2017年1月25日水曜日

ソフト指し将棋疑惑の冤罪で将棋連盟会長が引責辞任の件

日本将棋連盟の会長が引責辞任した「ソフト指し」疑惑の件で、第三者による調査報告書というのがあるので読みました.

会長が引責辞任した理由は、ソフト指ししてるんじゃね?という疑惑の段階でありながら、三浦棋士に出場停止処分を下してしまい、後日の第三者による調査結果でシロ判定が出てしまったという、謂わば冤罪の責任を取ったのでした.

報告書から時系列を抜き出してみると、10月11日が日本将棋連盟にとっての鬼門の一日だったようです.

2016年7月26日     疑惑の対局    (離席多い、ソフトとの指し手が一致する)
2016年7月29日     月例会にて久保棋士が、三浦棋士の30分離席疑惑を報告
2016年8月26日     疑惑の対局    (同上)
2016年9月  8日     疑惑の対局    (同上)
2016年10月3日     疑惑の対局    (同上)

2016年10月10日
将棋連盟幹部の非公式会合  (文春砲が脳内にチラつく)
 ・久保棋士が三浦棋士の「30分離席疑惑」を上申
 ・渡辺・千田棋士が三浦棋士の異常な「指し手一致率」を上申

2016年10月11日
常務会に三浦棋士を呼び事情聴取
 ・三浦棋士は疑惑を否定するも、幹部の心証は悪化した
 ・三浦棋士は休場したいと言った
 ・三浦棋士はスマホ・PCを連盟の調査に預けることに同意した
 ・将棋連盟は三浦棋士に休場届を早急に提出するよう求めた
事情聴取の後、三浦棋士は代理人と相談して翻意した
 ・スマホ・PCの提出拒否
 ・休場届は代理人と連盟の話し合いで決着する
連盟は、10/12 15時が休場届提出のタイムリミットであると告げた

2016年10月12日
 ・三浦棋士の代理人が休場届の提出を拒否
 ・連盟は三浦棋士を出場停止処分

2016年10月中旬   週刊文春に疑惑の対局記事掲載
2016年10月15日   竜王戦開始
2016年10月27日   第三者調査委員会設置
2016年12月26日   第三者調査報告書提出
2016年12月31日   三浦棋士の出場停止解除

10月11日が将棋連盟にとっての運命の日でしたな、うはは.

調査結果の事実認定はこうなっています.将棋連盟のゼロ勝3敗です.
1) 三浦棋士のスマホ、家族を含むPCに、疑惑に合致する痕跡はなかった
2) 指し手一致率をソフト指しの有無を判断する指標として使うのは無茶なので却下
3) 連盟幹部が疑惑を深めた理由である「30分の離席」について、ビデオ分析によりそんな事実は無かった (久保棋士の言いがかり)

調査報告書のまとめでは、連盟が下した処分は妥当であったとも述べています.すなわち、竜王戦の直前の段階で、物証を含む検証は時間的に不可能であり、緊急避難的な出場停止処分は妥当であった.また、三浦棋士が休場に同意→拒否と態度を変えたことは三浦棋士にも瑕疵があった.調査の結果シロだった三浦棋士に対する事後的な補償が必要である.

ちなみに「指し手一致率」とは、将棋ソフトの回答と、人間の指し手がどれだけ似ているかの指標.10月10日の非公式幹部会合で三浦棋士の指し手一致率の不合理さを上申したのはこの2名.文春砲の存在を幹部に上申したのは渡辺棋士.
「30分の離席」という誤情報を流した久保棋士はこの人.10月10日の非公式幹部会合にテレコンで参加し、30分離席を上申もした.
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以下はひら感想です.

疑惑の段階で竜王戦へ出場停止させられてしまった三浦棋士には災難でしたね.調査報告書は、三浦棋士がスマホ・PCの提出と休場届の件で翻意した件を非難していますが、無防備状態で査問され動転して口走った内容を、後に弁護士と面会して撤回するのは許されると思います.
また、調査報告書のまとめで「三浦棋士への補償が必要」と書かれているのは、「将棋連盟は裁判で負けるぞ」って露骨に忠告されていますね.なんか微笑ましいです.(調査委員は弁護士です)

ただ、日本将棋連盟が下した竜王戦への出場停止措置には、わたしは賛成なんです.短時日の判断としては会長のクビを掛けてわたしでも同じコトをしたと思います.「精密調査でシロ認定されたらオレは辞任だな」という覚悟は会長にとって必要だったでしょう.

背景事情として、ソフト指しの疑心暗鬼が蔓延する将棋業界において、三浦棋士の離席の多さは、とりわけ若手棋士から怪しまれる部分が多かったと推測します.一方で将棋連盟幹部の世代はソフト指し問題に対する感度が相対的に低く、具体的な防止策は採られていなかった.
そんな状況下で、渡辺・久保・千田ら若手棋士の上申が幹部に与える影響度は大きく、幹部達は「ついにきたか」的な思い込みに支配されちゃったのでしょう.それはそれで困るんですがね.だってさ、久保棋士のいう「30分離席疑惑」ぐらいは将棋連盟スタッフに命じてビデオチェックぐらいできただろうに、チェックしなかったそうです.

仮に時間を戻して、将棋連盟会長がクビにならずに済ますとしたら、ソフト指し防止システムを事前に導入しておく他なかったと思います.現状のまま進んでいたら、いずれ誰かが冤罪になるか、クロになるかして将棋連盟の権威に傷が付くのは不可避だったことでしょう.
調査報告書によれば、若手棋士達の「疑惑の根拠」は全否定されてしまいました.ですがひとまず、ソフト指し防止対策の導入を幹部に上申したがったと思われる彼らの危機意識には同意せざるを得ません.

つまるところ、4つの登場人物の相乗作用で見事に冤罪に向けて突進してしまった感じがします.
 1) 三浦棋士の離席グセ  (=疑われやすい人)
 2) 若手棋士のソフト指しへの危機意識  (告発の根拠は否定された)
 3) 文春砲
 4) 後手に廻った将棋連盟幹部

引責辞任した谷川会長は「年末年始で考えて辞任を決意」などと言ったようですけど、未練を匂わす辞め方は賢くない.「冤罪で迷惑を掛けた、わたしのクビで勘弁して下さい」と述べてサバサバと去ればいいんです.

エイメン

5 件のコメント:

  1. 次の会長のなり手がいないです。人気で言えば羽生なんでしょうが、まだまだ役職に就かず現役で指したいでしょう。ここは田中寅彦さんあたりで落ち着くのではないでしょうか。

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    1. 将棋AIのせいで辞任したのだから、次の会長は将棋AIに勤めてもらうのがベストでしょう.

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  2. 失礼。島朗さんの間違いでした。

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  3. 登場人物が皆幼い感じで、ハラハラしながら見ていましたが、なんか残念な感じになってしまいましたね。
    いくらでも途中で起動修正できたのに、悪手をうち続けた感じでした。
    もう少しこの人達を落ち着かせる大人はいなかったのでしょうか?

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    1. この方々を統率できるのはAIしかいない、そう確信させる未来的事件でした.

      羽生さんは「疑わしくは罰せず」だと10月11日の役員会で発言したそうです.まだ若い彼の立場ならそれでよいと思います.ただ、会長の立場だと文春砲にロックオンされた時点で戦死を覚悟せいというかんじー.

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