わたしがB787の運行停止というニュースを知ったのは千葉方面で仕事中でした.一緒に働いている人に「運行停止だって」と言ったら、その人が「リチウム電池ですから」と教えてくれました.「ええっ、飛行機にリチウム?そりゃダメだわ」とうめいてしまったわたしでした.
B787の部品信頼性は6シグマで品質保証されているんじゃないかと思います.6シグマとは、GMの社長が書いた本で有名になった管理手法で、部品不良率を100万分の1にせよということを数学的に表現したスローガンです.それを経営手法にも敷衍して、99.9999%勝てるビジネスだけを残して残りは全部売り払えと言いたかったんじゃないかしら? あの本は読んでないけど.
数学的に、とはどういうことかというと、たとえばある部品を100万個用意して寸法を測定します.当然寸法はばらつきます.寸法の標準偏差をσ(シグマ)とします.
すると、
・ σを超える寸法誤差を持つ部品の出現確率は約32万個(32%)だと推定できます
・2σを超える寸法誤差を持つ部品の出現確率は約5万個(5%)だと推定できます
・3σを超える寸法誤差を持つ部品の出現確率は約2600個(0.26%)だと推定できます
・6σを超える酷い寸法誤差を持つ部品の出現確率はたったの1つだと推定できます
というわけで、6σを超える酷い寸法の部品でも使いこなせるような機械装置を設計すれば、滅多に部品不良で悩まされることがなくなって幸福になれます.あるいは、部品の寸法誤差σをすげえ小さくできる優秀な加工装置を発明できれば滅多に部品不良で悩まされることがなくなって幸福になれます.
ここで、標準偏差と不良個数がなんでリンクするのか?と思われることでしょう.それが正規分布と呼ばれる数学モデルで、部品を削ってできた寸法誤差は「たいてい正規分布すると思ってよい」という一種の宗教があるんです.まぁ実際に確かめてみると切削部品に限らず抵抗値とか熱雑音とかいろんな事象が正規分布しているんでしょう.
正規分布曲線が下図です.横軸が寸法.縦軸が出現個数.μは平均寸法.この曲線から、次のことを読み取れます.
・±σの範囲に68.26%が入るので、逆にσを超える寸法の出現確率は約32%
・±2σの範囲に95.44%が入るので、逆に2σを超える寸法の出現確率は約5%
・±3σの範囲に99.74%が入るので、逆に3σを超える寸法の出現確率は約0.26%
これが上で述べた寸法誤差と出現確率がリンクしているという仕組みです.
数学的に、、、というハナシをクドクド述べたのは、正規分布を信じる宗教があると言いたかったからなのです.それは宗教ですから、正規分布しない事象も数は少ないけどあるわけです.
787の開発において、リチウムの危険性がどれだけかと議論する過程で、電気部品の不良確率を正規分布すると信じてあれこれと計算して、総合的にリチウムの発火リスクは無視しうるくらい小さいと数学的に結論づけたのだと思います.しかし、リチウムの不良確率が正規分布するとわたしは思いません.ポアソン分布とかいう宝くじとか交通事故のような滅多に起きない事象を表現する数式もあるようで、リチウムはポアソン分布じゃないかなぁ?
リチウム電池を製造するときに電解液を含む素材とセパレータをロールケーキのように巻きます.その時に空気中の塵が混入すると、その塵が核になって金属リチウムが析出するのか、塵自体がセパレータを突き破るのか、そんな事象を確率計算することができると思いますか? もしかしたら原因は塵ではなくて、セパレータが含む不純物が核になって金属リチウムが析出する可能性すらある.そんなunknownでミクロな事象の不良確率を何パーセントとはじき出せるわけがないと思います.
787で機体の軽量化が開発プロジェクトの重要要件になっていたことは想像に難くなく、バッテリーチームの面子にかけて小型軽量であるリチウム電池の採用を働きかけるべく理論武装して、アンチリチウム派を論破したのでしょう.
けれど、そこで開発リーダーの度量と技術的歴史観が試されたのではないでしょうか? 残念ながら787の開発リーダーは「リチウムはダメだ.将来に禍根を残すくらいなら、他の分野で達成した軽量化が帳消しになろうともかまわん!」と言えなかったのでしょう.
機械装置なら故障部品を特定し、摩耗か金属疲労を顕微鏡で検証して不良撲滅することが可能ですけど、発火したリチウムの現物をミクロに解析するのは不可能でしょうし、意図的に発火ギリギリのサンプルを作ることも恐らく難しい.検証も再現も困難である部品を将来への禍根と言わずしてなんと言えばよいでしょう? 開発リーダーはそういう技術的歴史観を備えているべきだと思います.さすれば、リチウムの発火確率の鉛筆なめなめさを研究者の戯言と一蹴できたのではなかったか?
