2022年12月12日月曜日

祝、トランジスタ技術 創刊700号(4)付録の創刊号を見る2 HiFiアンプ

わたしがご生誕される3か月前に産声を上げた「トランジスタ技術」は58年を経て700号だそうです.

今回もトラ技付録の創刊号復刻版を読んで行きます.

「中出力HiFiアンプの製作」という記事があるのですが、これがイイ味わいなんです.

味わいとは、真空管っぽい半導体回路というところ.

製作写真を見るとユニバーサル基板じゃないんです.ラグ板の空中配線.半導体黎明期って感じがする.ヒーター6.3Vは何処ですかー?
↓回路はこれ.
たぶんGeTRです.当時は@500ぐらいしてたんでしょ.S39頃の煙草って30-40円で買えたかと思うので、TR1つで煙草10個買えちゃう相場感の素子だったと思われます.それだけ高価な物ですからTR個数を少なくしたい、との思いが伝わって来ます.そういうところも真空管っぽい.
この構成はほどなく廃れて、数年後には初段差動で2段目界隈にカレントミラーが使われるような、opampの簡易版がオーディオアンプの定番になったと思います.これは半導体黎明期の一過性の構成だと思われ、こんなものを見れて嬉しいです.

それと、バイアス抵抗が、DCV設定とACゲイン設定を一緒にやるようになっていて、抵抗にコンデンサを抱かしています.これも真空管っぽいです.フィルムコンの単価よりTR単価の方が下落著しいのが時代の趨勢ですから、信号パスコンは使わずにカレントミラーで処理したりDC直結したりするのがその後多く目にする回路になりました.

電源ハムノイズはR8やR9で食い止めようとしているようです.

そして謎なのは、5kΩや7kΩのような、非E系列の定数だって事です.昔の定数はこんな値だったのでしょうか??

どんな動きなのかをSPICEでsimってみました.
↓とはいってもゲルマニウムTRなんかmodelがないのでシリコンTRで代用します.Vbeの違いを調整するために抵抗値をいじったのと、終段バランス調整でも抵抗を変えました.
PNPだから回路図上方の電源がー43Vなので不慣れで見づらいです.
Q1のゲインは定数から25倍だと判りますが、Q2はTRの生のゲインですから出たとこ勝負.したがってsimが正しいかも不明であります.
Q3Q4はバッファにDC電圧調整を同居させていて、抵抗値の調整に苦心しそうです.
Q5Q6はPNP SEPPですが、コンプリメンタリSEPPでない理由は、当時のGeTRの製法都合でPNPが主流だったからでしょうかね?

とりあえずSPICE回路図の定数でsimったところ、gainはこうなりました.
 open loop gain 170倍 45dB
 closed loop gain 40倍 32dB
ゆえにNFBは13dBと少な目です.
↓2次3次高調波が-40~-50dBぐらいなので、NFBが浅いわりに歪みは1%内外のようです.(@2W to 8Ω) もっともsimの歪率は実機よりも甘く出るみたいなので眉唾かもですが.
↓f特はこんな感じでよろしいと思います.C6で高域cutoffを調整できます.

といわけで、昭和39年のゲルマニウムトランジスタによる真空管っぽいアンプ回路を楽しめました.

かしこ

9 件のコメント:

  1. 津久井街道でハードオフまで2022年12月13日 12:39

    Tr6が出力ノード(C8の左側)のバイアスを決定しているんでしょうね。その前に、C6とVR2がループのVR2を調整するとTr2のバイアス電流が変わる(出力ノード(C8の左側)のバイアス調整が目的だと思いますが)ので、Tr2の伝達コンダクタンスはほぼリニアにVR2に依存する(したがってTr2段のゲインが変わる)ので、VR2を増加させると、ゲインがその分あがり、C6へのミラー効果が大きくなり、メジャーポールは下がり、位相余裕は変わらないのか、などと考えているうちに気力がつきました。後段のバイアスまで考えられない。なお、本解析は個人の妄想です。

    返信削除
    返信
    1. わたしも気力がもちませんでした.それでsimっちゃったわけでした.
      VRで動作点が後ろの方まで変わるんです.だけどだけど...w

      削除
  2. murasaki
    そういえばトランジスタの回路図記号っていつからQになったのでしょう。自分が手書きで回路図引いていた時はTR(Tr)だったような。シルクもTRにしていた気がします。っていうかQって何の略称なのでしょうか。

    返信削除
    返信
    1. そういえばQってなんだ? なんの陰謀だ?

      あと、S39当時の回路図って、定数を記入しないで、別途部品リストがあるパターンだったのかな.回路図と部品リストを行ったり来たりせないかんのでめんどくさいです.

      削除
    2. murasaki
      うーん、定数がはいっていないと回路図にならない気もしますが・・。当時ならではの事情とかあったんですかね?
      QになったのはCADが普及し始めたころのような気がします。ICもそのあたりのタイミングでUになったような。記号を1文字にしたかったのかも。それでもトランジスタがQとは意味不明。ICのUも不思議。

      削除
    3. 定数不記載はTRの個別調整のために10〜50kΩなどと決まらんからなのかな????

      削除
    4. 調べたらQの由来はQuarts結晶だとか。

      認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものを。

      削除
  3. 漸く、私も「トラ技 700号」を、入手しました!
    (ちなみに、2023年1、2、3月号は、3号連続で特別企画を載せるそうです。)

    「温度補償サーミスタ」が、入ってる回路なんて、久しぶりに見ました。
    (いつ頃から、使われなくなったんでしょうか?)

    「トラ技創刊号」は、「トランジスタ技術」の割には、「真空管を使った回路」が、結構載ってますね。やはりまだ、
    「オールトランジスタ化」
    出来ない、時代背景があったのでしょうか。

    返信削除
    返信
    1. ¥1200お買い上げありがとうございます!

      >3号連続で特別企画

      それは続きますなぁ.おめでたが.

      そしてサーミスタですよ.苦労してますねー
      自分が回路作るようになってからTRの熱暴走は基本的にケアしてません.わざわざサーミスタで保護するほどの回路は作った事ないですね.終段とドライバ段のTRを熱結合させるぐらいは製作記事でみたことありますけど.

      トラ技創刊の時期は、お小遣いでアンプ作るなら真空管の方が安上がりだったかもしれませんね.真空管部品の手持ち在庫も豊富に持ってたでしょうし.黎明期.

      削除