アナログ技術は業界全体で人数/知識ともども不足気味?
この問いに対する解答として、上の記事ではアナログ回路技術者が高齢化していると言ってます.不足気味かという命題とは異なる論理展開になってしまっているところが痛い記事です.ひら的には、残念ながら逆で、アナログ回路技術者の需要は減少していると思います.
アナログ回路技術者の需要はどうして減るの?
現代の電子製品であるIT機器は、CPUが3GHzで動いていたり、Bluetoothが2.4GHz帯の電波だったり、HDMIのデータレートが4.95Gbpsだったり、DDR3のクロックが1.33GHzだったりと紛れもなく高周波アナログ回路技術によって下支えされています.なので、高周波アナログ回路技術の重要さは高まることこそあれ、需要が減退するなんてことは考えられません.
し・か・し、基盤技術としての高周波アナログ回路技術の重要性と、アナログ回路技術者の雇用がひっぱりだこになるかどうかには、なにも相関がありません.
それはどういうことか?
●CPUが3GHzで動くのは、CPUのダイの内部設計の問題ですから、アナログ回路技術者の雇用はIntel社員だけにしかありません.日本人のアナログ回路技術者の雇用は増えません.念のためですがCPUの外部クロックは3GHzじゃありませんで、CPU内部のPLLで3GHzにしてるだけです.
●Bluetoothでは、LSIの設計者が2.4GHzで動くように設計してくれますので、雇用はどこか外国のLSIベンダーに生じます.アンテナは、LSIベンダーのガイドラインに従ってマネしてパターン設計すればできあがりです.金メッキのラーメンパターンがアンテナです.わざわざ日本人の高周波アナログ回路技術者を大勢雇うほどのこともありません.
●HDMIの実装は、LSIを買ってきてプリント基板にハンダづけするわけですが、LSI~HDMIコネクタまでの間のパターン設計はガイドラインに従ってマネして設計するだけです.HDMIの接続性をチェックする機関に検定を依頼してやってもらいます.わざわざ日本人の高周波アナログ回路技術者を大勢雇うほどのこともありません.
●DDR3を載せるPCのmother boardを設計するには、Intelのガイドラインに従ってパターン設計して、念のためTDRという高価な測定器で線路長を確認すりゃだいたいできあがりです.高周波アナログ回路技術者でなくても設計できます. (本当は量産基板の精度についてPCBメーカーと丁々発止やらくちゃいけないのですが、近年はそこら辺もこなれてきているんじゃないでしょうか?)
IT機器を下支えしているはずの高周波アナログ回路技術のこの状況をどのように理解したらいいのか?
それはこういうことです.
1) アナログは難しい
2) なので、LSIベンダーのごく一部のアナログ回路技術者がガイドラインを定める
3) 世界中でたくさん設計・生産されているセットは、アナログをあまり知らない技術者がガイドラインに沿って設計する
4) 結果として、アナログの神髄に触れることのできるポジションにいるアナログ回路技術者は、LSIベンダーにしかいない
5) ゆえに、アナログ回路技術者を目指しても、雇用は少ないし転職できない
Intelのガイドラインに従ってCPU周辺のパターン設計をしてるだけの低レベル技術者のくせに、自分はいっぱしのハイブロー技術者だと誤解しているオタンコもしばしばいるんですが、そういう世間知らずな技術者は自分のことを冷静に見つめ直してみましょうね.
それでもアナログに詳しくなるには?
昔HPで働いていた時にネットワークアナライザ関連の事業部で設計していたんですが、そこには神と呼ばれるエンジニアがいました.あまりにも神過ぎてその人のレベルはわたしなんかには想像もつきません.そういう神になるにはどうしたらいいかわかりません.
でも、たとえDDRやHDMIのガイドラインに従うにしても盲目的に従うのではなく、その意図するところを承知できるぐらいにはなれたらよいかもしれません.
