2023年11月21日火曜日

「すずめの戸締り」のどこがダメなのか?

「すずめの戸締り」のどこがダメなのか? 今回はそれをお教えしよう.

ダメというよりも凡庸な作品だというのが正確なのだが、すずめに惚れ込み状態な者がとりわけ若年層に多い.あんなのは惚れ込むような対象物じゃないぞ、という気付きを促すのがこの投稿の目的だ.

ーーーー
映像作品とテーマ性

少々迂遠な話題から入るが、我々は言語で教育を受けて育ってきた.

そんな我々なので、映像のリテラシを持っていない人がほとんどだ.映像を映像のまま理解し愉しむことは実は苦手だ.ならば映像を理解できない者が映像作品を見るときにどうやって理解しようとするか? テーマを見るんだ.
つまり、
 映像作品→映像のまま楽しむ
のではなく、
 映像作品→テーマを見出す→言語化する→言語なら理解できる→楽しむ
という脳内作業で頑張るわけだ.

「何を言いたいのかわからない」という感想に晒される作品がある.そうゆう作品の多くがテーマが無い作品だ.
「テーマの無い作品なんてあるわけない」などと思ってはいけない.無テーマの作品は多くはないが存在する.

↓たとえば、ハリウッド映画「セッション」にテーマなんか無い.
↓「ブレードランナー」のテーマは何か?などと考える必要は無い.テーマなんか無いからだ.まさか「人造人間の悲哀」とか言わんよな.仮面ライダーじゃないんだからさ.
↓ひら的にガチで「いみわかんねー」だったのは「マルホランドドライブ」だ.テーマ云々以前にstoryすらわからんかった.リンチやってくれるぜ.脱帽.
無テーマ作品は言語化努力などせずに映像のカッコよさを愉しむのが正しい.ところが「カッコいい映像って何?」という人が大半なので無テーマ作品にはあまり客が入らない.客が入らないので制作本数は少ない.そんなloop.

ちなみにホラー映画はいずれも無テーマだ.
↓まさか「遊星からの物体X」にテーマがあるとか云う奴は居ないだろうさ

さて、日本のアニメで無テーマ作品ってどれだけあるだろう?

TVアニメだと「another」「シグルイ」あたりがふと浮かんだ.あのまま受け入れて見るしかないだろう.両者共ホラー系.

アニメ映画では「BLUE GIANT」が近いかなと一瞬思ったが、音楽演奏を通じた若者の成長物語だから無テーマとは言えないな...取り消し~.
あ、思い出した.「BLOOD THE LAST VAMPIRE」は完全な無テーマだ.ホラー作品の一種.上質な映像を愉しむべし.オススメ作品だ.

さてここで新海誠が登場する.

新海誠の作品を2つに分ける.
1)インディーズ時代 「言の葉の庭」まで
2)メジャーデビュー後 「君の名は」「天気」「すずめ」

インディーズ時代の新海誠は、無テーマ系を作ってきた数少ないアニメ作家だった.ただし「星を追う子ども」は長編で例外だが.

インディーズ時代の新海としては、映像作品をなんでもいいから作りたい衝動に突き動かされ、都度個人的な達成目標を決めて遊んでたように思う.フツーのアニメ制作者はそんなノリでは仕事させてもらえないのだが新海は自分で企画して自分で集金して自分で作ってきたから「個人的な習作」でも作れた.そのセルフプロデュース能力は商業アニメーターや商業アニメ演出家には類例がない.(駄作で消えていった一発屋ならいろいろ居るけど...)

新海誠の評価は後でまとめるとして、彼の高評価ポイントはこのインディーズ時代にこそある.

ーーーー
非凡な「言の葉の庭」

興行収入はさておき、フィルムの上質さでは「言の葉の庭」が新海のベストだ.

軽度メンヘラの女教師と、高校生なのにしっかり者で世知に長けた男子との出会いを淡々と、ある時は冷淡に、ラストシーンでは情感豊かに描いた。

言の葉は「なに言いたいのかわかんねー」と評される事が多い.テーマが無いからだ.