787の年度内運行解禁は絶望的というニュースもありますが、その可能性は高いと思います.Ni-MHに載せ替えて型式証明を取り直すのが急がば回れではないでしょうか?
787のリチウムでは、わたしがソニーのインチキ研究者の戯言と闘っていた日々を思い出してしまい、思わず熱くなってしまうのです.
787のリチウムでは、わたしがソニーのインチキ研究者の戯言と闘っていた日々を思い出してしまい、思わず熱くなってしまうのです.
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その2読ませて頂きました。3σは、習いましたが、6σは、習いませんでした。聞いた事が有ったかも?、計算上は6σで設計
返信削除したから安全を保障すると言う物でも無いですね。実際の使用部品が、その設計値を満たしているとしても、モデリングの選び方などにより真の部品の信頼性に成ってい無い事から、事故に成る事も有ると言う認識する必要が有りますね。
改善策としては、とことん原因分析し改良し最善の対策を
する事が必要と思います。難しいですね
最善とは、何でしょうか、またレベルは、等々?
いつも、面白く読ませて貰っています。
返信削除小生も少し、信頼性工学を学んでいたもので、ちょっと一言。
リチウムバッテリーが取り扱いを誤れば、即発火、爆発するという危険なものであることは、関係者には十分わかっていたはずで、そうならないような一定の安全対策(気圧、温度などの環境管理、充放電管理、不良セルの自動分離など)をとった上での導入だと仮定します。
すると、このところの連続したB787電気系の故障(以下リスト参照)は、
平坂さんの心配されるような、単なるバッテリーの非常に稀な不良確率で起きたのではなく、もっと別の過酷な要因がバッテリーにかかって、次々にやられたと考えるほうが自然ではないでしょうか。
2011年11月6日 岡山空港着陸時に主脚が出ず、手動に切り替(ANA)
○2012年2月29日 山口宇部空港で電気系統に不具合で欠航・遅(ANA)
○2012年3月3日 山口宇部空港で電気系統に不具合で欠航・遅(ANA)
2012年9月5日 岡山空港で後方エンジンから白煙 (ANA)
2012年9月27日 油圧不足で羽田空港着陸後、滑走路上で停止(ANA)
2012年10月23日 山口宇部空港で地上走行中に燃料漏れ (ANA)
○2012年12月4日 電気系統に不具合、米国の別空港に緊急着陸(UA)
2012年12月24日 操縦席の窓ガラスにひび、岡山空港に引き返(ANA)
◎2013年1月7日 米、ボストン空港でバッテリーから出火 (JAL)
2013年1月8日 米、ボストン空港で離陸前に燃料が漏出 (JAL)
2013年1月9日 山口宇部空港でブレーキ不具合で欠航 (ANA)
2013年1月11日 松山空港に向かう途中操縦席窓ガラスにひび(ANA)
2013年1月13日 成田空港で整備中に燃料漏れ (JAL)
◎2013年1月16日 飛行中に操縦席に煙が充満、高松空港に緊急着陸(ANA)
「別の過酷な要因がバッテリーにかかって」
削除そうかもしれません.システム要因であってほしいと思います.リチウム自体が自然に燃えたんじゃないのか?というオカルト説はわたしの直感ですので.今後の調査で覆ることを祈ります.
ただ、どうにも解せないのは、たとえばバッテリーの過負荷を防げないようなプアな似非フェイルセーフシステムしか装備されぬままで787がリリースされたのかしら? あるいはたかが過充電を防げないようなプアな似非フェイルシステムしか装備されぬままで787がリリースされたのかしら? と考えると、「やはり解せぬ」という最初の疑問に舞い戻ってしまい、フェイルセーフが効かなかったのは「通常使用にも関わらずリチウムが燃えだした」というオカルト説にまだしも信憑性を感じてしまうわたしです.
リチウムの燃焼防止のフェイルセーフで、バッテリーモジュールを気密にして窒素で封印するというのはどうかなぁと思いました.溶融防止は不可能でも、延焼防止の役には立つかもと思いました.脱酸素剤でも同じ効果が得られるかも.
今後の調査結果を楽しみに....