そのためには、
●アナログ回路を好きであれ
●いろんな回路図を見て、それを理解したり、疑問を持ったりせよ (CQ出版の回路集はいつか助けになる)
●アナログ回路を作っては捨て、捨ててはまた作る、これを果てしなくたくさんやること
●自分の作業台に、ネットワークアナライザぐらいは所持せよ (当然使い方も熟知する)
●ガイドラインに沿ってするような仕事を避けよ
●AD変換の前段回路はガチでアナログ回路設計者の腕の見せ所なので、そういう回路を率先して引き受けよ (ただしハマった場合はアナタの責任)
●GHzオーダーのアンプを設計するチャンスに飛びつけ
●できればトランジスタやFETを直接使え (LSIはブラックボックスすぎて練習にならん)●初心者が回路シミュレータでやった気になるのはあまり良いことではない
最後にヒラサカからのお言葉
『優秀な技術者は孤独である』
では、あなたがハイブローなアナログ回路技術者になれますように、健闘を祈りまーす.
説教くさくなってしまいました orz
追記:
アナログ回路設計者を目指すならLSIベンダーに入社しなければならない、そう受け止められる文脈になっていますけど、それは微妙に違うと思うんです.LSIベンダーの技術者はセット設計に直接タッチしませんから、リアル感の乏しい仕事になりがちです.やはりアナログ回路設計者の王道は、ディスクリート部品を使ってプリント基板を設計するところにあるとわたしは思います.じゃぁそういう仕事を目指すのがベストかというと、残念ながらそういう仕事をやってる会社は多くないです.というかはっきり言って少ないです.HPとかアドバンテストとかキーエンスとかアンリツのような測定器メーカーぐらいしかないだろうというのがわたしの認識です.仮にそういう会社に入社できたとしても、バシバシとプリント基板設計をやらせてもらえる部署に配属されるかはこれまた運に左右されます.しかもそういうR&D職は一流大学の大学院を卒業した新卒で席が埋まっていることでしょう.アナログ回路設計者の道を極める、今ではそれは狭く険しい道になってしまったように思われます.
わたしは東京都立大学の電気工学科の学部を悪い成績で卒業した、2流の学歴しかない者ですが、それでも好景気の波に乗ってかなりオイシイ思いをしてこれました.わたしは高度成長のラストランだったと思っています.そんなわたしに比べると、いま電子工学などを学んでいる若者はツイてない大変な時代でお気の毒だと思います.
かしこ
少し、成るほどだなと読まして頂きました。
返信削除私はリタイアの身であり、直接的に影響は有りませんが、
現役で働いている方は、ますます、厳しさが押し寄せて来る
気がします。私の様な低学歴、低能力者の働く場所は、狭く成って行くでしょう。
昔は、設計の仕事に従事と言う事は、設計技術に精通した
一部の高級設計者の自負する仕事領域だった思います。
CAD、設計Toolの進歩は、設計と言う仕事の専門性技術のすそ野を広げた結果、一部の設計者の仕事の誇りを捨てさせたと言う
偏見を少し持ちました。
Hard設計者からSoftへの変更が有り、Soft開発もToolの進歩等で分散開発の一部のみを担当し、仕事から、直接的な醍醐味や
達成感を得る事は少なく成り、仕事への意欲も減少し労働環境が悪く成って行く気もします。
この様な環境にも負けない働き方が一そう求められる様に成る事を意味するのでしょうか?
第一に注意しなければ、成らない事は、病気(精神的、肉体的)に成らない事が今以上に求められる時代に成って行くのだろうとと思います。良い事か、悪い事か???
1995年ぐらいから、技術が細分化され、セットの隅々まで熟知することが難しくなってきました.その傾向はますます強まり、いまではセット設計者はLSIをどう使うかだけが仕事になってしまったといっても過言ではない状況です.
削除こうなってしまうと、技術スキルを身に付けることが難しくなってしまっています.新人技術者につらい時代です.
電化製品で昔だとコンデンサーが焼けたので新品と交換しましたとかだったけど今では(というかずいぶん前から)基板ごと総取替えになるので新品買った方がいいですよ。となりましたね。そうなると電圧や信号を確認するだけになるのでサービスの方はそれほど技術無くても出来る仕事になってしまったかな?
