもしれない.

本書を読む前のひら予想では、AI普及後の経済は攻殻機動隊(資本主義ver.2)になるか、あるいは重税福祉国家(資本主義ver.3)になるかのどちらかだろう、であった.
しかし本書で井上氏は、「無税福祉国家もありえるかも」と言っている.ただし、無税福祉国家の経済理論はまだ未完成のようであるが.....

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というわけで本書は、AIによって資本主義が終わるまでの道筋をsimulateしたものではない.むしろ描写されているのは、現状の先進国経済が抱える問題が、AIやロボットという生産手段の登場によって促進的に解決されるかもしれないという、タイトルとは逆の展開だ.

そういう意味でタイトル詐欺的ではあるのだが、考えてみて欲しい.
ベーシックインカムで暮らし、物価がゼロに近づき、日銀の金融緩和ボーナスをたまに貰い、仕事はなく、消費豚に徹する、そういう社会も資本主義のversionの一つと呼べるのか? さもなくば団塊ジジイが憧れる共産主義と呼ぶべきなのか?

ひら的には、通貨が残っているのであれば資本主義に違いないが、生活保護で生活する社会は半分ぐらいは共産化しとると思ふ.


最後に、斉藤氏の発言で面白かった点をひとつ挙げておく.
「常温核融合は真実だ.いまではほぼ100%の再現性がある」
やったー、フリーエネルギーだー!!!

かしこ

2 件のコメント:

  1. ベーシックインカムをもらいながら大半の人間がなんだか一生懸命働く国があるとすればそれは日本かも。
    そういう世界に生きてみたいですねえ。

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    1. 世界中から移民が押し寄せそうです.とくに近隣のあの国とか、あの国とか.

      なお、日銀のマネー発行に伴う為替変動については触れられていませんでした.

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