2020年2月1日土曜日

【回路】電撃トランジスタ講座(小信号アンプ設計)(18) 差動増幅回路-破

差動増幅の続きです.

差動増幅の説明サイトはあまたある.それらで図示されることの多いのが、このようなエミッタ抵抗が無い差動増幅回路である.
(試しに「差動増幅回路 トランジスタ」で画像検索してみそ)

だけど、この回路だと使える場面がほとんど無いと思うんだけどな~

どうして使えない回路なのか?

【1.単なる説明素材として】
数式をふんだんに使ってする説明資料としてならこの回路の意味はあるだろう.でもそうゆうのをお求めなら教科書を読めばよいでしょう.

【2.bipola analog ICを設計するとき】
この回路は役に立たない.
IC回路ではR1,R2をあまり使わずに、カレントミラーを使うことが多い.
IC回路ではR3をあまり使わずに、電流源を使うことが多い.

【3.OPAMPを自作するとき】
OPAMPの初段はこういった差動回路である.そういう意味では価値はあるのだが、、、そもそもOPAMPをディスクリートパーツでプリント基板上に形成する意味がないと思う.素直にOPAMP ICを採用するのが吉でしょう.強いて言えばオーディオアンプを自作するならこの回路も役に立つとは思うが.

【4.ちょいと10倍ぐらい増幅するとき】
プリアンプの差動出力をAD変換したい.だがプリアンプ出力電圧が小さいので10倍ぐらい増幅したい.たかがそのために数100円もする高周波OPAMPを採用するのは忍びない.ならばディスクリートパーツで差動AMPを作れば安価で良いではないか.
しかし上の回路はゲインが大きすぎて使えないんだよ.

simulationしてみる.上の回路に片側0.2Vpp(差動0.4Vpp)のsin波を入れたとき、出力電圧は20Vppぐらいになってサチってしまう.ゲインが大きすぎるのだ.

え~っそれじゃぁ解説サイトの回路はイマイチじゃん.なんだかな~である.

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今時のプリント基板設計はICとICを接続するのが仕事と言っても過言ではない.IC-IC接続のレベル合わせをしたり、フィルタをかけたりするのがトランジスタ回路の主な仕事である.残念ながらAllトランジスタ回路は滅多に無かろう.

なので、「ちょいと10倍ぐらい差動増幅」するやり方を知るのが設計者にとってのお役立ち情報だといえる.

10倍増幅回路を示す.エミッタにR4R5が追加された形だ.
   ゲイン = コレクタ抵抗/エミッタ抵抗
というのはコレクタ接地増幅で説明したのと同じ考え方である.
   ゲイン = R1/R4 = R2/R5 = 1k/100 = 10倍
simulationしてみる.入力片側0.2Vpp → 出力片側2Vpp になっている.10倍だ.

それでは最初に示した回路のゲインはいくらだったのだろう?
 a) この定数だと各トランジスタには約10mAが流れる
 b) 連載14回で述べた通り、エミッタ抵抗は2.6Ωである
 c) ゲイン=1000/2.6=384倍 と計算され、あまりにも巨大ゲインすぎる
この回路のDC設計の手順について軽く触れておこう.
 1)ベース電圧は0Vdc
 2)エミッタ電圧は-0.7Vdc
 3)R3の電流は、(20-0.7)/1k=19.3mAdc
 4)Q1Q2に分流するので各トランジスタの電流は19.3/2=9.65mAdc
 5)コレクタ電圧は、20-(9.65x1k)=20-9.65=10.35Vdc
 6)最大出力電圧は10.35Vdcを中心として上下に10V振れる程度となる

チャラッとした差動増幅解説は以上である.

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最後に付記しておきたい事がある.
SPICEの記述をご存じの方なら判ると思うのだが、ベースに接続されたsin波発生器のこの記述により、入力信号は差動である.
つまり上で説明したゲインとは、差動ゲインなのであった.

だとすると、同相電圧を入力したときにはどんなゲインでどんな出力信号が出てくるのだろうか?

そこのところを次回説明しよう.

かしこ

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