返信削除デジタルVCRの開発の時にRead&Write系基板の変更作業をやった事がありましたが私でも出来ましたが、リチウムイオンの保護回路の時はチップ抵抗だったから着けたり外したりが面倒でした。
またアナログ回路は覚えたいという気持ちがありましたが、何かをこしらえるという目標が無いと続かず、結局身に付かずでした。そのうちアナログ回路を覚えるよりもFPGAの方が役立つかな?なんて思いましたが、これもまたどういうプログラムを作るって課題が無いので身に付かずでした。
LUXMANなどのアンプキットを作るような人はとても詳しかったなぁ。ここのコンデンサ容量を変えると音質がこう変わるなんて言いながらやってました。
チェックジグを接続→ログ解析→故障原因確定→「基板ごと総取替え」→故障原因で分類→基板が溜まるまで待つ→修理ラインを形成→修理する→リユースする
削除いまはこうなってますね.
今時ではサービスが不良箇所を探索する余地はあまりないように思います.
その昔、初期ロットはジャンパー線飛びまくりだから買わない方がいいよと言われてました。
削除急きょ不具合が見つかり慌てて変更したんだろうなぁという苦労を感じます。
初期ロットジャンパーはいまでもちょくちょくあるみたいです.
削除わたし、PS3の初期ロットがもろに傾向不良でお亡くなりになり、PCB交換で¥16000支払わされました.ギャフンです.
経済の事は良くわからないので先が読めませんが、Chinaはそろそろアウトか?
返信削除TVのニュースでは関連した報道はないようですが。
「中国 「影の銀行」取引464兆円 金融危機招く恐れ」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2013061802000118.html
そういう説があります.7月だとか.そしたら尖閣のゴタゴタは止まるし、北朝鮮の拉致は解決するし、良いことが起こりそうです.
削除米国FRBが量的緩和縮小の方向で調整と出ています。なんだか、世界経済はの回転と
返信削除シフトが米国の政策により動いている様な気がしました。
中国と言えども、米国の対中輸入の影響は大で有る事は、確かの様です。
貿易の世界調整は、可能なのでしょうか?TPPの良い面、悪い面をどの様に
調整して行くかなのか?
中国はまだTPPには不参加でしたね。
返信削除そういうニュースがありますけど、なんで中国がTPPに参加するのかよくわからないわたしです
削除中国は、TPP参加で経済メリットが有るのかどうか?
返信削除と確信的権益確保を考えているのでは?
TTPって中国を仲間はずれにするための仕組みなのかと思っとったです
削除TTPのTrans-Pacificが肝だと、なぜPan-Pacificではないか。
削除そこにアメリカの意図があるとかないとかいう人がいました。
TTP(環太平洋戦略的経済連携協定)の誤りでした。済みません。
返信削除http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E6%B4%8B%E6%88%A6%E7%95%A5%E7%9A%84%E7%B5%8C%E6%B8%88%E9%80%A3%E6%90%BA%E5%8D%94%E5%AE%9A
各国には、それぞれ、強い物、弱い物、必要が有る物、必要が無い物をが有る中で
関税をゼロに出来るのか?
輸入関税をゼロ目標として輸出国の競争を平等にするもの?
二国間貿易協定(XXX)とでは、どちらが優先するのか?
素人の疑問が沢山出てきます。
総合的に見て+ならば、農業などの-は、しょうがないと言う、考え(切り捨て、縮小)
なのでしょうか?農業の生産性向上と言っても簡単には、出来ない?
TTPなんかダメダメで、マジメに考える価値なんかないです.
削除左翼がコスモポリタンとか地球市民とかいうお花畑理論で民族をまぜこぜにして混乱を招くことに無頓着なバカであるのと似て、新自由主義者はセカイを単一市場にして優勝劣敗の自己責任にすることに無頓着なバカという、左翼も新自由主義者もなんでこうも極端理論バカ同士なのか???
そんなオタンコの主張することなんかマジメに考える価値なんかないです.