こんばんは 酸素を遮断しても バッテリー系内部で発熱が有り
削除あんなに集積していると、もう止められません。
15年ほど前から電電公社製のバッテリーをオリンパスのカメラで利用してきました。
つい最近まで使えたのですが、カメラの方がアボーンとなって、今はCANON-G2を使っています(ホンとはみたらし団子が好きく無いので使いたくはないのですが)
ほかにもFUJIやキャノン、オリンパスのがらくたがそばに転がっていますが、どれも問題はリチュームバッテリーです。
ひょっとしたらプリンタインクと同じ考えで作っているのかと疑っています。
ごく最近FUJIーファインピックスを入れたのですが、画像(ハニカムタイプ)には満足できても、本体の軽薄さを見るとげっそりします。
この機種もリチュームで、3.7vです。バッテリーは高いので、横にグリップ兼バッテリーホルダを付けてアルカリ乾電池かNiHeを入れようかと本気下考えています。
もう一点燃料漏れとか不可解な事故が多いのは、サボタージュを仕掛けられているのかと疑ったりもしています。
やはりメルトダウンは止められないw
削除想像の域で申し上げますが、電気室の温度は低く、充放電に適した温度環境では無い事を
返信削除想像します。この様な環境下では、充放電に適さないと思われます。
飛んでいる時は、充電と聞きますが、低温下では、性能は十分発揮する事は出来ず、
過放電と成る事も考えられるのではと素人考えが浮かびました。この段階で発熱し
既にセルは損傷していたのでは??
発火の最初は、Pinホ-ルくらいの火種から、爆発的発火に進行していった。
リチウムイオン爆弾の様に。
誇張的表現が有ります、減額査定的で読んで下さい。
「低温下では過放電」
削除性能傾向的にはそうだと思いますが、それが放置されていたとしたらあまりにもタコいなぁ.自動車の信頼性にも劣るバカバカレベルですね.もしも低温挙動の検証と対策が織り込まれていなかったとしたら対処は比較的早期にまとまると思います.そして、そのバカバカちゃん達は粛正されるのでしょう.軍事・宇宙技術に下支えされたUSAの航空宇宙産業の信頼性工学の卓越さは世界一と思うので、もしバカバカちゃんレベルだったら驚いちゃいます.
「Pinホ-ルくらいの火種から」
電解コンデンサのことをふと思い出しました.
電解コンデンサに過電圧をかけると、最終的には破裂するわけですが、その前段階でピンホール的に絶縁が破れるのだそうです.でも、物性的にうまいことできていて、そのピンホール的絶縁破壊がプシュッと起きたら、その場所は絶縁体に化学変化するので絶縁破壊が加速度的に進行しにくいようになっていると、むかし本で読みました.
匿名さんが事故を時系列まとめてくれました。年間14件の数です、飛べば、1か月に1回の
返信削除割合です。
私は、ATMEL ATMEGAXXX(AVR)CPUを使用した実験回路で、様々な、ERRORを経験しました。
電源の投入をDC Pulug挿入で+5Vを供給していて、上手くresetが掛からない。
電源回路の状態(規格値外部品の使用、パスコンの未接続、etc)動作が不安定
LED負荷抵抗の小さ過ぎにでISP接続が出来ない(PB7,6,5 Clk,Miso,Mosiの過負荷)
など、電源異常は、いろいろな症状を呈する事は、確かです。
14件の故障が全て電源不良が原因とは、言えない様な気もします。
故障を1件1件丁寧な原因解析をしなければ、安全だとは言えないでしょう。
燃料漏れの原因、バルブOpen何て、モニタは出来ていないのでしょうか?緊急着陸に備え
マニュアルでOpenに出来る様な事は想像出来る。幾つかは、パイロットの失念も有る様な
バルブOPENはバグですかね?
削除昔の飛行機の機内でNoteパソコンの使用は、制限されていたと聞いていますが。
返信削除この飛行機の場合はどうなのでしょうか?
電子化率が高くなると、機器間のNoise対策も十分にする必要も有ると思われます。
どんなNoise Testをしているのでしょうかね。
Noise シュミレ-タでは、OKに成る事が多いですね。
ケータイは一頃ほどはうるさく言わなくなったような気がします.
削除PCはどうだったかなぁ、忘れました
携帯の電話の電池もLi-ionからリチュムポリマ-へと移行の動きが有るのでしょうか?
返信削除リチュムポリマ-は、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%9E%E3%83%BC%E4%BA%8C%E6%AC%A1%E9%9B%BB%E6%B1%A0
今日のNHK 1Ch 7:30からクロ-ズアップ現代、トラブル続発B787夢の旅客機に何が
を見てみようと思う。原因究明は難航しているとの事。
あぁ、もう放送終わってしまいました.
削除昔の知識ですが、いまはリチウムポリマーが主流かと思っています.
ホントかな?