その代わり、一つ一つのカットに二人の関係性が濃厚に意味づけされている.
都心で垣間見られる自然の描写が優れている.EDの鳥の群れはどうやって作ったのかなと思う.
心の動きと自然を情緒豊かに描いた非凡な作品だ.しかし、都心の自然を描いたってそれを味わって褒めてくれる奇特な奴なんかほとんど居ない.でも新海はセルフプロデュースだから実現できた.

「言の葉」は江國香織の短編恋愛小説みたいな作品なのだと思う.恋のワンシーンを綺麗に定着させた作品であって、大河ドラマではないし、悪者が襲ってくるとかもない.だからといって江國香織はくだらないなどとは誰も言わないだろ.(あの「デューク」って現代国語の教材になってるみたいだね)

「言の葉」はアニメ業界のPからも評価高かったんじゃないのかね? 次回作でメジャーデビューに至ったのだから.

ーーーー
掛け値なしの新海誠の評価とは?

わたしの好き嫌いで言えば新海を好きだけど、客観的に査定してみよう.

1)真似が多い
市販第1作の「ほしのこえ」はまるで「トップをねらえ!」だった.浦島効果による離隔を描いた.「星を追う子ども」は強いジブリ臭の失敗作.「ほしのこえ」は処女作品なので「トップをねらえ」にインスパイアされたで済むとは思う.だが「星を追う」はいただけない.つまんねし名折れだ.あんなの作っちゃダメよ.

2)器用である
真似することに躊躇いが無いからだろうか、器用に先人の知恵を拝借できる.
メジャー作では投資家に損させないように立ち回る能力も有する.

3)無テーマ作品は上手いが、story作品は下手
新海は映像クリエイターとして優秀なのであって、映画監督や脚本家としてはそんなでもない.

4)ジャパニメーションの重要人物?
そこまでの能力は無い.持ち上げられ過ぎ.mediaが作る虚像だ.それでも細田守よりはマシだがな.

5)わけわからん
「秒速5cm」は人々を困惑させたみたいだ.小学生の時の彼女を忘れられない男性が、高校生、社会人になっても未練を引き摺る姿を描いた.ラストでは、大人になった彼女が別の男と幸せになったのならそれでいいかと吹っ切れる.
何が判らないって、「そんな話を作る理由」が判らないだろ?
きっと新海という作家には、状況描写欲求はあるが、その状況が纏う意味にはあまり興味が無いんだと思う.それは映像クリエイター気質であって、演出家気質じゃないのだと思う.演出家気質ではないからstoryものを作るとおかしくなる.
わたしは「秒速」は好きであるが、「天気の子」の水没ラストはさすがにおかしなラストだと思った.それでもあのイミフさが新海節なので悪い気はしなかったけれど.

6)清澄で高コントラストな画
「秒速」まで一貫してそういう画を作っていた.今でもあの画を新海誠と思う人は結構いるのではないだろうか? だけど秒速よりも後の作品では明度の高い画に切り替えて今に至る.なんでやめちゃったのかなと少し思う.

7)謙虚である
メジャーデビュー後はエゴを押し殺して作っている.
「君の名」を視聴者サービス満載な作りにした.ああいうのはそれまでの新海の作風からは考えられなかった.メジャー初の作品なので失敗するわけにはいかないとの使命感が在ったのだと思う.よく頑張った.
「天気」も「すずめ」も投資家を損させないようにケアしている.

以上をまとめると、新海を褒めるところってそんなにないんだよ.
・映像クリエイターとしては優秀
・投資家に損させない謙虚さ
・オリジナリティはそんなにない
・結構わけわからんものを作る
・story作品では馬脚だが視聴者をチャラく騙すのは上手い(のだろう)

ーーーー
「すずめの戸締り」の凡庸さ

いやもう、退屈で何も褒めるところがなかった.