はじめまして。 おそらく私は平坂様より数歳下です。 匿名で申し訳ありません。
返信削除やはり回路方面の仕事環境は厳しいようですね。
以前自部署の製品の推奨周辺回路設計や客先でのトラブルシュート、不良解析等をやっていたのですが、少し前、ある品種の大失敗から人員大削減と開発系の仕事の廃止、部署も生涯生産数がはけたらおしまいらしいです。いろいろ悩んだのですが、平坂様のケースと逆で、自部署に残りました。 現在は製造方面の業務でほとんどが歩留まりや工程のキャパシティの話ばかりです。 自分で選択した道ですが。。。
社内にも受け皿はなさそうだし、実力的に突き抜けたものがあるでなし、卒業後のビジョンが全く描けないわけです。そんなおり、webをさまよっていたらこの記事にたどり着きました。で、やはり厳しいなと(年齢的にもなおさら)。
回路いじりは趣味だけになってしまいそうです。
マイコンが使えるとファンクションが広がりますね。NXPのARMを使っています。
やたらと似た境遇ですね、全然笑えませんわ.(冷汗だくだく)
削除かつてのソニーは開発系エンジニアパラダイスでした.でもいまでは開発屋はあまり残っていないし、残った開発技術者も既得権益みたくなってます.世知辛くなると、なにごとも面白くなくなりますね.世知辛いのでそっち方面のキャリア形成は打ち止めにしちゃおうとサクッと辞めたわたしでしたが、住宅ローンが残っていたりしたらそうは出来なかったように思います.
わたしはS39年生まれで、1987年に仕事を始めました.わたしよりも5歳ぐらい年下ですと、バブルの恩恵も受けず、日本経済が後退を続ける時代しかご存じない世代ではないかと想像します.わたしは高度成長のラストラン的に逃げ延びた、最後のラッキー世代だったのではないかと思っています.まぁ、今は金が無いので、数万円のAVアンプすら買うかどうかで苦悩するほどですが.
では.
ご返信ありがとう存じます。
返信削除私はS43製です。
確かに住宅ローンとかいろいろな事情はありました。
学生当時、就職は楽でした。大げさに言うと、会社説明会への参加=採用みたいな時代でした。そんな時代でもソニーへの内定は別格で、院生でも落とされた人がいるやに聞いていました。
ソニー製品は壊れやすいという印象はあったものの(ごめんなさい)、姉の持っていたウォークマンDD(?)は回転ムラが小さく、秀逸なモデルであったと記憶しています。
電子デバイスに関してはそれこそ世界中の誰もがリファレンスデザインやシミュレーションモデル提供でカタログどおりの性能を出せてしまうんだと思います(それでもアナデジDCDCコン混在の実アプリではノイズ取りに苦労するはず)。はやぶさ報道にあるとおりやはり精密メカ屋さんにアドバンテージがあるんでしょうね。
改めて、ご返信ありがとうございました。
電気系の学生です。
返信削除この記事に書いてある通り、ガイドラインに沿うことで回路の知識が無くても設計ができる、ということは納得しましたが、これはCPU周辺に限った話なのではないでしょうか?
例えば、携帯のバッテリー周りで、消費電力を抑える、過充電、過放電を抑える、といった条件をクリアするためには、素子の定数を考えたり充電用のICの選択、また最も適したバッテリーの選択なども考える必要があると思います。
また、電気自動車のモーターを効率よく制御するための回路に、は高周波の知識の他にパワーエレクトロニクスの知識が必要になってくると思います。
このように、CPU周りや高周波回路の設計以外にも目を向けると回路設計者の需要はそれなりにあるのではないかと思います。
お問い合わせありがとうございます.
削除匿名殿はまだ学生であるにも関わらず、とても賢い方だと思います.匿名殿が指摘なされるように、物理現実は遥かに複雑です.アナログ回路技術だけでは語りきれない複雑系だと思います.
パワー系にはガイドラインとシミュレーションだけでは済まない要素が多分に在るように思います.
本文では「アナログ回路に限定した話題」として書かなかったのですが、実を言うと、わたしは「アナログ本業」ではなかったのです.パワー系ではないけど、電磁変換系という分野でした.
パワー系と電磁変換系に共通した部分とは、自分の成果が究極的にはデバイス性能に依存してしまうという点だと思います.
電磁変換系とは、たとえばHDDを大容量化する仕事のことでして、それには高性能のDISK、高性能のヘッド、高性能の符号が必須です.それらをインテグレートするのが回路屋の仕事という局面に晒されます.
たぶん、パワー系においても同様に、高性能なモーター、高性能なスイッチング素子、高性能なバッテリー、高性能なファームウエア、それらをインテグレートするのが匿名殿の仕事という局面に晒されると思います.
