新就職先は日本ヒューレットパッカードの神戸にある測定器事業部.1996年7月1日なので、震災から1年半後だ.給料はソニーマグネスケールのときの1.5倍になった.
神戸HPでの仕事はHDDのヘッドの測定器開発だった.ヘリカルスキャンではないがここでもまた磁気記録のお仕事.
神戸HPのエンジニアがHDDの技術を質問するために、イギリスHPのクリスという人とテレコンしていたことがあり、少々ビビッた.なにせソニーでのDDS開発の時、共同開発社かつコンペチターであったイギリスHPのエンジニア責任者がそのクリスだったのである.しかも、転職活動してたときにイギリスHPに履歴書を送って新宿のハイアットで外人と面接したこともあったのだ.外国に行くのが嫌なので断ったけど.バレなくてよかったわw.
HPはフェアで紳士的な社風だった.官僚的とは違う.どんな仕事でも、あなたの仕事は会社にとって必要な仕事です.会社はあなたを必要としており、フェアに処遇します.あなたはそれに応えられますか? みたいなストーリーを社員が共有しているという雰囲気だった.もちろん、社内での足の引っ張り合いなんか感じられない.
足の引っ張り合いなんかしょっちゅうあるソニーとは全然違う社風だった.世間一般のソニーのイメージは、都会的でドライなイメージだろうけど、実際はそんなことはなくて、喧嘩上等な社風なのである.まぁそういう不効率が許されるだけの利益をあげていたからにすぎないとも言えようが.
その反面、HPでの生活は、ソニーの研究所で味わったような崖っぷちの技術開発は望むべくもなく、落ち着いた生活だがスリルのない生活であった.それは社風のためだけではなく、測定器という商品の特性にもよると思う.測定器は電気回路とファームウエアだけなので、100%動作することが論理的に保証されている装置である.一方ヘリカルスキャンは、1%ぐらいのデータ欠損ありきで論理的動作保証のない装置である.ドロドロ度が全然ちがう.
回路設計では、1GHzぐらいまでの広帯域アンプやECL回路やピコ秒オーダーの時間測定など、速い回路をディスクリートで組むのはとてもおもしろかった.プリント基板のマイクロストリップラインを信号が光速の半分ぐらいで伝搬する様もオシロで観測できるのである.終端なんかしたって10%ぐらいは反射して戻ってくるし...... ちなみにPCのマザーボードのバス配線でも同じ周波数領域で同じ物理現象が起きているわけだが、今日ではIntelの設計ガイドラインに従ってプリント基板を設計すれば誰でも設計できちゃうんだから欧米人のシステム造り能力はエライと思う.(TDRで検証するぐらいはするのだろうが)
スペアナが信号レベルを測定する原理は、ダイオードのあの指数関数特性でどうやってリニアに検波するのだろうというのがそれまでの私の疑問だった.答えは、AD変換した検波信号を逆関数テーブルを使ってリニアに戻すのである.温度特性は恒温槽で解決.経時変化は校正サービスで解決.それだけかよと絶句するベタな手法である.
技術部にはアナログ回路の神様とあがめられる人がいたが、その神様のレベルに比べるとわたしのレベルはあまりにも低すぎて、神様の脳内風景を多少なりとも垣間見ることすらわたしにはできなかった.GHzオーダーのVCOともなると、配線パターンでコイルが形成されるので、どんな回路なのか全然わからない.そんな回路の位相ノイズ発生メカニズムなどというハイブローな技術論なんかとてもじゃないがわからないと.そんなところだった.
--続く-- つぎへ 前へ
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