2つ指摘する.
1)情感描写を捨てたあらすじ映画
2)出来の悪い伝奇小説

1つめ.「言の葉」で優秀だったような情感描写をなぜかやめちゃってた.結果としてあらすじ映画になってしまっていた.
東京まで旅してきた女子の目に、高層ビルの谷間から朝日が昇るような描写を挟んでこその新海節なんだが、さっさと目的に邁進してた.新海よ肩に力が入り過ぎだろ、と思った.あーぁ、凡庸なものを作っちゃった.
ただねぇ、映像リテラシの無い視聴者にとっては主観描写の無い「すずめ」のような作風のほうが脳が疲れなくて楽なんだ.あーぁ

2つめ.すずめに惚れ込み状態の若者には「神話の引用構造が優秀」という理由を述べる者がいる.これねぇ、困ったもんなんだよ.

昭和50年ごろ、「伝奇小説」「伝奇SF」というジャンルが流行した.古いジャンルなので若者が知らないのは当然である.半村良は伝奇小説家として代表的.短編含め著作多数.マンガでは諸星大二郎の「暗黒神話」がド直球の伝奇モノだ.わたしは伝奇が大好物なんだ.
伝奇モノというのは、日本古来の神話をモチーフとした空想小説のこと.「すずめ」に出てきた「要石」なんかも伝奇モノのキーアイテムなの.「すずめ」は伝奇の一種なんだ.

すずめは伝奇モノとして優秀なのか?を考えてみる.

「神話の引用構造が優秀」っていうのは、伝奇モノだったら当然のことだ.褒めるpointじゃないんだよ.ピアニストに「ピアノお上手ですね」と言うような間抜けな評論なの.なんだかなぁって思っちゃうよ.

それでな、伝奇小説大好きなわたしがすずめを見ていて、要石を外したら地震が起きてしまう.それで大スペクタクル.市井の人々の生命と財産を人質にとったスカスカの感動ポルノでしかなかった.伝奇モノとしての出来もどーということはない.アニメテクニック的にもフツーのレベル.

で、わたしの得意な決めゼリフ.
日本のアニメ制作リソースを動員すれば出来てしまう水準の作品.ちっとも超えてない.

結論:すずめは褒めてやる必要なんかない凡庸な作品である

すずめは、脳が疲れやすい奴らへの介護食な.薄口で美味くない.そしてそれこそがメジャーデビュー後の新海誠の凄味でもある.つまんねぇけど.


ちなみに、要石は鹿島神宮界隈で見れるよ.

かしこ

11 件のコメント:

  1. なるほどですね にわかの自分からすると、勉強なります
    投資家に損させない謙虚さ
    ここ、鋭い
    評論のジャンルで薄い本でたら買いにいきたいです
    トップを狙え これ持っている人がいてお宅で何度か見ました。
    ショートムービーよいです

    返信削除
    返信
    1. 薄い本 →ないないないない →売れない売れない

      ここでホザくだけにしときますわー

      今の映画業界で監督としての新海は黒マグロ大トロ級の良好投資案件じゃなかろうかと思います.
      作品としての黒マグロ大トロ案件は「ONE PIECE」「コナン」でしょうか? 「スラダン」も?

      削除
    2. 新海案件を投資にベタ誉めですね。
      新海の映画配給会社は、収益よさそうです。
      コナン スラダン 腐女子案件?がならぶのは、なんとも、腐女子パワーおそるべし。

      薄い本の買う場所がまたひとつ減った いや、増えてないから

      削除
    3. CoMix Wave Filmsと東宝ですねー.金の卵を育成できました.おめでとさんです.

      削除
  2. この記事まとめてそのまま本にならないかと 来年夏に勝手に期待しているフアンであります

    返信削除
    返信
    1. いや~ないないないない..... 印刷代ペイしませんー

      削除
  3. スズキです。4月から始まるのかな?「ささやくように恋を唄う」は百合アニメ。出来が原作に追いつけばいいけれども。

    返信削除
    返信
    1. マンガ→アニメの再現性は良さそうです.
      PVのクオリティで駆け抜けてくれたらよろしいです.

      削除
  4. 連投ごめんなさい、スズキです。「言の葉の庭」は好きな作品ですが、特にストーリーはありません。ストーリーのない映画が好きです。映画にはストーリーとかなくても良いです。映像です。

    返信削除
  5. スズキです。いちばん好きな映画はパラジャーノフの「ざくろの色」です。

    返信削除