それはつまり、回路屋の自分にはどうにも出来ないデバイス性能という律速の中で、どれだけデバイス性能を最高に発揮できるかを競う開発です.
もしかしたら匿名殿は、限界を突破するために自らがデバイス屋に転身する道を選択するかもしれません.あるいは、制御ソフトの刷新に身を投じるかもしれません.あるいは、自分は回路屋に身をおきつつ、デバイス屋に設計目標を出す役を演ずるかもしれません.IC設計者になるかもしれません.
何に身を投じるべきかは分野ごとに様々でしょうけど、「総合的に見て手薄な領域」は何かを見出して、そこに身を投じるべきかと思います.
匿名殿がすでに、熱設計やバッテリーの挙動を慮る視点を持っているのは、匿名殿の優れた素養だと思います.
そして、匿名殿が会社で設計をするようになったとき、きっと気づくと思います.先輩社員達って案外たいした奴等じゃないなと.世間の設計者は意外なくらい狭い条件設定にバリアを張って安住しているものです.
匿名殿が優れた設計リーダーになれるよう祈ります.
どうかがんばってください.
返信と激励のお言葉ありがとうございます。
削除デバイス性能に律速され、回路設計ではどうにもならない部分があるというのは納得しました。このような設計現場の事情を教えていただけるのは、技術者を目指している身として大変ありがたいです。
回路技術者の厳しい状況についてよくわかりましたが、それでも自分としては回路に関わる仕事をしたいので、平坂さんのおっしゃる通り、総合的に見て手薄な分野を探していこうと思います。
かつてのビデオデッキのベータやVHSはアナログ回路の塊でしたので、トランジスタをたくさん載せた回路を設計できたので楽しかったなぁ.
削除部下がとある高周波信号のスイッチ回路で悩んでいたとき、それはpin diodeを使えばいんだよと教えたらサクッと解決しました.要するにdiodeスイッチのことですが、それは私が中学生の頃にやってたアマチュア無線の送受信切り替え回路の知識だったのでした.その時思いました、知ってりゃ天国知らなきゃ地獄って(笑)
回路技術は底が深いので勉強のネタには事欠きませんから、匿名殿のように回路が好きなのが一番シアワセだと思います.
そしてその先に、匿名殿がどんなセカイを見るか???
挫けずにがんばってください!
では.
そうそう、数年前に当ブログで書いた、就職してから電機メーカーに居られなくなるまでの経緯がこのURLからスタートしております.なんか負けが多いなぁ(笑)
削除http://hirasaka001.blogspot.jp/2011/10/blog-post_2537.html
平坂久門様
返信削除初めまして。
現在、実験物理の博士学生で、かつては電気電子に存在していた者です。
奇しくも、大学も同じで平坂様は大先輩にあたります。
ブログの方、非常に興味深く拝見させて頂きました。
来年就職を控える身で、現在、高圧電源等を回路設計し、かつ修理する10人以下の小さい会社から内定を頂いております。(まだここに決めた!というわけではありません。)
私は、給料が少なくとも、技術を徹底的に極めたいという一念で生きておりますが、アナログ回路に詳しくはないので、極めたところで需要があるのかどうかわかりません。
需要の有無や将来性を探っていたところ、このホームページに行き当たりました。
会社の実験室を見た結果、私には回路技術や、設計に付随するプログラミング等が非常に興味深く映っています。
現在所属する実験物理の研究室のおかげで、非常に多くの最先端装置に触れることができ、かつ実験自体の泥臭さや難しさなどが少しわかっているものの、この回路系の分野の未来があまりわからず、人生をかけて頑張る価値があるものなのか、考えたりしています。
ただ、小さい会社なので、プログラムから回路設計、修理装置の作成から納入まで、全てを体験することが可能で、何でもトライできそうだなと感じています。
やはり、実験系ですので、自作での測定装置の立ち上げや、精度の良い解析等には非常に興味があります。
平坂様のブログでは「現在、アナログ回路技術者を目指すことはリーズナブルではない」ということですが、より詳しくこの手の話題を扱っている記事はありますでしょうか?
