2020年6月4日木曜日

【回路】電撃トランジスタ講座(小信号アンプ設計)(24) リミッター

久しぶりの電撃トランジスタ講座です.    →INDEXはこちら

リミッターというと、自動車かエヴァンゲリオンについてます.トランジスタ回路にもリミッターというのがあるんですね.

どんな回路なんでしょうか?
出力にトランジスタのエミッタが接続されていて、OUT電圧がエミッタ電圧以上になるのを阻害します.そうすることでリミッタをかけます.
回路1
↓緑色の正弦波が、ピンクのようにリミットされてます.このsimulationでは1kHzです.

リミットと言ってもダラーッとしてて気分が悪いのでそこは要改善です.リミッタの命はキレですからね.

改善方法その1
キレが悪い原因は、ベースインピーダンスが大きい事によります.リミッタがオンオフする時にはトランジスタがオンオフしています.トランジスタがオンオフするには、ベース領域に蓄積した電子や正孔を素早く出し入れしてやらなくちゃいけません.そのためには、ベースインピーダンスを小さくしてやればいい.
回路2
 回路1では10kΩだったR2R3を100Ωにしてみましたらこの通り、キレが良くなりました.
でもこの回路には欠点があります.R2R3が100Ωですから電流がドカドカ流れるので無駄な電気を喰うのです.

改善方法その2
R2R3を10kΩに据え置いたままで改善することが可能です.ベースにコンデンサC1を追加しますと、高周波インピーダンスを小さくできるのでキレが良くなりんす. めでたい.
回路3

改善方法その3
リミッタ動作の根本に立ち返ります.
電圧制限は何によってもたらされるのか?
この回路はR1が10kΩです.トランジスタON時のエミッタ抵抗はおおよそ1Ωぐらいです.この10kΩと1Ωの抵抗分圧が電圧制限すなわちリミッタを実現します.4桁もあるんでキレが良いです.
回路4
ところが回路1~3を振り返るとR1=100Ωにしてありました.リミッタのキレを良くするには10kΩにすれば良いはずなのにどうして100Ωにしてたの?

その疑問にお答えします.

プリント基板のエミッタパターンの浮遊容量が10pFあると仮定します.10pFと10kΩが形成するLPFのカットオフ周波数を計算すると、1.6MHzです.なぁんだ、信号が1kHzなのだから1.6MHzで周波数が頭打ちでも全く問題ないや.はい、その通りです.オーディオ帯域ならOKですねー
しかしビデオ回路だと周波数帯域は昔のSDでも10MHzぐらい必要でした.なので1.6MHzじゃぁ全然ダメだわって事になりますねー
そこで、R1=100Ωにしたらどうなるか? 10pFと100Ωが形成するLPFのカットオフ周波数を計算すると、160MHzです.このくらいだとビデオでも安心です.

ビデオ回路の周波数帯域ですと、トランジスタの選定にもケアするべきです.
Rohmのトランジスタで、こうゆう2つがあります.ftが高いトランジスタを選びましょう.
     2SC4081     ft=180MHz
     2SC4083     ft=3.2GHz
2SCはNPNです.PNPでGHz級のトランジスタが欲しいです.でもね、2020年にはもう買えないと思います.ディスクリート小信号PNPトランジスタでGHz級の製品はもうどこの会社も生産してないと思います.digikeyで探したけど、もうないのよ.恐ろしいことだ.

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下から上げるリミッタ
回路1~4は上から潰すリミッタでしたけど、下がるのを禁じるリミッタも作れます.
こんな回路.NPNを使います.
電圧が下がろうとすると+電源から電気が流入れ込んで電圧下落を食い止めます.

コクがあるのにキレがある.

かしこ


2 件のコメント:

  1. その昔、私はオーディオ回路の設計をやっていたのですが、
    「ミュート」回路に、この回路の変形版が使われてましたね。
    ※最後の回路の、V2 = 0V(GND) にした奴。回路図で見ると、
    「コレクタが、GNDにつながっている」ので、最初
    「回路が間違っているのか」と思っていました・・・

    ※ちなみに、動作としては「コレクタとエミッタを逆」にしても動きますが、
    ミュート時に、盛大にノイズが出ますw

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    1. そうですねmuteも同じよな感じで.
      今じゃmuteやvolumeはdigital処理しちゃってるのかも.

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