2020年1月27日月曜日

【回路】電撃トランジスタ講座(小信号アンプ設計)(16) 差動増幅回路-序

差動増幅回路で幸せをつかもう!

差動増幅回路というとこんな回路が示される.

回路の動作原理などについては次回にするとして今回は差動増幅回路の有効性について説明したい.

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エンジニアさんは、とある工場にインターフォンを設置した.工事日は日曜日なので設備は稼働していない.新設のインターフォン越しに相棒と話してみる.「もしもし」「はいはい」と会話が出来て工事完了とした.

ところが数日後、工場から「インターフォンにノイズが入って聞き取れないんだ」と連絡が入り、再び現場を訪れたエンジニアさん.稼働日なのでプレスマシンなどがドカンドカン動いている様に圧倒される.インターフォンの音声は様々な機器が発する電磁パルス攻撃で会話が困難な状況であった.こりゃぁイカン.

この電磁パルス攻撃の原因を究明しインターフォン会話を正常化するのがmissionであーる.

↓インターフォン設置環境の模式図である.
インターフォンは差動伝送でない.
インターフォンケーブルはHOT/GNDの2線である.
ケーブルはプレスマシン近傍を通過する際にノイズを拾う.
 ↓音声+ノイズの模式図を示す.①は親機が出力した0.1Vの音声信号だとする.②は子機側の信号である.②にはプレスマシンが発する1Vのノイズがビシッと混入している.このような巨大ノイズがあると会話にならない、とする.
ところでプレスマシンから受けるノイズには特徴がある.HOT/GND共に同極性のノイズ(同相ノイズ)なのだ.プレスマシンの近傍をHOT/GND線が並んで走っているのだから同極性なのは当然だ.
ノイズに強くする対策として、送り出し音声を10Vにするってのはさておくとする.ここではもっとエレガントな解決策を探りたい.

比較的簡単でかつ比較的クールな対処法として、トランスがある.
↓こんな感じで結線してみたりする.音声信号なので10kΩ:10kΩの小信号トランスでいいかな.上で同相ノイズだと述べたが、トランスは同相ノイズを通さないのでノイズをブロックしてくれるのだ.(同相ノイズはトランスに磁気を誘起しないからトランスを通過できない)
エンジニアさんはやったぜ解決、と思ったが甘かった.インターフォンの着信信号はDC電圧で伝送されている.しかしトランスはDCが通らないからダメなのだった.

工場の隅に設けられた煙草部屋で失意のエンジニアさん.従業員が昨夜の麻雀の話をしている.「リーチ一発ツモドラドラ」という会話が耳に入る.リーチ、リーチか、そうだ伝送線路トランスにすればDCを通せるじゃないか!

↓伝送線路トランスだとこういう回路になる.トランスが横倒しで結線されるのが特徴だ。エンジニアさんがリーチで思いついたのは横倒しだったのだ.これでも同相ノイズカット効果を得られる.しかもDCを通せもする.やったぜエンジニアさん大勝利か?

↓ここで話題を逸らすが、実は有線LANにもトランスが装備されているんだ.こんな黒くて四角い部品がカニさんICの近くにある.近頃のNICには見当たらない場合もあるんだが、コネクタケース内に小さなトランスが内蔵されているのだ.
↓こんな風にコアがついてるUSBケーブルがあるが、これも数10MHz帯域で効かすトランスと見做せるのだ.トランスは静かにノイズ避けに貢献している偉い人なのよ.

さて、エンジニアさんはインターフォンを治せたのか?
ダメだった.....子機が動かない.
子機の電源はインターフォン線で供給される.しかし10kΩトランスの直流抵抗が大き過ぎて電源供給出来なかったのである.

万策尽きたエンジニアさんは失意のまま退職し、故郷へ帰った...

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悲しいstoryである.

そもそもインターフォンが非差動入力(=シングルエンド)だったのが不幸の原因だった.差動入力回路だったら同相ノイズで悩まされる恐れは激減したはずなのに.

差動増幅回路の効用の件にようやく入る.

差動増幅回路が受け付ける入力信号は、2つの入力信号の差分である.それは勇者諸君ならご存知だろう.
工場インターフォンのケースでは、音声信号0.1Vに1Vの同相ノイズが乗っている.HOT/COLDの差分を計算すると、同相ノイズはキャンセルされ消えてしまい、音声信号だけが増幅に寄与するようになる.プレスマシンノイズにやられたりしない.エンジニアさんが故郷へ戻る羽目にもならずに済む.
つまり、差動増幅回路は同相ノイズから信号をプロテクトしてくれるのだ.幸せになりたければ差動増幅回路を使おう!

↓オーディオ機器では、ピンジャック(非差動)は理想的とは言えない.CANONコネクタ(差動)は理想的だ.CANONのお値段は高いけどね.

今回は「序」と言う事で、差動増幅回路のメリットを述べるまでに留めとく.また次回よろしく.

かしこ

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4 件のコメント:

  1. FAの現場ではRS422というディファレンシャル通信が頼もしかったです。ツイストペア線を端子盤にネジどめしてました。なんでRS232Cみたいに標準のコネクタが無かったんですかね。

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    1. 若き日のmurasaki殿のepisodeに工場建屋間のデータ伝送の尻拭い業務があったように記憶してます。感電しそうな同相ノイズがありませんでしたか?

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    2. 建屋内でも染色機や織機などの設備間は、理由はわかりませんが60Vくらい電位差があってそこに取り付けた端末と接続を接続するのは怖かったですね。ノイズというより火花出たり感電する感じでした。
      端末からサーバーへの自社製ネットワーク配線は分岐装置というリレーとサージアブゾーバとバリスタが入っている箱を介してつないでました。

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    3. そーゆー事情を考えるに、イーサネットって電気的によく考えられてる物ですね。繋げばほぼ動いてくれる。伝送性能が悪ければ遅くしてくれる。有り難いです。

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