何にせよ、ニッチな領域で何らかの技術を極めたいとは思っております。
宜しくお願い致します。
まずご質問の「アナログ屋はおいしいか関連記事」については、他には記事を書いた記憶はないんです、すみません.
削除サラリーマン技術者を23年やりましたが、技術:マネジメント:ゴタゴタ=1:1:1ぐらいの比率だったというのが印象で、技術論よりもマネジメント系の出来事の方が記事のネタとしては明らかに多いためです.
ところでこの記事のタイトルのように「アナログ屋はかつてのように美味しくはない」というのはそのように思っておりますが、わたしが就職した1987年当時のアナログ屋はとてもオイシイ商売でしたから、その当時を知っているわたしの尺度で、2013年のアナログ屋は美味しくなくなったねぇと旧き良き時代を思い返しているわけですので、随分とバイアスの掛かっている記事になっております.
アナログ技術者の市場価値インフレは、トランジスタが普及した時期(1970)~デジタル信号処理が普及した時期(2000)までの30年間のインフレーションだったと思っており、わたしはその最後の10年間に滑り込んだ世代でした.
わたしが都立大に通っていた時点が「猫も杓子も電子工学ブーム」のピークだったと思います.都立大の1983年度入学電気工学科のクラス45人中に確か8人も女子生徒が居たくらいでした.それくらい、誰しもが電子工学専攻って就職有利だよねと思えていた時代でした.
その一方で、電気工学科45名のうち趣味で回路製作する生徒は3人だけでしたから、ほとんどが就職の有利さゆえに電気科を受験した生徒だったろうと思います.だとすると、アナログ屋インフレーション時代は終わったけれど、ある意味で正常化されたと言えるのかもしれません.回路好きな人の絶対数はわたしのクラスで3/45だったように今も昔も変わりないんじゃなかろうか?
ですので、匿名殿のように回路好きだからそれを専攻し就職するのは全く問題ないと思います.回路の仕事は今後も在り続けますから.
ただし、わたしが批判的に引用したマイナビの記事は「こっちの水は甘いぞ」という主旨が強すぎる.いくらなんでも甘くはないと思います.なぜなら、産業全体で俯瞰したら、2017年現在で最強なのはクラウド屋とAI屋ですから.そしてかつての電子工学屋は現在のクラウド屋やAI屋の地位に居たんですよ.その没落状況はしっかりと承知した上で、「それでも好きならば勉強のネタには事欠かずに食っていける職種ですよ、アナログ屋は」とそう書かないと信憑性の薄い主張になってしまうかなと、そのように思っています.
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質問の「回路系の分野の未来があまりわからず、人生をかけて頑張る価値があるものなのか」についてです.
これは、個人の気持ちよりも、会社の状況によると思います.
わたしの場合は、初期の頃から回路だけに固執していられなくなりました.プロジェクトや事業部が潰される危機に常に晒されていたからです.
アンビバレントな話です.自分は回路設計だけをしたいが、projectが潰れたら回路設計なんか出来なくなる.だとすると回路設計はとりあえずさておいて、projectが潰されないための活動をしなくちゃいかん.すると他分野のエンジニアに口出ししなくちゃいかん.すると自動的に嫌われるが気にしない.そんな風な行動でした.その先にはプロジェクトリーダーが待っているわけでしてその結果として、技術:マネジメント:ゴタゴタ=1:1:1という通算業務比率で退職しました.
「回路設計だけをしていたい」という想いは、やがて「ヘリカルスキャンシステムで世界一を連発すること」に昇華しました.
結論としてわたしが思うに、回路はとある製品に必要な技術ポートフォリオの一つに過ぎなくて、回路だけにこだわっているのはあまり幸福な気がしません.上位概念である「製品が世界一であること」の方に興味がスイッチし、そういう長年追求するに足るテーマに出会えるかどうかが技術者にとっての幸福を最も左右するのではないでしょうか?
まぁ、電子・ソフトウエア技術の変遷はあまりにも早いので、一世を風靡した製品が10年後にも生き残っているかどうかは怪しいものでして、かつてのPC9801やDRAMですら今では見る影もなしであります.
匿名殿が、たとえニッチであっても長期間打ち込めるテーマを獲得されることを祈ります.