失業した理由シリーズ008で少し触れたように、録再回路はもはやアナログ回路で作る時代じゃなくなって、数100MB/Secぐらいのデータレートのデジタル信号処理でやる時代に1990年代から変わってきていた.
これは、クルマのエンジンに喩えると、かつてキャブレターで吸気していたエンジンが、ECUで制御されたインジェクションで吸気されるようになるぐらいの進歩だ.冬でもエンジン始動一発みたいな信頼性を獲得できるようになる.
録再回路へのデジタル信号処理の導入時期を決めたのは、その膨大なデータ処理量ゆえに、LSIのプロセスルールが0.25umぐらいになってようやく必要な集積度と動作速度を調達可能になったからだ.それと、1995年ごろにいち早く録再回路のデジタル信号処理に着目していた会社がたぶん世界で3社しかなかったからだ.ソニーとCirrusとMarvelの3社.
わたしはLSI開発専業じゃないので、年がら年中LSI開発をしていたわけじゃないけど、アーキテクチャはシステムLSIに凝縮されてしまうので、LSI開発こそが最重要の仕事だった.(正確にはカスタムLSIまたはASICと書くべきだが以下はLSIで通す)
LSI開発は、数億円の開発費用をかけ、もしも失敗したらprojectのスケジュールが最低でも3ヶ月は遅延するという超新星爆発レベル、もとい中性子星同士の衝突レベル、もとい銀河中心の超巨大ブラックホール同士の融合レベルのハイリスクを抱えた、のるかそるかの一発勝負である.もしも爆発したら、周辺の星団の生命体をも根絶やしにしてしまう破壊力だぞー. (ディアスポラ byグレッグ・イーガン)
その大勝負感が格別におもしろい.
また、テープストリーマ特有の事情で大勝負にならざるをえなかった.
コンスーマ商品のLSI開発では、第1世代では3チップで構成されていたのを、集積度を高めることで第2世代では1チップ化するというような、設計は同じだがシュリンクだけするっていう方向のLSI開発が行われることが多い.
テープストリーマはこれとはかなり異なる.テープストリーマの場合は2~3年ごとにフォーマット自体を刷新してしまうので、LSI開発の度にゼロから設計し直しになる.これはただシュリンクさせる業務より断然おもしろい.アーキテクチャを刷新するチャンスがより頻繁に巡ってくるからだ.
これがテープストリーマが好きだった理由の一つだ.
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昨今のLSIベンダーのトレンドは、台湾のTSMCに代表されるようなプロセス専業メーカーと、豊富なIPを持つLSI設計メーカーとに棲み分けされる傾向が鮮明になってきている.そんな中、日本のLSIベンダーはプロセスもIPも中途半端にしか提供できなくて、大規模LSIに全てのシステム要素を集積して部品コスト低減を図ろうとするSystem On Chip(SOC)時代にはいまいち企業戦略がマッチしてないという印象が私には強い.
LSIを作ってくれる会社(LSIベンダー)は世界にいくつもあるが、おつきあいすると各社各様.
富士通:
テープストリーマでは最もお世話になった会社.御用聞き的サポートをいかようにでもいたしますという、極めて日本企業的対応で、ありがた~い.LSIの値段は普通.
東芝:
御用聞き的サポート精神はない.LSI設計マニュアル本をどさっと渡されて、これ読んでください.わたしのヘタレた質問には、マニュアルに書いてあるのでマニュアルを読んでください、という対応で、へーっ、そう出ますかぁ?って感想だ.取りたい案件には積極的.LSIの値段は普通.
ローム:
判断高速.採算性の精査なんかそこそこに、この契約を取るべきだという意志決定に従い、ガンガンと攻めて来る関西商人.日本企業と言うより中国企業的な小回りの利く動き.大規模ロジックLSIは扱ってないが、アナデジ混載LSIが得意で値段は安い.
LSIロジック:
おれは好きだなぁLSIKKの雰囲気.かつては日本に開発部隊があったようだが、多くの外資系企業の例に漏れず、いまのLSIKKは営業とサポートのみ.したがって技術打ち合わせは海外で外人とやる.LSIKKはほぼ全員が転職者あるいはM&A合体者なので、日本企業の忠誠心が毛穴からにじみ出てくるようなウェットさがなく、ドライなわたしの好みと合う.
技術的には、プロセス開発は放棄して、システムLSI時代のIP囲い込み戦略に特化している.この戦略は正しいと思う.LSIの値段は、豊富なIPで集積度を高めることに成功するとすごく安くなる.
好きです、LSIロジ.一緒に仕事ができて楽しかった!
ソニー:
プロセスもIPもあまり印象ないんだよなぁ.社内向けのコンスーマ用LSIで手一杯という感じ.Cellの製造設備も売っちゃったし.う~ん、、、、
NEC:
アナログマスタースライスを少し使った程度でよく知らない.
日立:
カスタムLSIではおつきあいがなかった.
--続く-- つづく 前へ
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