2020年1月16日木曜日

【回路】電撃トランジスタ講座(小信号アンプ設計) (15) ベース接地の効用

電撃トランジスタ講座は折り返し点を過ぎているって知ってた?

折り返し点を過ぎたからにはいよいよ差動増幅回路へと思っているのだが、エミッタ接地に多くの紙面を割き、エミッタフォロアすなわちコレクタ接地を説明したその流れでベース接地を説明したい.

勇者諸君にはあまりご縁のないであろうベース接地だが、わたしは好きなのよ.
アニメに喩えれば、金髪ツインテールの幼馴染みがエミッタ接地である.ベース接地はさしずめ紺色髪の優等生サブヒロインっていうポジションであろー.

そして勇者諸君の気持ちを挫いてしまう常套句「インピーダンス」がベース接地の効用を理解するには避けて通れないwordでもある.


↓トランジスタ増幅回路の要諦について大分慣れた頃だと思うのでいきなりベース接地増幅回路をお示ししよう.従来のエミッタ接地増幅回路をちょこっといじってベース接地結線にするとこーなる.
この回路を見たらこんな風に思わないだろうか?
・げーっ、ベースが交流的に接地されちゃってるじゃん.ベースは入力端子なのに何やらかしてるのバカなの?
・エミッタは出力じゃん.そのエミッタに入力するって何やらかしてるのバカなの?

そだねー

↓わたしは同じ回路を横倒しで描くのが好みである.だが妙であるのは変わらない.

【入力インピーダンスについて】
エミッタ電流が10mA流れているとしたらエミッタ出力インピーダンスは2.6Ωになると過去連載で述べた.そのエミッタに外部信号を注入するのだから、ベース接地入力インピーは2.6Ωとなる.あまりにも低いインピーダンスだ.

それで何か嬉しい事なんてあるの?については後で述べる。

【出力インピーダンスについて】
コレクタから出力を取り出している.過去連載で述べた通り、トランジスタ自身の出力インピーダンスなんか無視してしまって、コレクタ抵抗1kΩがこの回路の出力インピーって事でおおまかにはOK.

エミッタフォロアを使って低インピーに変換すれば扱いに困りゃせんだろう.

【増幅度について】
入力に50Ωを追加する.
入力を0.1Vの交流とする.

コンデンサと50Ωを通じて、エミッタに流れ込む交流電流を計算する.なお、50Ωに対して2.6Ωはゴミなので無視する.
0.1÷50=2mA

トランジスタの根源的性質として、エミッタ電流とコレクタ電流はほぼイコールなので、コレクタ抵抗1kΩに発生する電圧は
1000 x 2mV = 2V
となって、増幅度20倍になる.
これは、増幅度 = コレクタ抵抗 ÷ エミッタ抵抗 という過去連載で出てきた式と同じだ.

【ベース接地の効用1】
入力インピーが低くても構わないケースもあるということだ.
高周波回路では線路をインピーダンスマッチングさせなくちゃいけない.線路インピーは50Ωや75Ωが多用される.
インピーダンスマッチング線路では、送信端に50Ωを入れ、線路の特性インピー50Ωにし、終端部も50Ω負荷とする.
このケースでは、入力インピーダンスが50Ωのベース接地回路であっても差し支え無いよね? 上の回路がまさしくそれだ.つまり、入力インピーが劇低いアンプであっても使い道が無いわけではないのである.

【ベース接地の効用2】
ベース接地を積極的に使いたい理由である.端的に云うと、ベース接地は高周波特性が良いのである.感覚的にはコレクタ接地よりも1.3倍ぐらい帯域が伸びるかな?

なぜ高周波特性が伸びるのか?
良くは知らない.知らんでも設計は出来る.

そこをなんとかという勇者諸君のご要望になんとか応えるとしたらこうだ.
・ベース電圧とコレクタ電圧は逆極性である.反転増幅器だからね
・ベースーコレクタ間はPN接合的に逆バイアス、すなわち非導通であるが、数pF程度の容量で結合してもいる
・その容量のせいで、コレクタ→数pF→ベースへと逆相妨害の憂き目に遭う.しかも高周波ほど激しい妨害だ.高域ゲインが劣化する.(ミラー効果)
・ところがベース接地回路に目をやるとどうだろう? ベース電位がGND固定だからミラー効果を無効化してしまっているではないか!
というわけでベース接地は高周波特性が伸びるのだ.

そんな風に高周波に嬉しいベース接地だが、限界はある.2SC1815のようなft 300MHz程度の凡庸なトランジスタをベース接地したからと言って、ft 5GHzの高周波増幅用トランジスタに匹敵する様なドラスチックな改善は無い.


ベース接地はカッコいい.まぁでもディスクリート回路マニアにしか今時は使われないものなのかもしれない.

今宵はここ迄にしとうございます.

かしこ


4 件のコメント:

  1. トランジスタのベース接地回路って高周波の初段とかに使うというイメージがあります。出力が同位相であること。入力インピーダンスが低いのでアンテナからの入力(50~200Ω)にマッチさせやすいこと。あとは出力インピーダンスが高くなるので、そのマッチング回路としても便利ですね。まあだいたいFET使っちゃいますけど。

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    1. そうかぁ、FETですか、とほほのほ.べつにFETを嫌っているわけじゃありませんが.
      ベース接地の復興を願います.

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  2. いつもの通りすがりの人2020年1月18日 9:38

    FETは、高周波用に
    「デュアルゲートFET」
    とかある(接合型TRではマネできない芸当)からですね・・・

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    1. 調べたらまだ秋月にも売られているんですね.
      ft5GHz PNPが市場から消えてしまってもFETはまだある、とほほのほ.
      FETってVgsが品種によりけりなんでなんかかったるいんですけどー

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